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第35話部下の背中を押すのが魔王の役目


「ううん…」


アザゼルは執務室にて書類を眺めながら大きなため息をついていた。書類、と言いつつ、見ているのはその先で俯いてるルイーゼだ。


(ルイーゼに元気のないミランのことを託したが、なぜかルイーゼも元気を失ってしまった…)


「ルイーゼ」


「…はい、アザゼル様」


「その…ミランと何かあったか?」


「……いえ。特に何も。私では元気づける事ができませんでした」


「やはりミランはなにか悩んでいるんだな?俺になにか出来ることか?」


「……アザゼル様…っダメ…言えません…」


「言えないって…まさか俺の事で悩んでいるのか?」


「違います。でも…言えませんっ!!」


ルイーゼは口元を抑え泣き出しそうなのを堪える。その姿にアザゼルがギョッとするのは当然の反応で。


「すみませんっ!少し外の空気を吸ってきます!」


「ルイーゼ!」


ルイーゼは執務室を飛び出していった。


「一体なにが…俺には言えないこと。でも俺のせいじゃない…ううん、さっぱり分からん…」


従業員の揉め事、メンタルケア。一筋縄ではいかない環境作りに、アザゼルは眉間を抑えた。


◇◇◇


一方その頃。ミランは自室にて発注書類を打ち込んでいた。キーボードに半透明の近未来的ウィンドウ。手つきは素早いが表情は暗い。


コンコン


「ミラン、少しいいか?」


「あっ、アザゼル様」


ミランは慌てたようにウィンドウを閉じる。


「なぁ…最近元気が無いように見えるんだが、なにか悩みが…あるのか?」


「る、ルイーゼさんからなにか聞いたのですか?」


「いや。ルイーゼも元気がなかった。俺には言えない悩みか?」


「言えないというか、言うほどのことでもないのですわ。申し訳ございません。変な気を使わせてしまい……」


「そう、か…皆、大なり小なり悩みを抱えて生きている。その悩みの大きさは本人によって変わるものだ。だからミラン…困ったことがあったらいつでも頼れ。俺は君たちが楽しく働く環境を整えるという役割がある」


「…っはい……ありがとうございます」


「邪魔をしたな。今は……収支報告か?昨日してくれたばかりだと思うが、なにか修正箇所でもあったのか?」


「っ…い、いえ!これは、その……こ、個人的な事でして…」


「そうか。あまり根を詰めすぎるなよ?」


「は、はいっ」


アザゼルはそれ以上言及せず部屋を後にした。


「はぁ……どういたしましょう…アザゼル様を困らせている……早く言わなくてはならないのに…」


ミランはウィンドウを開く。そこには"フロスキア商店開店!"という大きな文字とイチオシ商品の一覧が。


「いつまでもウジウジしている場合ではありませんわね…アザゼル様に伝えなくては」


ミランは眉を下げながら窓の外を見つめた。


◇◇◇


魔王城

執務室


「アザゼル様、お体が優れませんか?」


「ん?あぁいや……悪い。なんでもない。少し気になることがあってな」


「……ミランさんのことでしょうか?」


「あぁ。俺では力になれそうにない。従業員管理簿を見る限り、ストレス値は上がっているみたいだしな…」


「それはアザゼル様もです。アザゼル様もミランさんのことで悩むことによってストレス値が…っ…アザゼル様。他言無用でお願いしたいのですが…ミランさんは、その……」


「あぁ」


――――


「ミランが魔王城を辞めたがっている?」


「はい。ミランさんは失ったご両親の店の再興が目標だと言っていました。そして遂に、小さな店を開くことができるんだそうです」


「なるほどな…それを俺に言い出せずにいるのか……」


「アザゼル様に助けていただいた恩もありますし、ミランさん、魔王城が好きでしたから…」


「魔王城で心身を癒され、夢に向かって資金を貯め、自立していく。全く、優秀な部下だな」


「アザゼル様……」


「話しにくいことだったのにありがとうルイーゼ。ならば俺はミランが伝えにくるのを待つだけだな」


「止めないんですか?ミランさんは、魔王城の経営に不可欠…」


「ふ、部下の夢の足を引っ張るやつがどこにいる?俺は勇者として死んだ後、二度とブラックに負けたくなくてこのギルドを設立した。そこで癒されたミランが世界に羽ばたく。これ以上ない、嬉しいことだ」


「アザゼル様…はい。そうですね。寂しくなりますが…」


「あぁ。だが、笑って押し出してやろう。気づかれない範囲で送別会の準備をしておくか」


「はい!まぁそれに、一生の別れじゃないですもんね!ミランさんのお店と業務提携を結べば、ビジネスパートナーになりますし!」


「ルイーゼは勉強熱心だなぁ…いつ覚えたのそんなこと。ま、そうだな。ミランの店なら絶対儲かる!金の匂いがするぞ」


「まぁ、アザゼル様ったら」


一抹の寂しさを抱えながらも、笑って見送ろう。そう決めた二人。


そして、執務室のドアの向こうに立つ女が一人。お茶を運んできたシルビアだ。


口元を抑え、盗み聞きした真実に瞳をワナワナと震わせる。


「そんな…」


そして、ミラン退職の噂は瞬く間に魔王城内へと広がっていった。






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