第41話ブラックギルドの闇。責任感の鎖
「それではリンリンさん。まずは魔王城の外からご案内致しますわ」
ミランはバインダーを片手にぷりぷりと張り切っている。
「魔王城の主な経営は貿易品とダンジョン拾得物。それをアザゼル様が召喚で出して下さった工場で加工することでより高値で売っておりますの。工場は空調完備、安全対策も万全。二時間ごとに必ず小休憩がありますの」
「随分と待遇がいいアルね」
「えぇ。アザゼル様は言いますわ。良いパフォーマンスは良い環境から。実際、人間達が営んでいる工場より生産性も品質もよろしいのですわ!」
ミランは右肩上がりの棒グラフを見せながら得意げだ。工場で働く元勇者や従業員達は、皆笑顔で柔らかな雰囲気だ。リンリンの荒んだ胸に少しばかりの温もりが。
「次は販売店舗ですわね。商人ギルドから卸すと手数料をたっぷり取られますのでうんたらかんたら――」
(いがみ合っている人も、上から叱責を受けている人もいないヨ…それを見て見ぬふりしてる私みたいな奴も)
ミランはリンリンを連れ、畑やら経営部の会議やからを巡る。そして最後に魔王城の要であるアザゼルの執務室だ。
「最後にアザゼル様のお部屋ですわ。アザゼル様は魔王城で働く皆様を大切にしていらっしゃって…」
コンコンとノックをし、戸を開ける。そこには従業員の為に頭を悩ませながら働くアザゼルの姿が――
「アザゼル様ァ。お加減はいかがですか?」
「あぁ。気持ちいいよルイーゼ」
「あ、あっ、アザゼル様っ、今度皆様に振る舞うケーキの試食をお願いしたいのですが…」
「アンジュ熱心だな?是非いただこう」
「は、はいっ!では、あーん」
「あー…」
目の前で繰り広げられるのは社長と部下、というより"そういうお店"。リンリンの目が点になる。
「えぇ…ここだけ変なお店アルか?」
「ちょっとルイーゼさんアンジュさん?!人が真面目に働いている時に一体を何を――」
(おお、上司にも躊躇いなく怒るアルか?そういうのが許されて、出来るってとこも、魔王城の凄いところネ)
「抜けがけは許しませんわよ!!貸しなさいアンジュっ!アザゼル様の一口は小さいの!そしてフォークはこう!アザゼル様の麗しい唇を傷つけてはなりませんわっ」
「ふ、ふぇ…ごめんなさっ」
「あらあらあらミランさん。新人いびりは良くありませんよ?」
「なんですって?大体貴方の肩もみもなってないのよ!退きなさい!私が手本を見せてやりますわっ」
アザゼルの背後でルイーゼとミランが押し合いへし合い。アザゼルは紅茶を飲みながら微笑ましそうにそれを見つめている。
「な、なんてことアルか…ありえないネ…斡旋ギルドじゃ絶対無かった光景アル……」
「インターン中でしたね…リンリンさん。大丈夫です。このミランさんがヤバいだけで、他の皆さんはお優しくて新人いびりとかしませんから」
「なんですってぇ?!いいですかリンリンさん!このような本来の仕事をサボってアザゼル様に接近するずる賢い女はルイーゼさんだけですわ!!」
「二人とも、ちょっと声が大きいぞ。びっくりするだろ?めっ、だぞ」
三人の女たちが一斉に頬を染めて叫ぶ。
「し、叱られてしまいましたわねルイーゼさん」
「は、はい。録音しました…」
「天才ですの?!いくらですの?!」
「アザゼル様ぁ〜」
「よしよし」
アンジュの頭を撫でるアザゼル。カオス空間。インターンでこんな狂った社内事情を見せれれば普通は引く。だが、リンリンは違うことに衝撃を受けていた。
「ありえない光景ネ……しゃ、社内恋愛OKアルかぁ?!?!」
頬を抑えるリンリンは真っ赤で口角はニヤケっぱなし。そう、この女は純真恋愛話好きの乙女であった。
「ウチは結構オープンだな?たまーにトラブルもあるが、それなりにカップルも誕生しているぞ」
「マジアルか?!ってことは社内のあらゆる所で今みたいなイチャイチャ見れたり、痴情の縺れ話を聞けたりするアルか?!?!」
アザゼルのデスクを叩き、身を乗り出すリンリン。流石のアザゼルもタジタジだ。
「ま、まぁ…それなりに、な?ふふん、どうだ?転職したくなったか?」
「っ………したぃ、ケド…それが許される環境じゃないネ」
「何故だ?」
「前職なんてトんでしまえばいいのですわ。どうせすぐ補充されますし…やれ58番が欠番だの使い物にならなかっただの……言われるのはその程度。貴方がよく知っているんではなくって?」
「……そうアル。私達は所詮使い捨ての駒ネ。でも、私はマシよ。休みなく駆り出されていたパーティから私だけ抜けて、親衛隊の役職を貰って、初めての休暇を貰ったネ。けど…私が休んでいる間、元パーティメンバー達は酷い待遇の中、剣を振るっている。そう考えたら、休まらなかったネ…」
「真面目ですわね…気にしなくていいのですわ。悪いのは斡旋ギルドであり、皆がしているから、自分も苦しまなくてはならない等というルールは存在しませんもの」
「あぁ。それに俺はいずれブラック全体を滅ぼすつもりだからな。問題は君がどうしたいかだぞ。リンリン」
「……少し、考えさせて欲しいネ」
リンリンは執務室から出ていった。
「責任感の強い方なのですね」
「あぁ。過酷な環境が、甘えを許さないんだろう。だが、選びとるのはリンリンだ。踏み出す一歩の部分には俺が手伝うわけにはいかない」
ただし、踏み出した時には、全力で――
アザゼルは両手を組むと祈るように額に押し当てた。




