第39話魔王城インターン
(聞き間違いアルか…?今誕生日会があるから後にしろーとか言ってたネ。いやいや。奴は魔王アル。きっと非人道的で最低な)
「ですがアザゼル様!この商品の発注までは済ませておかないと経営が…」
「むっ、そうか。じゃあ人員を補充する。終わったら部屋の飾り付けと催し物の準備だ。ケーキはアンジュが仕上げているんだが見たか?アレ凄いぞ!」
(いや誰アルか?!魔王ってあんなウキウキしてお誕生日会語るキャラネ?!強面とアンバランスすぎるヨ!い、いや。まだネ。元勇者の前では猫かぶってるって可能性もあるヨ)
リンリンは天井やら死角を駆使しながら魔王の行方を追った。アザゼルは自室へと入る。リンリンも天井裏に忍び込み、覗き穴より様子を観察。
椅子にてウィンドウをスクロールしながら眺める姿は貫禄がある。
「ふ……馬鹿な奴らめ。まさか俺がただの誕生日会で終わるわけがない」
アザゼルは口角を上げる。そのオーラは邪悪そのもの。リンリンは背中に収めているチャクラムを握りしめる。
(やっぱり何か企んでたネ…皆、安心するアルよ。この男を葬って、助け出してあげるネ)
「誕生日会クライマックスには花火が打ち上がる。さらに召喚で出したプロジェクションマッピングでエンジェルランド顔負けのパレード。クク、アイツらの驚く顔が楽しみだ」
(愉快な企みすぎる――!!!え?誕生日会?サプライズ?こんなのいい歳した大人もやらないヨ!)
◇◇◇
「ルイーゼ、お誕生日おめでとう!」
弾けるクラッカー。沸き立つ歓声。祝われたメイドのルイーゼは両手を口元に当て感激で瞳を潤ませる。
「わぁあ……ありがとうございますアザゼル様。皆さん」
「ルイーゼ、これは俺からのプレゼントだ」
「あ、アザゼル様からの…」
ルイーゼが箱を開ければ、そこには美しい滑らかな質感の青いリボン。
「君の銀髪に良く似合うと思ってな。ちなみにミラン商会からの輸入品だ」
「品質は保証しますわよ。ま、実質、"私"とアザゼル様からのプレゼントですわね」
「ありがとうございますアザゼル様。セレクトのセンスといい気持ちといい…嬉しいです。宝物にします」
「ちょっと!!半分私からのプレゼントですわよ!!」
「売っただけじゃないですか〜。ね、アザゼル様。こちら髪に結んでいただいても?」
「あぁ。早速使ってくれるのか?嬉しいな」
「キャーー!抜け駆け!あ、アザゼル様ここは私が!!」
「やっ、ミランさん邪魔しないでください!私誕生日なんですよ?!」
「はは、二人は仲良いなぁ」
「いや、アンタのせいッスよアザゼルさん…てか、ケーキ凄いッスね」
シンが溢れ出る涎を飲み込む。テーブルの中心に用意された巨大なホールケーキは様々なフルーツが乗っていて見るからに美味しそうだ。
「あぁ。さすがアンジュだ。俺は優秀な部下を持った」
「ふぇっ…そ、そそんな…私も、大好きなお料理が出来てうれしいです……」
聖女アンジュは顔を真っ赤にしながらはにかむ。
「よーし、ケーキを食べてその後はビンゴ大会だ!」
和気あいあい。
(いや、どこアルかココ?!ほんとに魔王城ネ?!間違えて女神の城にでも来ちゃったアルか?!)
天井から楽しげに騒ぐ魔王城メンバー達を見て、リンリンは白目を向きかけた。
(でも、幸せそうアルな。
これまでどんな悪党も暗殺してきたヨ…自分は酷い扱いを受けないように。自分だけは生き残るために…カイザーの仕打ちから逃げてきたネ。暗殺相手が悪党でもなんでもなかったら、アタシはこんな幸せをぶち壊してまで生き延びることになるヨ…)
楽しげな声色がリンリンの胸を冷たく撫でた。
夜、アザゼル本気の花火は大成功。満点の星空に輝く大輪は、エンゼル国の王都でも騒ぎになったことだろう。
(不気味な魔王城のバックに綺麗な花火が咲いて……なんか頭おかしくなりそうネ)
「おやすみルイーゼ」
「はいっ。おやすみなさいアザゼル様。今日は人生で最良の日でした。ありがとうございますっ」
「良かった。これからもよろしく頼む」
「ハイ!」
パタン
魔王はようやく一人になった。ソファに腰掛け、鼻歌を零しながら本に目を落とすアザゼル。
魔王らしくない、どちらかと言えば勇者――
「さて…」
「?!」
本から顔を上げたアザゼルがゆっくり天井を見遣る。覗き穴越しに赤目と目が合う。
「しまっ」
逃げようとしても遅い。リンリンの足元の床、天井が消え、落下。
「きゃっ!」
ドサッとアザゼルの両腕に受け止められる。
「一日インターンを得た感想は、どうだった?」
(み、見つかってた――?!)




