第21話コンプライアンス違反!
「食事に虫を混入してアンジュに得は無い」
「それは分かりませんよ。虫を食事に入れるなんてそんな、気の狂ったことをするやつの考えることなんて誰にも分かりますまい」
睨み合う二人。アンジュが意図的に虫を混入するなんて、魔王城メンバーも思っていないのだが、新人ラグが疑うのは無理のないことた。真実を証明する術もない。
「……アンジュ、悪いが作り直しを頼めるか?次は俺が見はっておこう。君の料理に、虫なんぞを入れられないように」
「おやまぁ。信用されるんですか?今度は毒を盛られるかも」
「根拠のない疑いや噂話の横行は働く環境を乱す。アンジュはそんなことはしない」
「どうですかね?彼女は元Sランクパーティ。魔王に従うフリをして内側から手引きしていてもおかしくない」
「クドいぞ。根拠がない」
「僕は事がおこってからでは遅い、と言いたいんですよ。アザゼル様の部下を疑うのは心苦しいですが、全ては貴方の安全を思えばこそ…」
「……分かった。だがやり過ぎはやめろ。疑うなら証拠を出すんだ」
「分かりました。証拠、ですね」
ラグはニコリと微笑むと食堂から立ち去っていった。食堂内には重たい空気だけが残る。
(本当に虫が混入していたかも、という不安。疑ってしまったという罪悪感…まずいな。早めに手を打たないと、従業員達のパフォーマンスが下がる…)
◇◇◇
「ふぅ…」
アザゼルは自室にて額を抑える。
「どうかされましたかアザゼル様?もしかして、今朝の件ですか?」
ルイーゼがコーヒーを差し出しながら首を傾げる。
「あぁ。アンジュは顔色が悪かったから早退させた。魔王城内でも変な空気が流れている」
「ラグさんは新人ですし、医者の心得がある…衛生面で多少過激になってしまうのは仕方ないかな、と」
「そうだな。だが、アンジュが入れたという証拠もないのに全員の前であれだけ叱責すれば、周囲の者たちに影響が――」
「アザゼルさんっ!やばいっス!」
アザゼルの部屋に飛び込んできたのはシンだ。
「どうした?」
「ミランさんと女の子達が…喧嘩を……」
「すぐ行く」
アザゼルは胸騒ぎがした。足早にミラン達の元へ。近づいていけばなにやら喧騒が聞こえてくる。
「私がアザゼル様のお金を横領しているとお疑いに?そんなもの、根も葉もない噂。いいえ、悪質な嘘ですわ」
「でも貴方が最近つけてる耳飾り、かなり高価なものよね?一月分の給料では買えないでしょ?」
「これは交渉して安く譲っていただきましたの。私の手腕ですわ」
「はいそこまで。二人とも落ち着いて」
「アザゼル様…」
「大体把握したけど、ミランが魔王城のお金を横領しているって…本当なの?」
ミランと言い争っていたのは二人の仲良しメイド。片方は気が強く、もう片方は気弱だ。
「確かに聞いたのは噂話だったけど、ミランさんの羽振りの良さが不自然なのは間違いないわ」
「ですから、何度も言うように、こちらの耳飾りは貿易船に紛れていたのを安価で口説き落としたものですの」
「昨日は新しいネックレスもしていたわよね?」
「あれは母の肩身ですわ!」
「言い訳がましい…アザゼル様。ミランさんは元お嬢様。過去の豊かさを取り戻そうと貴方のお金に手をつけているんだわ」
「そんなことはっ」
「やめろ」
アザゼルは静かに言い放つと深呼吸。ミランがビクリと肩を震わせた。
「あ、アザゼル様…私は、決して貴方を裏切るようなこと……」
「分かってる。大事なのはその噂の出処だ。ミランは魔王城を第一に考えているし、リリとナナは魔王城の秩序を守ろうとしている。そういう君たちの心を利用した、噂の出処は誰だ?」
「出処…だれ、だったかしら、ナナ覚えてる?」
「わっ、忘れちゃったよぅ……シルビアが言ってたような…でもクイーズもソルベも噂してたし…」
「魔王城内全体で噂になってるってことか…よし、すぐにヒアリングと事実確認だ」
「アザゼル様……これは一体」
「あぁ。"誰か"が手引きして、魔王城内をブラック化しようとしている」
「そんな…一体、誰が…まさかラグさん……う、いいえ。疑ってはだめ。証拠が無いのだから…」
「ルイーゼ。そこは背負わなくていい。従業員管理とヒアリング。この二つを使えば悪質なコンプライアンス違反を炙り出すことがてきる」
アザゼルはゴキ、ゴキと右手の骨を鳴らす。
「面白い。その企み、必ず真っ白に塗りつぶしてやる……」




