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第44話繋ぐ声


「リンリン!」


元パーティメンバー達の悲鳴が響く。リンリンは何が起こったのかだ理解出来ず、己の胸から溢れる鮮血に動揺を隠せない。


目の前にいる男、カイザーは指先一つをリンリンに向けたまま静かに見下ろす。


「貴様は任務を失敗した上に見事に洗脳され、他の勇者たちをも洗脳しようとしているのか…哀れだな。ここまで使えないやつだったとは」


「ッ…ゲホッ」


膝を着くリンリン。それでもチャクラムを手にしてカイザーを睨みつける。


「せ、洗脳されていたのは、今までアル…私達を物のように扱い、馬車馬のように働かせ、死んだらそれまでの使い捨て。私達はモノじゃないヨ!」


ガッ


鈍い音と共にカイザーの蹴りがリンリンを傷つける。流れるように振るわれる暴力。リンリンという実力者をもってしても敵わない。処分されるという恐怖。勇者たちが僅かに抱いた希望は水泡の如く消えていく。


「全員、今の話は忘れるんだな。貴様らは彼女に洗脳されかけていた」


「せ、洗脳…」


「あぁ。良く考えれば分かることだ。そんな都合のいい話があると思うか?休みを増やしたりボーナスを与えたり、それで経営が成り立つほど甘くは無い。魔王に洗脳されれば、体の言うことは効かず骨がくだけても病になろうとそれこそ死人になろうと扱き使われるだろう」


「……そうだ、そんな上手い話…あるわけが無い」


小さな呟きを境に、勇者たちの瞳は薄暗く染まっていく。小さな希望の火は、皇帝によってもみ消された。


「クレア」


「は、はい…」


「この女を地下牢に入れておけ。急所は外してある」


「地下牢に、ですか?」


「そうだ。何度も言わせるな。コイツを使って、洗脳元を叩き潰す。魔王はどうやら女勇者に目がなく、洗脳した勇者をコレクションしたがるようだからな」


◇◇◇


リンリンは冷たい地下牢に横たわっていた。

カイザーにやられた、ズキズキと痛む胸の傷。しかし、そんな外傷よりも内側が痛かった。勇気をだして身を呈した試みが打ち砕かれた痛み。


(やっぱり私には…なにも変えることはできないネ…)


無力感。絶望。様々な感情が過ぎるが、リンリンもまた「諦めた勇者」。涙は出ず、代わりに目を閉じる。


(カイザーは私を取り返しにアザゼルが来ると思ってるネ。でも、アザゼルは私が転職したければ歓迎するって言ったヨ。きっと私は斡旋ギルドに残ると思われてるから、アザゼルが来ることは無いネ……次に生まれ変わったら、今度は魔王城みたいな…あんな温かい場所で…笑顔で働きたい…)


「一回でいーから…社内恋愛……してみたかったヨ……」


リンリンの意識が闇にのまれていった。


「すればいいじゃないか」


トン


着地する音。体を撫でる威圧感。冷たい声。リンリンの薄暗い瞳にもう一度光が宿る。


「ッ……な、なんでここにいるアルか……」


黒いコートを翻し、赤い瞳を光らせて笑うのはアザゼルだった。


「インターン生は俺のスキル、従業員管理に登録されている。ストレス値の動きから君になにか起きたんだと思ったんだが…当たりだな。ルイーゼ、回復を」


「承知しました」


ルイーゼが回復、ミランが縄を解く。


「馬鹿アル…こんなことしてカイザーに見つかったら殺されるアルヨ!」


「部下を守れないんじゃ上司としては失格だからな。リンリン、君の頑張りは無駄にしない。さてまずはこの地下から抜け出す。ヒバリ」


「はい」


ヒバリがリンリンを横抱きにする。アザゼルは片手に魔力を込めると天井に向かって突き上げた。


眩い光と共に吹き出した高出力の魔力が地下を貫き、五階建てのギルドの天井まで貫く。


「っ…!」


リンリンはあんぐり、口を開けた。円形に削れた建物に月明かりが差し込む。アザゼルの赤い瞳が、一層怪しく輝いた。


アザゼルは飛び上がり、他メンバーもそれに続く。屋根に立ち、見下ろせばそこにはカイザーと多くの勇者。飛び道具を構え屋根にも武器を構える手練。囲まれた。


「やはり来たか。魔王アザゼル」


「カイザー。君と会うのは二度目だな」


「その女をどうするつもりだ?また脳を洗って手駒にするのか?」


「俺は君とは違う。ここに居る全員が、選んで魔王城に居る。リンリンもそうだ」


「その女がなんだと言うんだ?任務もロクにこなさず、都合のいい話に騙され、その話を使って他を騙す悪魔のような女だ」


「騙す?」


「経営も知らない小娘が、理想だけを語り必死に働く勇者をもっと悪い環境へ連れ込もうとしている」


「……」


「あざぜ、る…」


「リンリン、喋ってはダメですわ。傷が…」


「私の声……誰にも、届かなかったアル…私、なにもできなかったヨ…ッ、できな、かった…」


月明かりに照らされる大粒の涙。小さくか細い声に、アザゼルの拳が固く握りこまれた。


「そんなことは無い。リンリンの声は俺たちにも勇者たちにも届いている」


「…え?」


「君の努力が無駄ではなかったと、これから証明してやる」









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