第22話新人のイタズラ
二日前
エンゼル王国
冒険者斡旋ギルド
執務室
「まさかSランクの貴様らが無様に負けて帰ってくるとは。貴様らだけは俺をがっかりさせないと思っていたのに…」
ギルド長、カイザーは煙草を灰皿に押し付ける。相対し、身を震わせるのはボコボコのイグルと焼けこげたユリとユノ。
「聖女アンジュはどうした?」
「こ、殺され、ました」
イグルは咄嗟に嘘をつく。それだけ強大な敵だと思わせなければ、どんな処分が下るか分からないからだ。それに実際――
「ヤツは…魔王アザゼルは化け物です」
「……そうらしい。聞けば、勇者を洗脳して取り込んでいるとか」
「そっそうなんス!俺らの攻撃を指先一つで弾くくらいヤバいやつで」
「うんうんっ、僕らの最高禁忌魔法も防がれたし。ヤバいよアイツ」
「強い。強い」
「強いのは前々から分かっていたはずだが。他が手に負えない時に強敵を叩きのめす。だから貴様らはSランクと呼ばれているはずだが……これまでの高待遇を裏切るような行為だな?」
「い、いや…奴はそれ以上で…」
「言い訳ばかりだなお前達は。これだから役に立たない。どいつもこいつも、使えないクズ」
カイザーは立ち上がると三人の前に立つ。威圧感に、ジリリと後ずさる。
「魔力が無い。奪われたか」
「あっ……ば、バレ…」
「分からないとでも思ったか?マヌケ。貴様らは今日をもってSランクパーティを追放る二度とギルドの敷居を踏むな」
「そんな…」
青ざめる三人にはもう見向きもしない。カイザーは椅子へと座り直した。
「ラグ」
「はぁい。カイザー様」
キラキラと降り注ぐダストシャワーと共に姿を現す男。糸目を細め、ニコリと笑う。
「魔王城へ潜入し内側から崩壊させろ」
「内側、ですか?」
「力で敵わないのなら、組織から崩す。一人異分子を入れることにより、組織は即崩壊。乱れたところに本陣を叩き込む」
「承知しました。奴らの薄っぺらな組織、ぐちゃぐちゃに壊してきますよ」
「あぁ。所詮は偽りの洗脳組織。一度亀裂が入れば崩壊容易い。期待しているぞ。我が親衛隊」
「えぇ。お任せ下さい」
◇◇◇
魔王城
「そ、それって本当なんでしょうか?」
「本当ですよ。貴方の恋の相談に乗ってくれていた彼女が、ヒバリさんにちょっかいかけてるのを見ましたから…」
「そんな…信じていたのに…酷い」
「えぇ。心中お察しします……彼女とは、もう深く関わるのはやめにしましょう」
メイドの肩を抱きながらラグはニヒルな笑みを浮かべる。
(人間なんてちょろいなぁ。入ったばかりの僕の話を意図も容易く信じる。例えそんなことするはずないと思っていても、頭の片隅にこびり付くのさ…)
「そういえばあの子、ヒバリ君と一緒にいることが多いような。それに、ヒバリ君は長い髪が好きらしいとかワザと自分の特徴を言って、私にマウントを取っていた?」
(ほらね。友情なんてこんなもの。あぁ。楽しいなぁ。愚か者の集団をぶち壊すのは。これでカイザー様に喜んでいただけるだろうか)
「きっとそうです…恋愛は時に友情を壊す。悲しいですか、彼女とは距離を置きましょう」
「…は、はぃ……」
(さぁお次は盗人騒ぎ、かな…)
ラグの目元が怪しく笑った。
◇◇◇
「ルイーゼ。組織とは悪口一つで雰囲気が悪くなるもんだ」
魔王城の執務室にて、アザゼルは従業員管理ウィンドウを開いていた。
「悪口ですか?こんな働きやすい環境で、悪口なんて出てくるものなんですか?」
「本当は心の奥底で思っていること。口に出すほどでもない"合わない相手"。それは誰にでも存在する。だが、ルイーゼの言う通り環境さえ整えれば、不平不満は出辛い」
「今は環境が乱されていると?」
「あぁ。悪口や噂話を言い合い、思ってもない不平不満が引きずり出されている。巧妙な手口だな」
「やはり、新人ラグさんの仕業で…」
「……ヒアリングの結果、あらゆる悪口と噂話が横行していた。しかし、噂の出処はすべて違う人間」
「えっ、じゃあラグさんじゃない?」
「いいや。奴で間違いない。これを見ろ」
アザゼルは従業員管理のウィンドウをスクロールした。
「ラグだけだ。ストレス値が増えていないのは。残りは軒並み増加している」
「では彼を問い詰めましょう!」
「待てルイーゼ。今は証拠がない。ヒアリングと従業員管理で炙り出した犯人…そいつの証拠を集めるために便利な道具がある」
「道具、ですか?」
アザゼルは掌に魔法陣を出現させると"道具"を召喚。
「リロード……俺の魔王城にブラックな毒素を振りまいた新人め……教育が必要だな」
アザゼルは道具を手の内で弄びながら笑った。




