第45話対比的な社長
「ほぅ。わざわざその女の無能さについて語ってくれるのか?」
「いや、魔王城に所属する、リンリンを含めた全員の優秀さの証明だ。アンジュはリンリンの手当を……ミランは左、ルイーゼは右。シンは背後を頼む」
「「「はい!」」」
それぞれ三~四人程のメンバーで固まり挑む。数の差は明白だ。
「貴様ら一人につきこちらは五人といったところだ。やはり血迷ったかアザゼル。否、貴様は手駒が死のうが操って動かせるのだったな。勇者たち。アザゼルに弄ばれる哀れな同胞を救ってやれ」
「し、しかし…本当に操られているのか…」
戦う相手は元同胞。加えて勇者たちは普段魔物か魔王しか相手をしない。同族、同胞ともなると剣も鈍る。
「シン…アイツは自分の意思なんじゃ」
シンのことを知る旧友。その呟きにカイザーの指先が制裁を加える。肩に指先から放たれた魔力が貫通した。
「ぎゃっ…」
「本当に貴様らは…グズで使えないな。見れば分かるだろう洗脳されているかどうかは。なるほど、同胞じゃ本気が出せないか。ならこう言えば本気が出せるか?一人も殺せなかった者は、減給と有給を没収すると」
勇者たちが青ざめる。ただでさえ少ない給料の半減と、たった三日しかない命綱の有給。それはすなわち、命を握られているのと同義だ。
勇者たちは剣を抜き、立ち向かう他ない。
「カイザー…君は経営者としてはやり手だ。随分稼いでいるだろう?なのに何故、人権を踏みにじる」
「貴様に語ることはない。人外の化け物め。地獄へ返してやる」
社員旅行での一触即発から数ヶ月。二人の魔力が再びぶつかり合った。
放たれるカイザーの魔力。鋭く早く、すべてを貫く。
アザゼルはそれを避け、手で払い除ける。
距離を詰め、蹴りを一発。
クロスアームブロックながら、カイザーの体が吹き飛んだ。
「…多少やるようだな。長引かせるのは効率が悪い。だが俺は貴様の弱点を知っている」
「弱点?」
カイザーは一人の女勇者を捕まえ、その首に指先をあてがった。女勇者の目が見開かれ、恐怖に震える。
「自害しろ。さもなくばこの女の首を刎ねる」
「……なるほど。俺が女好きの魔王だからか?」
「女はいくらでもいる。わざわざ女勇者を囲むのは性欲処理や世話役目当てに他ならない」
「魔王城に来たのがたまたま女勇者が多かっただけの話。君は何も分かっていない」
「虚勢もどこまでもつか見ものだな。おっと動くなよ…この女の悲鳴を聞きたいのか?」
「っ〜…」
震える女勇者。逆らってはならない。逆らえば、命を奪われる。尊厳を奪われる。刷り込まれた社畜としての姿勢が、黙って堪える女勇者に現れていた。
アザゼルは大きくため息を着いた。
「君の愚かで人を傷つける立ち振る舞い。嫌気が刺した。だから君は何も分かっていない。そう言ったんだ」
チリッ
カイザーの頬を掠める殺気。鋭い矢。カイザーはそれを躱す。体制が崩れたところへシンの剣が。
(速い!)
カイザーが防御に徹した時、シンは剣を振り抜くのではなく女勇者を助けた。
「分かるか?君は優秀な人材を無駄に扱ってきたんだ。 選択肢を奪い毎日倒れるまで働かせ、それでも罵倒を繰り返してきたクソ野郎共…俺はそんなブラックギルドを滅ぼすために生まれた魔王だ」
「アザゼル様。一班制圧完了です」
「私の方も恙無く」
「けが人も居ないっス」
僅か数分の出来事。勇者たちは武器を奪われる戦意を奪われ、制圧されてしまった。カイザーが初めて苦虫を噛み潰したような顔を見せる。
「リンリンは無能では無い。自分が輝ける道に踏み出すだけじゃなく、他の勇者も救い、ブラックギルドを変えようとした先駆者だ。それを見抜けない君に、組織のトップたる資格はない」
「…なんだと……?どいつもこいつも…使えねぇなぁ勇者は!!扱き使われるしか脳のねぇゴミが!!この下っ端共は知らないようだが俺が所属するトップの集まりに来れば価値観が変わる。効率的、多才、秀才…そんな才能ある努力家と、才能もなく適当に生きている奴らが同じ扱いなわけがないだろうが!!」
これまだ冷静だったカイザーのこめかみに、深く青筋が浮かぶ。
「コイツらは然るべくして扱き使われているだけだ!才能あるものにはそれなりに対価を与えている!!幼稚な発想をする魔王に俺を否定される筋合いは無い!!!」
カイザーの周囲を取り囲む光の針。一斉に放たれその何本かは魔王城メンバーたちにダメージを与えるものだ。
「っなんて威力っ!オルウェンさん!大丈夫ですか?!」
「なるほど……君は類い稀なる努力で今の地位についたわけだ。それでも、君のやり方は間違っている。どんなに才能があろうが、人を踏みにじって組み敷き、同じ人生を歩ませようとする限り…君は…お前は三流社長だ」
「ッアザゼル……貴様…ぶち殺してやる」
「定時まで残り10分。皆は帰る支度を始めろ。戸締りは……俺がやる」




