第40話ブラックギルドの洗脳
「くっ、離すネ!」
リンリンはアザゼルの懐から飛び出すと両手にチャクラムを構える。
「い、いつから気づいてたアルか?」
「厨房裏から入ってきたあたりからだな。従業員の安全を見守るのが俺の仕事だから」
「最初から…変わった魔王ネ。それで、インターンってなんネ?」
「実際に働く場所を見学してもらって、自分がその職場とマッチするか確かめることができる機会だ」
「?…??」
「つまり、魔王城に転職したらこういう場所で過ごすことになるぞ!という体験だな」
「…わ、ワタシはお前のこと殺しにきた暗殺者アルヨ。ちょっと何言ってるか分からないネ」
「そうか。なら殺すか?」
「…お前魔王じゃないみたいヨ」
「生態的には魔王だ。赤い目は泣けないし瞬きもしない。この力を全力でふるえば世界を一瞬で消し炭にもできるだろうな」
月明かりに照らされる赤く禍々しい瞳。リンリンに与えるプレッシャーはアザゼルが魔王であることをひしひし感じさせてくる。
「じゃあなんでそれをしないアルか?他の魔王は、非人道で女子供を食らうのを好む奴らばかりネ」
「なんで、か。俺が特殊な体質なのもあるが、冒険者斡旋ギルドもよっぽど非人道的だと思ったからだ」
「!」
「同族同士で格差を作り、権力を持つものが新人を扱き使う。死ぬまで勇者の人生は奴らの奴隷そんな世界は面白くない。面白くない世界を征服したってつまんないだろ?なんて、世界征服する気もないが」
「…ま、惑わされないネ。お前、こうやって分かったフリをして他の奴らも騙したきたに違いないヨ!」
「まいったな。噂には聞いていたが俺が洗脳して勇者を取り込むっていう解釈をされているのか。だから最近転職希望の勇者が来ないのか…求人を斡旋ギルドに貼るか……」
「っ…クソ……」
(何アルかこいつ…いつもなら反吐が出るほどの屑っぷりで怒りに任せて命を奪えるのに…魔王じゃない…まるで、勇者だ)
「とにかくワタシはお前を殺すヨ!それが任務ネ!」
「組織がモラルに反している時、君は上からの命令だからと従うか?」
「何がいいたいアル?」
「君は今、尊敬されている人に今の姿を見られて、どう思われるだろうか」
「……言葉で、惑わすな。魔王め」
「ふむ……まずはブラックによって凝り固まった思考を解さないとな。ミラン」
アザゼルが指を鳴らすとリンリンの真横にふわりと着地する女。
「なっ」
「お呼びですか?アザゼル様」
「ルイーゼはお誕生日だからな。今日は休みだ。代わりにミラン。この子の教育係になってくれ」
「承知しましたわ」
「インターン二日目のテーマはホワイト企業を知る、だ!」
リンリンはぽかんと口を半開きにした後、チャクラムを握りしめた。
「この魔王…やっぱオカシイネ……」
◇◇◇
「おはようございますリンリンさん!今日はいい天気ですわね。よく寝られましたの?」
個室のベッドにて起き上がったリンリン。敵の根城で、いつね首をかかれるか分からない状態で寝れるわけが――
「爆睡快眠快調……」
「それは良かったですわっ!そちらの寝具は東洋で有名なラクダのいらない枕と呼ばれていまして、全身を包み込むようなフィット感により快眠を促す最高品質の――」
「何言ってるか分かんないヨ」
「さて、魔王城の一日は朝食からですわ。早速食堂へ参りましょう!」
「食堂?おカネ持ってきてないヨ」
「不要です。食堂は魔王城の福利厚生なのですわ」
「…タダ?!」
「えぇ。シェフアンジュが作ったバランスのいい食事や、アザゼル様の体内から生み出された(召喚)料理が絶品ですの」
「体内から?!」
リンリンはミランに連れられ、食堂にて食事をいただく。リンリンは美味しさに目を丸くしながらも周囲を見つめた。
「…皆、笑顔アルネ」
「?…あぁ……そうですわね。斡旋ギルドじゃ、みんな死んだ目をしていますから」
「ね、新しい新人って貴方のことでしょ?」
「あら、ニーアさん。おはようございます。こちらインターン中のリンリンさんですわ」
「オハヨーミランさんっ。リンリン!可愛い名前だ〜。魔王城めっちゃいいとこだからさ、超オススメだよ〜あ、向かい側座ってもいい?」
「…いいヨ」
「俺もいいッスか?へへ、また仲間が増えるかもって思うと楽しみッスね!」
「シンさん。お体の具合はよろしくて?」
「ッス!もうピンピンしてますよ!」
(この子達……見た事あるネ。新人いびり研修って影で呼ばれてる研修で半べそかいてた男勇者と、耐えてた女勇者……フロスキア家のおちぶれ貴族勇者。みんな暗い顔してたアル)
『魔王は勇者を洗脳して取り込んでいる』
「洗脳されてたのは…私の方ネ」
「?…何かいいまして?」
「ううん。なんでもないアル。ミラン。案内してヨ。魔王城」
リンリンはここに来て初めて笑顔を見せる。ミランも吊られるように笑った。
「はいっもちろんですわ!」




