第49話恋愛に飢えたる魔王城
魔王城内では社内恋愛は自由とされている。リンリンは幼い頃から大衆小説の中でもラブストーリーがお気に入り。いつか自分も素敵な殿方と…そんな夢を抱いていたが、斡旋ギルドでは社内恋愛は禁止であった。
理由としては業務に支障がある。業務に関係がない。そんな理由からだ。
これまでリンリンは素敵な男性を見ても飛びつかず時には任務に忙殺され、湧き上がる恋愛欲を抑えてきた。
しかし、もう抑えることはない。
その事実がリンリンの欲望を加速させた。つまりは暴走モード。
「おはようリンリン。早いな」
「ッ!お、おはようネ!ヒバリ」
「あまり早く出勤しすぎるとアザゼル様に怒られるぞ。出勤退勤は定時十分以内。それ以上は残業を申請するルールだ」
ヒバリは規律の鬼。自分に厳しい男だ。魔王アザゼルが掲げるホワイト企業のルールは絶対だ。
「あ、はは、なんか早く目覚めちゃったアルヨ。それに元勇者の癖が抜けないネ…しっかり準備することが生き残る秘訣ヨ。油断すると…すぐ減給されちゃうから……って私暗いアルな!ごめんヨ!」
ヒバリはグリーンの淀みない双眸でリンリンを見つめる。ルールを守る厳格な性格がキリリとした顔立ちによく現れている。
「少しずつ慣れればいい。ここでは遅刻一つで不当な処分を下す輩は居ない。アザゼル様は皆が安心できる居場所を作りたいと言っていた。俺もそれに準ずる。困ったことは俺かシンに相談しろ。勿論アザゼル様でもルイーゼ様でも構わない」
ストレートな優しさはリンリンの胸を高鳴らせるのに充分だ。
「う、うん。ありがとネ。ヒバリって優しいアルな」
「そうでもない。俺はアザゼル様が決めたルールに従っているだけだ。本当に優しいと言うなら、それこそアザゼル様だろう。俺は自分の感情があまり分からない。優しくしようと思って、できていることではないんだ」
「ま、真面目アルなぁ…アザゼルからの受け売りでも今の私が救われたネ。その優しさはヒバリの優しさアルヨ」
「……そうか…ありがとう」
小さく微笑むヒバリ。それを見て頬を赤らめるリンリン。二人の間に流れる暖かくもこそばゆい空気。
を、下世話な二人組、シンとアザゼルがドアの隙間から見つめていた。
「アザゼルさんこれってもしかして…」
「あぁ。スキャンダルの予感だな」
ふふん、口角を上げる下世話上司の目論見とは――
◇◇◇
「こ、これは何アルか…」
ランチに向かった二人だが、食堂には何故か椅子がなく、ある分には人が座っている。明らかに意図的に椅子が撤去されている。
そして残る席はバルコニーのみ。しかもそのバルコニーには謎にハート型の薔薇の植木が。
「アンジュちゃん、あ、あんなの昨日からあったアルか?」
「いぇ。えっと…えぇと、社内イベント…らしい、です」
モジモジと顔を赤らめながらオムライスを差し出す聖女アンジュ。席はそこしかないが――
(いやいや、あそこに男女で座るのはあまりに意味深すぎるネ!でも、でも…あそこに座ってヒバリとランチ…し、したい。したすぎるネ!)
「あ、えっと…ヒバリ……あの席しか空いてないけど、大丈夫アルか?」
「?どこでも構わない。空いている席に座るのは当たり前だろう」
ヒバリは堅物だった。
その後も下世話コンビの策略により二人きりのダンジョン攻略や、ダンジョンの狭いボックス罠に二人を嵌めてみたり。まぁ仕事もせずにそんなことをしていた結果。
「もうっおふたりは何をされてるんですか?14時からミーティングって言いましたよね?」
ルイーゼに叱られることとなった。
「ホワイトは大事ですが、メリハリがなっていません。アザゼル様がいつも自分で仰っていること。ちゃんとお仕事してから遊んでください!」
シンとアザゼルは執務室に正座しお説教を受ける。
「いや、ルイーゼ。これは必要な事なんだ」
「必要なこと?」
「あぁ。この魔王城はしっかりホワイトになり、共に協力し働くうちに男女の絆が生まれる。普段では分からない彼の頼れるところ、彼女の良さに気づき、やがて形を変えることでより一層職場に通いたくなるんだ」
「それはつまり…社内恋愛ですね?!誰と誰ですか?!」
「今のでよく分かりましたね?!」
「実はかくかくしかじか…なんとか二人をくっつけたい」
「なるほど。流石アザゼル様。従業員の環境を整えるためにそのようなことを…」
「いやただの下世話ッスよ」
「分かりました。このルイーゼ。完璧に環境を整えて差し上げます!」
下世話組が三人になった。
◇◇◇
(ふぅ……今日はよくヒバリと二人になるアルな…私にとってはめちゃくちゃ嬉しいケド)
「リンリン。あまり一人で突っ込みすぎるな」
「大丈夫ヨ〜このくらいの低級ダンジョンで遅れはとらないネ」
言った傍からリンリンに襲いかかる魔物。ヒバリが咄嗟に魔物を切り裂くが、謎の障害物に躓き転ぶ。
「ッ」
「わっ!」
ヒバリはリンリンの上に覆い被さるようにして転んだが、両手をついたことで床ドン状態に。
近すぎる距離にリンリンとヒバリ、互いの目が見開かれる。
ドクン、ドクン
早足になる鼓動。近づく距離。
ヒバリを転ばせた張本人アザゼルら下世話組は二人のラブの行方に胸を高鳴らせたのだった。
(行けヒバリ!社内恋愛来い!)




