第46話どうしようも無い上司には蹴りを入れましょう
カイザーは指先から高速の光を放ち相手を攻撃する。対してアザゼルは蹴りや拳等物理的な部分が多い。否、まだ魔法を使っていないだけなのだ。
「お、おい…」
「あぁ。あの魔王強ぇ…カイザーの閃光を全部手で跳ね除けてる」
勇者達は目の前で繰り広げられる戦いを見つめる他無い。真実は何か。己が選びとる道はどちらか。戦いが終わればそれも見えて来るのだろうか。
「ぐっ…貴様ぁ……温泉の際は手を抜いていたな?」
「あの日はオフだからな。働かない日は働かないと決めているんだ」
「非効率だな。とはいえ、俺もまだ底は見せていない…俺は光の騎士カイザー・シュヴァルツ」
カイザーが腰から長い両手剣を引き抜く。
「か、カイザーさんが剣を抜いた…」
「未曾有の災害を産んだ暗黒ドラゴンを一突きで仕留めたっていう…光の剣っこ、ここもヤバいぞ!」
「さぁ踊れアザゼル。カイザー・レクイエム!」
カイザーの姿が消える。
ドシュッ
鈍い音と共に血飛沫が上がったのは、アザゼルから離れた勇者の体から。アザゼルの目が見開かれる。
「ぎゃっ!」
「ひぃっ!!」
続け様に二、三人。同じく刻まれる。それはアザゼルの部下だとか勇者だとかは関係無い。
「……は?おぃ、何をやってる?!」
響くアザゼルの怒号。逃げ惑う勇者たち。
「カイザーさんやめてください!レクイエムは狙いを定めず一心不乱に突き技を繰り出す最速の技!速さの代わりに誰を攻撃しているかも分からない!このままでは全員が…」
カイザーの秘書、クレアが声を上げるがそれも途中。鈍い音と共にレクイエムの餌食となる。
「に、逃げ…ひぎゃっ!」
「ッ皆さんひとかたまりになって動かない──」
ルイーゼの胸を貫く閃光。青い瞳が揺らぎ、体が傾く。
「ッルイーゼ!!!」
アザゼルが抱きとめるがそれでもカイザーは止まらない。本人も何を攻撃しているのか分からないのだ。アザゼルのこめかみにビキビキと青筋が浮かんでいく。
「はははっ!全ては俺の手駒!!役ただず共が!せめて俺の肉壁となって散れ!俺が三流だと?!貴様のような仲間に頼り下の者に頭を垂れるゴミなる奴は五流といったところか?!俺は偉い!優秀だ!優秀な奴がボンクラ共を支配する!それこそが自然の摂理!」
響く悲鳴。あまりの速さにアザゼルでも捉えきれない。攻撃をすれば全員諸共巻き込むことになる。
「や…やめ、て…イーヨル……エルザ、ナグ……みんな…死んじゃうネ…」
負傷に倒れているリンリンの瞳から涙があふれる。
「カイザー…お前は……救いようのない奴め」
カイザーは片手を一振り。その場にいる全員の体を紫の光が包み込む。
「っ?……わっ!」
次に狙われた勇者。しかし光の剣は突き刺さらず弾かれる。
「はっ、防御壁か!無駄な足掻きを!!これだけの人数だ。魔王はがら空きに魔力切れか?クソザコを守って死ぬ。三流らしい散り方だ。俺の手駒を残してくれてありが」
ヒュッ
カイザーがレイピアを突き出した瞬間だ。貫いた感触も弾かれた感触もない。見えるのは赤い髪の下で鋭く光る瞳。
躱された。そうカイザーが思うのと胸ぐらを掴まれて地面に叩きつけられるのは同時。
「ガハッ…!…なっ……お、俺のレクイエムを…見切った……?!」
ブルブルと震えるカイザーの瞳。レクイエムを見きったのは、かつて自分が扱き使ってきた勇者、シン。
(コイツ…温泉の時は俺の姿を見るだけで震えていた雑魚だったのに…ッ?!やめろ…そんな目で、そんな目で俺を見下ろすなぁあっ)
目下だと思って扱き使っていた人間に見下される。これ以上ない屈辱にカイザーが歯ぎしりをする。
「すいませんアザゼルさん。手ェ出さないって話でしたけど…我慢できませんでした」
「いや、よくやった。俺は防御壁と回復で手が離せなかったからな。優秀な部下を持った」
「な……なぜ……58番、に、こんな力……貴様っ俺を謀っていたのか?!」
「謀るもなにも、これが俺の本来の力だ。三流上司のせいで三流になってただけ。それに58番じゃない。俺は魔王城のシンだ」
「この……調子に乗るな!!」
放たれた光の剣。しかしそれは雷の矢によっていなされた。
「調子に乗っているのは。貴方の方ですわっ!」
華麗な蹴り。お転婆とも言えるミランのキックがカイザーの顔面にヒットした。
「はぁ。こんな奴に従っていたと思うと、最早黒歴史レベル…」
カイザーは垂れる鼻血と頬の痛みが理解できないようだった。
「俺の出る幕でも無かったかな。それでカイザー。君という上司が出来なかった"魔王討伐"という任務を部下に丸投げしていたということになるな?」
「ッ…何が、いいたい?」
「君は使えない上司と言うことだ」
「は……?この俺が…」
「暴力で成り立っていた主従関係はたった今崩壊した。さぁ、勇者たち…君らはどっちの未来を選ぶ?」
勇者たちの目の色が希望とカイザーに対する敵意で染まる。
カイザーの瞳はここに来て初めて絶望へと染まった。
これから自らにおとずれる、屈辱の出来事を想像して。




