第27話魔王と帝王の対面
アザゼル達の社員旅行は順調そのものだった。
食べ歩きに観光。エンゼル王国南端の観光地を楽しみ食事もそれなりに。旅館に戻ると豪勢な食事を楽しんで仕上げは本命、温泉である。
この旅館には四人までの個室しか無いため各々別れて入浴準備だ。アザゼルと同室であるシンはワクワク、胸を高鳴らせながら着替えを取り出す。
「俺、温泉って初めてッス!大きな風呂っててどんなだろう……泳げるかなぁ」
「泳ぐのはマナー違反と聞いたぞ」
「マジすか。そういえば、女湯の方は大丈夫ですかね?」
「ルイーゼとミランが着いてる。時間通り入ってくれるだろう」
「いや。そこじゃないんですけどね」
(アザゼルさんと同部屋がいいって喚いて、二人が喧嘩してたの忘れたのか……?)
「おぃシン!」
「は、はいっ?!」
「この旅館。温泉内で酒が飲めるらしい!人数分頼もう!シンはみかんジュースを頼んでおくぞ」
「…………どうも」
シンは匙を投げた。
温泉はニーアの報告通り見事なものだった。露天風呂からは雲ひとつない満天の星空と、エンゼル王都の夜景を眺めることができる絶景スポット。
体に染み渡るような温もりに、シンは大きく手足を伸ばした。
「あ〜!すっげー気持ちいい!これが温泉……」
「あぁ……素晴らしい。魔王城にも作れば皆のストレス値が下がるな」
「ストレス値?」
「あぁ。俺のスキル、従業員管理を使えば雇っている皆の心身の疲れ度を見ることができるんだ。シンは、と」
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シン
連勤 0日
ストレス値 200→48
性格 一人でコツコツタイプ
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「うん、ストレス値が大分に下がってる。いい兆候だな」
「疲れ度か〜。魔王城に来てから週三回のダンジョン素潜りだけだし、内容も無理なくクリア出来る範囲のもの。俺、もっと高難度のダンジョンも行けますよ」
「采配はルイーゼに任せてある。ルイーゼに相談し、説得できればダンジョンランクを上げてもいいが……無理することは無い。怪我をしたら元も子もないからな」
「ほーんと、優しすぎますよアンタ……俺、勇者になるって決めた時は凄く希望を見てたんですよね。家族にも友達にも応援してもらって、親には誇りだ〜とか言われて」
シンは石造りの浴槽の縁へ肘をかける。
「でも、入社してみたら一転。勇者は使い捨ての駒。利益のために善悪の区別もつかないまま、命令された通りに働くだけ。おまけに安月給……何やってんだろ、って毎日思ってました」
「……両親は?」
「亡くなってます。俺がダンジョンをクリアできなかった時毒ガスの処罰を受けたんス。二週間くらい寝込んでる間、実家に仕送りができなくて、二人はそのせいで……」
「毒ガス処罰か。致死量ギリギリのガスを吸わせ、経験値を積ませると共に己の行いを反省させる。非効率で下劣極まりないものだな」
「カイザー……奴は勇者の苦しむ顔見たさにやってる部分もありますからね。でも俺がもっと強ければ両親を死なせずに済んだんです。俺にもっと、力があれば」
シンは湯船を掬いあげ、握りしめる。指の隙間から零れ落ちていくお湯は、シンの取りこぼした命を表しているようだった。
ぽすん
アザゼルの手がシンの頭を撫でる。多くは語らない。アザゼルが見つめるのは、シンの"これから"だ。
「シンは真面目で責任感がある。俺はそこを気に入ってる。然るべき環境があれば、君はちゃんと戦えるんだ」
よしよし。子供をあやす様に撫でられ、シンの涙腺が緩む。
「う……アザゼルさぁん」
「シンは泣き虫だなぁ」
「泣いてまぜん゙……」
湯けむりの中、シンの心はまた一つ、闇から放たれた。
ガラリ、露天風呂に繋がる戸が空く。他の従業員達は熱い熱いと早々に上がったはずだ。戻ってきたのだろうか。
戸から顔を出した男を目の前にした時、シンの瞳が大きく見開かれた。
「先客か」
オールバックの薄いブロンドヘア。冷徹な黄金色の瞳。鍛え上げられた肉体を備えたその男は明らかに一般人ではないオーラを纏っていた。魔王城の従業員では無い。女将が言っていたもう一組の客だろう。
「もうそんな時間か。すまない。今上がる」
「いや、俺が早めに来すぎただけだ。気にする必要は――」
黄金色の瞳がアザゼルの横で引きつった顔を見せるシンを捉えた。
シンはカチカチと歯を打ち慣らし、湯船に波紋が広がるほど震える。
「おぃ、どうし」
「58番?」
男に番号を呼ばれ、シンの息が浅くなる。
何故ここに。見間違え。いや違う。こいつは、この男は。
「か……カイザー」
巨悪の根源カイザーと魔王アザゼル。初対面――




