第43話魂の勧誘
魔王城にてミランはキーボードを叩きながらもソワソワしている。
「ミラン、俺たちが焦っても仕方ないぞ」
アザゼルは珈琲を傾けながら頬杖をつく。
「う…そ、そうですがやはり心配ですわ。リンリンさん、酷い目にあっていないといいですが」
「あの子は頭がいいし警戒心も強い。大丈夫だろう」
「そうですが……」
「カイザーか?」
「えぇ。彼、いえ、奴はかなりのキレ者ですわ。クーデターを起こそうとすればその計画段階で始末され、名簿ごとこの世から消すことが可能な権力を持っている。もしリンリンさんがこっそりと転職しようと試みているとして、見つかればどんな処罰を受けるか…」
「…だからミランやシン達は戻らなかったのか?」
「えぇ。カイザーの恐ろしさはギルドに所属するならば誰もが知っていることです。正面切って逆らう者など…ましては裏切ってやろうなんて、とても思えませんわ…まぁ、今や私は魔王城の一員。社員旅行の時のように相対すれば怯んだりしませんわ」
「頼もしいな……リンリンは責任感も強い…胸騒ぎ、か」
◇◇◇
(よし…ボイコットする準備は整えたネ。カイザーは今夜会合で朝まで帰らないヨ。斡旋ギルドの広場にはできる限り多くの勇者を集めることができた…カイザーの支配から逃れたい…けど、私だけ助かっても意味ないネ。皆も助ける!)
リンリンは震える足を叱咤し、荷物をまとめてギルドへと向かった。
ギルドには元パーティーメンバーが集めてくれた勇者たちが。ほとんどが疲れきって死んだ魚のような目をしている。
「なぁ、いい話ってなんだよ?俺たち勇者が救われるとか…本当なんだろうな?」
「あ、あぁ…多分」
パーティーリーダーのイーヨルは自信なさげに答える。
「多分って何よ?私達明日は午前三時から任務なのよ?早く帰って寝たいの」
「チッ……僕なんかもう三日寝てないよ…」
「お、落ち着けって」
「もうすぐリンリンがくるから、アンタ達黙って待ってなさい!」
不器用なエルザの言葉に勇者たちが声をあげようとしたその時だ。斡旋ギルドの戸が空いて、リンリンが姿を表した。
「っリンリン!良かった。なぁ、本当に俺たちはこのクソみたいな環境から逃げられるんだよな?」
「そうネ。皆。このギルドは間違っているネ。毎日毎日、怪我をしても病気をしても剣を振って戦い、その成果はカイザーが横取り、私達に与えられるのは僅かな報酬。そして失敗すれば罵倒と処罰の数々。これは普通じゃないアルヨ」
「そんなことは皆分かってるっつーの…けど、仕方ないだろ。食って生きていくために、勇者はコレしかないんだから……」
勇者の一人が眉を吊り上げる。
「それは言い訳ヨ!!奴らに扱き使われることに慣れて、考えるのを止めていたネ!誰か誰かって待ってても、現状は変わらない。変えたいなら、自分で踏み出すしかないネ!!」
「はぁ?踏み出したところで殺されるだろ…くだらねぇ。時間の無駄だったな」
「もし、自分がやり遂げたことに対し、それ相応の報酬が与えられ、心身共に楽しく働く事ができるとしたら…?そんな環境が目の前に存在したとしたら?」
「……そりゃ…皆、そっちにいくだろ……あればだけどな」
「あるヨ。魔王アザゼルが支配する魔王城では、それが全部叶うね。私、全部見てきたヨ!」
「はは……魔王アザゼルって、勇者洗脳の?リンリン、お前洗脳されてるんじゃないのか?」
「洗脳されていたのは今までアル。まず、定時出社定時退勤、昼は1時間休憩に30分の昼寝休憩。冷暖房寮付き完備、有給休暇20日…そして、ボーナス有り」
「「「「「最高じゃねぇか!!!」」」」」
勇者全員がハモった。沸き立つギルド内。夢のような条件に、地獄にいた勇者たちは期待に目を輝かせる。
「い、いや……それ本当なのか?そんな…上手い話…ほら、この斡旋ギルドに入る前も、同じようなこと言われてた気がする…」
勇者たちは思い当たる節がそれぞれあるのか直ぐに落ち込む。
「そうネ。でも、魔王城は違うアル!私は全部見てきたヨ!!私は魔王城に転職する!自分の幸せ、自分で掴みに行くネ!!行動しないとずっとこのままアル!皆、着いてきて――」
スッと勇者の中から上がる手。
「来てくれるアルか?!」
リンリンが目を輝かせるが数秒後、その表情は絶望の色へと塗り替えられた。
「あぁ。行ってやる。リンリン。俺にも案内してくれるか?」
冷たい声。放たれる威圧感。勇者たちの体が大きく震え出す。
勇者たちが自然と道を空け、その中心に立つ男は――
「か、カイザー…なんで、ここ、に……」
「嘘と裏切りの匂いがした…あぁリンリン。俺は貴様を信じていたのに残念だ。まさかこの手で、始末することになるとは」
次の瞬間、リンリンの胸を鋭い矢のような物が貫いた。
鮮血に、勇者たちの希望は打ち砕かれた。




