第25話ダメで可愛い上司を持つと大変だな
エンゼル王国
ギルド
「ねぇねぇ聞いたァ?"ブラックエンドのロア"魔王アザゼルの部下に負けておかしくなったらしいよ」
「えっラグって、どんな悪党も籠絡させ仲間になったフリをし、最後には組織ごと壊滅させるっていう……」
「そーそ。魔王城から帰ってきてからおかしくなっちゃったってさ。勇者は弱い……僕が負けるはずない…あぁ、カイザー様…僕はかちまぁあすっ!ってさ」
「うわやばいなそれ…もしかして魔王に幻術かけられたとか?」
「有り得る。魔王アザゼルってこないだもSランクパーティボコしたらしいじゃん?やべーな…絶対討伐任務行きたくねぇ」
「世界の破滅もすぐそこね。でも、このギルド終わらせてくれるならそれでもいいかもね」
「確かに。任務こなしてこなしても、生活が一つも楽にならねぇ。それに加えて世界を滅ぼす魔王の誕生か…虚しい人生だったなぁ…」
依頼版の前で会話をする勇者たち。その噂話を受付の奥からカイザーは聞いていた。手に持っていた書類がぐしゃぐしゃと握りつぶされていく。
「クレア」
静かな声。秘書であるクレアはビクリと肩を震わせる。
「は、はい」
「早急にあの魔王城を処分しなければならない…有象無象ではダメらしい。国総出で叩き潰す必要がある」
「分かりました。では、"彼"との対談を要請します」
「見ていろクソ魔王……俺の平和《利益》を犯した罪、死ぬだけでは償いきれんぞ…」
カイザーは口端を上げるとタバコを床に吐き出し強く踏みにじった。
◇◇◇
魔王城
「よし!社員旅行の準備、完了!」
アザゼルの秘書、ルイーゼは旅行カバンを閉じると大きく伸びをした。メイド服をひらめかせ、主、アザゼルの元へと向かう。
「さ、次はアザゼル様のお支度を整えないと…」
「あーらルイーゼさん。奇遇ですわね。そのお役目、私が果たしますのよ?」
廊下にて佇むのはハイウエストのスラックスを身につけたキャリアウーマンのミラン。薄紫の髪の毛がふわりと靡く。
「あ、あらミランさん。大丈夫ですよ。アザゼル様の日々の持ち物は私がいっちばん把握してますから」
「では私に教えてくださる?ルイーゼさんがもし体調不良等になった時は、私が代わりにアザゼル様の身の回りを整えて差し上げなくては…」
「いえいえ。そんなわけには――」
和かに笑っていた二人。数秒後押し合いながら廊下を小走り。
「ルイーゼ様ばかりズルいですわ!私もアザゼル様の身支度をしたりお布団を整えたり御髪を梳かしたりしたいですわ!」
「どーせミランさんはアザゼル様の布団でゴロゴロしたり匂いを嗅いだりするのが目的なんですよね?!そうはさせません!アザゼル様は私が守ります!」
「はぁ〜?!それをやってらっしゃるの、ルイーゼさんの方でしょう?!この変態メイド!」
「なっっひ、酷い言い方です!ミランさんこそっ胸をわざとアザゼル様に擦り付けたりする尻軽お嬢です!」
「なぁんですってぇええ?!」
押合いながら二人アザゼルの部屋までたどり着いた。バンッと勢いよく戸を開ける。
「「アザゼル様!お支度を整えさせて下さい(ませ)!」」
「あーとそれからおやつと〜カメラと〜」
「あぁあアザゼル様っ、もう入りませんよぉお……」
そこには旅行カバンを用意するアザゼルとそれをお手伝いするアンジュの姿が。
「なっ……さ、先を越されましたわ…アンジュさん、なんて抜け目のない」
「天然に見せかけたしたたかな女さんですね…強敵です…」
「お、ルイーゼ、ミラン。旅行の準備は整ったか?」
「勿論ですわ!アザゼル様のお支度を整えるお手伝いができれば、と…」
「もう始めてらっしゃったのですね?お疲れでしょう?私がお茶をお持ちしましょうか?」
「あぁ。ありがとう二人とも。じゃあ、コレを荷車に積むのをお願いできるか?」
「もちろ…」
二人は頷きかけて言葉を失った。アザゼルがコレ、と刺したのは山積みになった旅行カバンの数々。既に大きめのカバンが五ついっぱいになっている。
「あ…アザゼル様。なんですかこの大荷物は?!」
「え?だって全部必要なものだからさ。ね、アンジュ」
「はっはいっ。枕が変わると眠れないなんて…アザゼル様、魔王なのに繊細で…と、とと、とっても可愛いれす…」
「揶揄うなよ〜」
ミランのとルイーゼの間に衝撃の雷が。
この女、侮れぬ。
「って、アザゼル様!こんなに乗りませんわよ!あっ、これはなんですの?!お鍋なんているわけないでしょう!」
「いやほら、夜な夜なお腹すいたり。野宿したりするかも…」
「こっちはコロコロローラー……み、ミランさん」
「えぇ。ルイーゼさん。一時休戦ですわ。アザゼル様、お荷物頂戴しますわ!」
「あっあぁー!せっかくパッキングしたのに!!」
次回魔王城、社員旅行へ向かう。




