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第37話門出


「え?わたくしの新しい職場?」


「あぁ。違うのか?」


「なぜそんな話に…」


「おぅおぅ…アンタが噂の魔王か?」


ミランの店の前に現れたのは棍棒を担いだ大男。スキンヘッドで顔に傷のある荒くれ者って感じの見た目だ。


「そうだが。すまないが面接なら後にしてくれるか?今は取り込み中で」


ズンッ


地面に叩きつけられる棍棒。一般市民から悲鳴が上がる。地面には丸々としたクレーターが。


「……」


「テメェの都合なんか知らないなぁ。最近テメェのせいで勇者が減っちまって、こっちの奴隷が手薄になってるんだよ。それ全部、魔王のせいなんだろ?」


「皆、お前のやり方が気に食わなくて離れただけだと思うが」


「勇者を洗脳してるだなんだか知らねぇが、弱者を集めるなんて弱者のやることだ!魔王なんざ大したことねぇ!」


横殴りにされた棍棒。もちろんアザゼルにあたる間もなく粉々だ。音もなく消し飛んだという方が正しいだろう。


「…へ?」


「今日は優秀な部下の門出なんだ。店の前でなにかトラブルが起きれば、経営の妨げになる。だから静かに去ってくれないか?」


「い、一体何をしやがった?!魔術か?!時空をとばすとか空間を切り取るとか、そういう奴だな?!お、おお、お前らやっちまえ!」


既に腰が引けているリーダー格の男だが引っ込みがつかないのだろう。ヤケクソになって荒くれ達へ指示を出す。


「話にならないな…今は大切な送別の時なのに……」


踏み出したアザゼルの前に手を出したのはミランだ。


「アザゼル様。ここはわたくしの店。以前、両親の店は守ることが出来ませんでした。しかし今は力をつけ、知識を付けましたの。ですから……」


ミランは空に向かって弓矢を放つ。


「ケッ!この女、何処に撃ってやがる?!ヤケクソか?!」


数秒後、男たちの頭上から雨のように降り注ぐ矢。いずれも直撃はしないものの頬や体を掠め、男たちを怯ませるには十分な恐怖だ。


わたくしの大切な店と人に手を出したら、次は外しませんことよ?」


スキンヘッドの頭に突きつけられた紫色の弓矢。弓を引くミランは美しくも気高い。プレッシャーに男たちは悲鳴を上げた。


「お、覚えてろよ!」


走り去っていく男たち。魔王城メンバー達は肩の力を抜いた。そして――


「姉ちゃんアンタすごいな!」


「えっ?」


「アイツら店の中を荒し回るから困ってたんだよ!助かったよ!」


「あんなデッケー男に怯みもせず、矢を突きつけて…痺れるなぁお嬢ちゃん!!」


やんややんや。他店からあがる歓声。どうやらあの荒くれ者達は、バザールでも悩みの種だったらしい。


「あ、あら……こんなはずでは…」


ミランは頬に手を当て赤くなる。多くの人々からありがとうと感謝を告げられ囲まれるミラン。その様子にアザゼルは頬を緩めた。


「どうやら心配無いみたいだな」


「ですね。しかし皮肉なことです」


ルイーゼは眉を下げる。


「本来勇者とは、こうして人を守り、皆から尊敬と慈愛を受ける職業でありそれがやり甲斐でもあると言うのに、今やそれを実現できたのは魔王城のお陰だなんて」


「どっちが魔王か、ってことかルイーゼ?」


「そうですね。まぁ、一般市民からしたらどちらに所属しようと大差ないのかも知れません」


「…俺は死ぬ直前まで勇者様お助け下さいって願われた。小枝みたいな老人の手にまだ働けと告げるようにな。だが勇者だって人間だ。疲れるし傷つく。そういう時に助けてくれるのがこの"ありがとう"なのかもしれないな」


「そしてそれは整った環境で言われてこそ、本当の効力を発すると」


「ふん、ルイーゼ。やはり君は優秀だな?」


「えへ……そ、そんな…えへへ」


「そこ!わたくしの目を盗んでイチャイチャなさらないで!」


「いいじゃないですかミランさん。今後はアザゼル様のお世話もサポートもすべて私が行うのですから」


「は?何を言ってますの?ベッドメイキングと衣類の管理はわたくし。この間オセロで決したはずでは?」


ヒートアップしていく二人。腕組をして額を付き合わせる。


「転職した部外者をアザゼル様に近づける訳にはいきませんよ」


「誰が転職ですって?……あぁ、貴方、わたくしの至らぬ点をアザゼル様に吹き込んで、魔王城から追い出そうという気なのですわね?」


「自分から出ていこうとしているのに、私が追い出したみたいな言い方するのは良くないと思います!!」


わたくしがいつ出ていくなんて申し上げましたの?」


「ん?」


アザゼル、魔王城メンバー全員が首を傾げた。その反応にミランも首を傾げる。


「ミラン。君、自分の店を開いて独立するんじゃ…」


「え?いえ、魔王城支店として従業員を派遣し、営業したいと思っていますの。本社は魔王城。今日は開店できるかアザゼル様に確認を――」


一斉に響くため息。数人が座り込む。


「な、なんなんですの一体?!」


「ミランさん。フライパン返してくださいね」


「私のエンジェルベアも」


アンジュとシルビアの冷めた瞳。ミランだけが状況を理解できないまま立ち尽くす。


「だから一体、なんなのよー?!?!」


膨れ上がった茶番劇。アザゼルは青い空を仰ぎながら笑った。










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