第32話魔王城の勇者シン
お化け屋敷と自販機の間。隠された地下通路が存在する。これは冒険者ギルドのカイザーの手腕によるもので、主にギルドから逃げ出そうとした勇者を始末する時に使われているのだ。
ミランとシンは知る由もない。拘束を解き、出口を目指して走り続ける。
(ここまで一本道……ということは出るまでにシェードと出くわす可能性が高いですわね。私がシン様を御守りしなければ)
ミランの嫌な予想は当たってしまった。走っている途中、前から足音が。暗がりから姿を表したのは銀髪のシェード。貼り付けたような笑顔には返り血を浴びている。
「あれれ?逃げちゃったの?うそ〜どうやって〜?」
「甘っちょろい拘束してるからですわ。それよりも……その、返り血は……」
「あぁこれェ?ここ嗅ぎ回ってた野郎のものだよ?君たちのお仲間かなぁ?冒険者ってより騎士みたいな格好してたけど」
「っ……アザゼル様の大切な従業員に……許しませんわ。その愚行。後悔させてやりますの!」
ミランは手の内に弓を召喚。矢を引いて一直線に放つ。が、シェードはその場から消えた。
「なっ?!ど、どこに……」
ザザッ
ミランの全身を襲う刃物傷。薄皮であるが切り刻まれ、膝を着く。
(き、切られたっ?!はやすぎる……っ)
「ミランさん!」
「くっ……」
ミランはもう一度弓を構えようとしたが、シェードの魔の手が背後からミランの首を絞めた。
「んぐっ!」
「矢に雷魔法を纏わせて放つ……うん。いい技だ」
ギンッと鈍い音がしてシェードの手からナイフが弾かれる。シェードは退く。シンの剣だ。
シンはミランを庇うように立つと剣を構える。
「いいねいいね。仲間を守る姿勢!勇者っぽい!君、シン君だっけ?58番の」
「?!」
「58番の勇者。ダンジョン未踏破につき毒ガス刑に……そのせいで両親を失い、生気を失った操り人形のまま、カイザーさんの言いなりに」
「うるさい!俺はもう魔王城の一員だ!」
「シンさんっ……耳を貸してはなりませんわ。貴方を動揺させて、隙を作ろうと……ガハッ」
唐突にミランが吐血。シンの目が見開かられる。
「ミランさんっ?!」
口元を抑えて咳き込むミラン。体が不自然に震え、数回吐血したあと床に崩れ落ちた。
「紫の斑点が傷口から広がって……ど、毒か?!」
「ピンポーン。僕のナイフ。いっぱい塗ると即死しちゃうからちょっとずつ、ね?今は筋肉が痙攣してあらゆる代謝機能が悲鳴あげてるとこー。もうあと10分もすれば全身に広がって死んじゃうよぉ?」
「そんな……どうすればっ」
「あ、解毒剤は僕が持ってるよ。10分以内に奪わないと……"シン君のせいで"その子死んじゃうかも」
シンの体が強ばる。毒。自分のせいで人が死ぬ。トラウマに剣を持つ手が震える。
「っ同じにはならない!俺は今度こそ、全てを守る!」
地を蹴るシン。剣を振りかざしシェードへ攻撃を。しかし掠りもしない。
「58番ってことはさぁ。かなり長い間ギルドで生き延び続けたってことなのに、君、本当に弱いね?」
シェードの蹴り。
シンは壁に叩きつけられる。
「もしかしてず〜っと、逃げ回ってたわけ?仲間の命が危ないのに、自分はずっと逃げてただけなんだ?」
「違っ」
「違わないなぁ」
シンを襲う二発目の蹴り。腹部に直撃し、壁にめり込む。
「がぁっ……っけほ……」
(コイツ強いっ早くしないとミランさんが死んじゃうのに……俺はまた守れない……俺が、弱いから)
剣を持つ手が絶望に緩む。シェードがニヤリとほくそ笑んだ。
「し、シン、さん……」
微かな声。弱々しいが、ミランの凜とした声だ。
「大丈夫、です。ゴホッ……貴方はもう、一人ではありません、わ。皆で支え合って働く……それがアザゼル様の目指す魔王城の姿なのですから」
「!……ミランさん」
「貴方は強く、優しい。魔王城の勇者シン……」
シンの赤い瞳が力強く光る。もう一度剣を強く握りしめた。
「あっはは!いいね!仲良しこよしクラブ魔王城!支え合う?誰かに守られてる奴が、誰かを守れるワケないでしょ」
シェードの言葉は、シンには響かない。シンは剣を構え一直線に突っ込む。
シェードがナイフを振り上げる。が、そのナイフは矢により弾き飛んだ。
「っ?!」
倒れているミランが死にものぐるいで放ったのだ。
「あはっ!いいねいいね!でも甘いよ!」
反対の手で腰からナイフを引き抜きシンへ向かって投げる。
毒塗りナイフだ。シンがそれを防ぐ間にかかと落としを食らわせてやる。
シェードは勝ちを確信した。だが、シンはナイフを弾かない。肩と頬にナイフが突き刺さったのに防ぐことも止まることもない。
「うおおおおっ!」
シンの意思が籠った剣がシェードの体を切り裂いた。




