第34話夢追い悩めるお嬢様
彼女の名はミラン。
魔王城に転職した元勇者で元貴族のお嬢様。
十歳にして商人としての才覚を現し、フロスキア商会の次期社長令嬢。
しかし、勇者に物資の支援をしていた事が発覚し冒険者ギルドによって倒産に追い込まれる。
勇者として低待遇を受けていたが魔王城へと転職しハッピーホワイトライフ。
「はぁあ…」
ミランは大きなため息をついていた。
「あ、あぁの、どうか、しました、か?」
アンジュは器に盛ったクリームシチューを手渡しながら首を傾げる。ミランはそれをトレーに乗せて口元を抑えた。
「あらやだ私ったら…聞こえるくらいの大きなため息をついてしまいましたわ。失礼しました」
「と、とんでもないですっ…その……なにか、悩み事が?」
「いいえ、なんでもないですわ。ご心配おかけしましたわね。ありがとう、アンジュ」
「は、はぃ…大丈夫でしょうか…」
アンジュはスッキリしないものの、ミランの背中を見送った。
昼。本日は週次ミーティングがある。
「…ン……ミラン」
「はっはいっ!」
「ぼーっとしてどうした?体調でも悪いか?」
「い、いえっ元気ですわアザゼル様!」
「それならいいんだけど…来週の仕入れ予定、報告できるか?」
「もちろんですわ!」
ミーティングは程なく終わったがミランは書類を持ったまま、また一点を見つめている。その顔は悩ましげだ。
「ミラン。やっぱりどこか悪いのか?この間のテーマパークでの傷が痛むとか…?」
「い、いいえ!問題ありませんの!その…私…仕入れた宝石をチェックしなければなりませんの!」
ミランは書類をかき集めると慌ただしく会議室を飛び出した。
「?…なんだか様子が変だな……」
「ですね…アザゼル様。ここは私が。同性としてミランさんのお悩みを聞いておきます!」
ルイーゼは両手を丸め息巻く。
「あぁ。助かる。なにか役に立てることがあったら言ってくれ」
「承知しました!」
◇◇◇
「ミランさーん?ミランさんどこですかー?……おかしいですね。部屋にもいませんでしたし…あっ」
ルイーゼは魔王城の裏手にある小さな庭へと足を踏み入れた。
植木専門の従業員が働く者のためのリラックススペースとして庭園を作ってくれたのだ。花や木々に囲まれた小さなデスクとチェア。
そこにミランは居た。
「はぁ……」
頬杖を着き、庭の薔薇を見つめる横顔は憂いを帯びている。
「ミランさん」
「!…あら、ルイーゼさん。なにか御用でしたらあと十分程お待ちいただける?」
ルイーゼはミランの向かい側へ腰を下ろす。
「ここはいい眺めですね。アザゼル様とアフタヌーンティーをしてみたいです」
「抜けがけは許さなくってよ。私の方が豪華で心躍るスイーツを用意できましてよ」
「ふふん。アザゼル様がお好きなのは私のお紅茶です。紅茶のブレンドならこのルイーゼが専属ですからね」
「言ったわね?勝負しますの?」
「受けて立ちますよ!って……勝負しに来たんじゃ無いんです、実は」
「知ってるわ。私が未熟にも悩んでいる姿を隠しきれずにいることについて、ですわね?」
「はい。アザゼル様も心配されてましたし…なにかありましたか?」
「……私の実家のことですの…私の夢は、お父様とお母様が大切にしてきたお店を取り戻すこと。勇者になった頃からコツコツ貯めてきて、ようやく小さいですが出店を開けそうなのです」
「え……ミランさん、それって…」
「まずは単価の安いものから売り出して広げていきたい、とは思っているのですが、到底アザゼル様に認めていただけるような立派なものは…まだ……」
「そ…そんな…ミランさん!辞めたらダメですよ!アザゼル様が悲しみます!」
「どうかしら…アザゼル様のお力の前では霞んでしまいますわ」
「そんなことないです!!ミランさんは居なくてはならない存在…私の、ら、ライバルでもありますから!」
「お、大げさね。アザゼル様には内緒よ?こんなことでなやませたくないもの」
「そんな!こんなことだなんて…」
「いいの。私が好きでやっていることなのですから…」
「ミランさん…」
ルイーゼはそれ以上何も言うことができなかった。
ルイーゼはひとり魔王城へ戻りながら、沈みゆく夕日を見つめる。
「ミランさん…まさか魔王城を辞めようとしているなんて…」




