第24話働く環境は上司が整えるべし
「嘘や悪口で魔王城内の風紀を乱す行為。試用期間内だがラグ、君は懲戒解雇だ」
「そんな映像でたらめですよ。僕はアザゼル様のことを思って…」
「もう演技は不要だ」
アザゼルは指先をラグへと向ける。
「処分されたくなければ去れ」
「……ふ、くく、あははははは!!いやぁ…もうバレちゃいましたか。あんまりにも温いので油断したなぁ…ああ、そうですよ。すべて僕がやったことだ。だがどうですか?偽りの仲良し魔王城ごっこが浮き彫りになったんじゃないですか?」
「やはり…ラグさん。口を慎みなさい。これ以上のアザゼル様への無礼は極刑に値しますよ」
「…ここは生ぬるい。僕に流されて悪口や嘘を信じ込み、己の弱さを易々と露呈する。カイザー様のように弱いものを強いものが支配すべきだ。愚かなことができないよう、依頼をたっぷり与えるべきだ…アザゼル様、いえ、魔王よ。そうは思いませんか?」
「思わない。一部の人間が苦しむ上に成り立つ豊かさ等、なんの価値もない」
「頭が悪いなぁ。才能をもつ選ばれし者たちが不平不満を漏らさず最大限の力を発揮するから世界は保たれているんですよ」
「そのために残りの勇者達は血反吐を吐くまで働かせていいと?」
「当然。馬鹿の頭を使わせない。だからカイザー様のギルドは莫大な利益を効率よく得られている。魔王様は馬鹿の頭を使わせたから、今回パフォーマンスが下がった」
「馬鹿、か…ではそれが嘘偽りだと言うことを証明しよう」
「どうやって?貴方の強大な力で僕を始末しますか?」
「俺が出るまでもない。シン、頼んだぞ」
「えっ…お、俺?」
「ハッ、血迷いましたか?勇者の雑魚が純粋な剣士に適うわけないでしょう?」
「人を見下し、同じ場所に落とそうとしているブラック野郎は相手の戦力を見誤る」
「……いいでしょう。カイザー様から奪った大切な駒。引きずり戻して臨時報酬を得ましょうか」
ラグは両手に双剣を構える。
「あ、アザゼルさんっ、俺が、勝てるわけ…」
「いや、シンなら楽勝のはずだ。だってもう、ホワイト魔王城に転職したんだからな?」
シンは生唾を飲み込むと片手剣を取り出し、構える。ある者は勝てるはず無いと心配し、ある者は余裕のある笑みを浮かべる。
「あ、あの、アザゼル様。し、シンさん、勝てますか?」
アンジュが両手を組んでハラハラしている。
「アンジュ。心配するな。シンは一人でコツコツタイプ。パーティにすると動きが鈍るし、精神状態に剣技が左右される。裏を返せば、人の気持ちによく気づくということだ」
「アンジュさんは入ったばかりだし、知らないのも無理無いですわ。シンさんは一人でダンジョンに潜り込み、半日で制覇して帰ってきますの。ですから、ね、アザゼル様」
「流石ミラン。察しがいい」
アザゼルは両手を広げ、シンとラグの周囲を薄い幕で覆う。
「これは……姿を隠す魔法、ですか?一体何のために…?」
「シンの周囲を無音、無人にした」
「シンさんの実力が一番出せる空間ですわね!」
「アザゼル様が従業員の働きやすい環境を作る。それも上司の務め、ということですね?」
「その通り。全く、俺の部下たちは優秀だ。君なんかより、ずっと」
ラグは眉間にシワを刻む。
「追い詰め方が生ぬるかったようですね…いいでしょう。魔王城の仕組みが間違っていること。シン君の生首一つでわからせてあげますよ!」
双剣を構え、素早いダッシュ。隠密を謳うだけある。音もなく、躊躇いもなくシンの首を刈り取る。
ザンッ
すれ違う二人。
お互いに剣を振り切っている。
勝負は一瞬のことだった。
「…うそ、だ……」
中腹から折れたのはラグの剣。さらに全身を襲う打撲の痛みに白目を向いて倒れ込んだ。
上がる歓声。アザゼルは小さくガッツポーズだ。
「ふへぇ……よ、良かったぁ…」
シンはヘナヘナと脱力し剣を収める。
「ラグの剣技をすべて見切り、剣をへし折り全身に10発の峰打ち。実に洗練された剣だな!」
「なんでアザゼルさんが得意げなんスか……」
「部下の成功を喜ぶのは当然のこと。さて、皆、今回はラグの嫌がらせがあったにせよ、それを増長させてしまったのは事実だな?」
従業員達は俯く。
「はい……どんな罰も甘んじて受けます…」
「コイツの言う通り、俺らは馬鹿ですもう少しでアザゼル様の大切な場所を壊してしまうとこりだった……」
「よし。では罰として…」
アザゼルが片手を振り上げる。
誰もが叱責を覚悟し、体を強ばらせた。
「社員旅行でめちゃくちゃ絆を深めるぞ!」
静まり返る一同。数秒後、声を揃えた子気味良い返事が魔王城を包み込んだ。




