第31話元勇者の暗殺者
「裏切ったことを後悔?する訳ありませんわ。あそこほどの地獄、早々ありませんもの。まだ死んだ方がマシ、と言ったところですわね」
「アハッ、それな?実は僕勇者上がりなんだ。てゆーかジョブは勇者のまま。でもね、カイザーさんは僕のことは特別扱いなんだ」
「聞いたことがある……ギルドに入ってすぐ依頼以上に魔物を倒し、戦闘中は仲間すら切り刻むバーサーカー。凶暴故にカイザーに始末されたって噂の男」
「え?僕のこと知ってるんだ。嬉しい〜。カイザーさんは個別で僕を雇って、逃げた勇者の始末をさせてくれるんだ。君たちみたいな、ね?」
シェードはナイフを投げながら笑う。その顔は人畜無害のように思われるのに、二人の背中を震わせる。
「勇者はいいよ。痛みや苦しさに慣れてるからタフなんだ。たとえばちょっとくらい指を切り落とされたり水に着けられたりしても、叫び声を上げずに我慢するんだよ。でもね、だんだん我慢できなくなって、最後には泣きながら命乞いをしてくる。僕はその顔を見るのがだぁい好きなんだぁ……君たちはどう?どっちが耐え症ある?」
「さぁ?気の狂ったピエロに命を奪われて、さぞ無念でしょうね?」
「いいねいいね。気の強い女の子は大好きだよ。そっちの男の子の方は……えーと確か、シン君だっけ?君の反応は面白そうだなぁ」
「ッ……」
シンもそれなりの勇者だ。唇を噛み締めながらシェードを睨む。
「後悔させると言いましたわね。今に後悔するのは貴方の方ですわ。アザゼル様が貴方を放っておくはずがないもの」
「あぁ。だからそんなに強気なのか。一人ずつ攫って殺して、最後にアザゼルの頭の上からにさぁ、君たちの目玉落としてやったら、一体どんな顔するかなぁ……あ〜想像するだけでゾクゾクするよォ」
と、ニコニコしていたシェードが、ピクリと眉を動かす。
「流石、早いね。もう来ちゃったか」
意味深なことを言いながらシェードはナイフを腰に刺してコンクリ打ちの部屋から去っていく。
「少しだけ待っててね。これから訪れる痛みと苦しみに、思いを馳せながら……」
シェードが去っていきミランは大きく息を吐く。カタカタと、隣のシンが震えていることに気づいた。
「シンさん。大丈夫ですわ。アザゼル様がきっと助けに来てくださいます」
「う、うん……」
「昨日の……カイザーの件ですの?」
「ッ!……情けないんだけど、引きずっちゃってるんだよな。せっかくアザゼルさんとこで働けるようになったのに足引っ張ってばっかだ。このままじゃ俺、クビになっちゃうかもなぁ……」
「シンさん。アザゼル様は、真っ直ぐに私を見てくださいます。もちろんシンさんのことも。私はそれに応えたい」
バキンッ
鈍い音と共に手枷が床に落ちる。ミランの手には髪飾りの部品である針金が。
「さっ、不安ならアザゼル様に聞いてみましょう!シンさんが、クビかどうか」
クスッと笑うミラン。シンはキョトンと目を丸くした後、吊られたように笑った。
◇◇◇
一方アザゼル達は二人の行方を追い、手分けして探していた。10分後アトラクション前に集合したが二人足らない。
「ヒバリとオルウェンはどうした?オルウェンはともかくヒバリが時間守らないなんて……」
マイペースなオルウェンとルールに厳格なヒバリ。あのコンビが居ないのは珍しいことだ。
「何かあったんでしょうか?」
「あぁ……確かお化け屋敷の方を担当してたな。俺が探してくるからルイーゼはここを頼む」
「!アザゼルさん!二人が戻ってきました」
青ざめて駆け寄るルイーゼ。ヒバリとオルウェンは確かに戻ってきたが、その姿は散々足るものだ。全身に切り刻まれたような出血を負い、オルウェンがヒバリに肩を貸している。ヒバリは意識がないようだ。
「ヒバリ、オルウェン!どうした、何があった?」
「あ、アザゼルさん……」
オルウェンは膝を着く。二人とも酷い怪我だ。
「お化け屋敷。近く。ヒバリ、隠し通路見つけた。怪しい。入ったら、刃物持った男。想定外の強さ」
オルウェンは口数が少ないが、相棒のヒバリの怪我に心を痛めているようだ。
アザゼルはオルウェンの肩を叩く。
「よく戻ってきた。二人はきっとそこだな。ルイーゼと俺で向かう。ニーア!」
「ういっす!」
「絶叫じゃない組も集めてランドの外へ。指揮を任せた」
「お任せあれ!」
「さぁ……ウチの大事な従業員を返してもらおうか」
鋭く光るアザゼルの眼光。日が暮れ始めたランドにて、アザゼルとルイーゼはお化け屋敷方面へ向かった。




