第20話猫かぶりにはご用心
「アザゼル様、ご報告。この魔王城に勇者が向かって来ています」
騎士、ヒバリは執務室にいるアザゼルへ一礼。アザゼルはルイーゼに肩を揉まれながら振り返った。
「勇者は一人か?」
「ハッ!男の勇者が一人…」
「分かった。面接だな。ルイーゼ、肩もみありがとう。大分軽くなったよ」
「いえ!マッサージならいくらでも…」
ルイーゼはうっとり。名残惜しげに肩もみを止める。
「さて、今回はどんな新人か…」
アザゼルは玉座の間にて、今日も哀れな社畜勇者を迎える。
◇◇◇
「あの、僕を魔王城に転職させてください!」
「え?」
本日の面接官、シンは目を丸くする。剣を片手に「今日は俺の見せどころッスね!」などと張り切っていたのだが、勇者の第一声に力が抜けた。
「魔王アザゼル様の素晴らしい力は巷でも噂になっていて…そんなお方にお仕えできたら幸せだなぁと」
男は糸目を薄く細め、柔らかな笑みを零す。真面目で、物腰柔らかそうな雰囲気だ。
「えぇ…あ、アザゼルさん。俺どうしたら…」
「うーん…なぁ、君は魔王城でどうなりたい?」
「そうですね…アザゼル様のために、身を粉にして働けたら光栄です。僕は医者としての知識もありますので、なにかとお役に立てるかと…」
「医者…いいですねアザゼル様っ。ちょうどメディカル系の従業員も探していましたし」
ルイーゼが頬を緩める。
「身を粉にして…やはりこの方もギルドに扱き使われてきた身なのですわね…ブラックからホワイトへ、是非転職させたいですわ」
ミランもアンジュも、この男勇者は転職決定だと思っていた。
「シンはどう思う?」
「え、俺……俺は、えっと……まだ、分かんない、デス」
「うん。正直でいいな。よし、じゃあ君には試用期間を設ける」
「試用期間、ですか?僕が魔王城にとって有用かどうかを試すための」
「あぁそうだ。期間は一ヶ月。その後、正式採用だ。不満か?」
「いえいえ。上の方が決めたことに逆らうなんて馬鹿はしませんよ。では、今日からよろしくお願いしますね。アザゼル様」
ニッ、と糸目が三日月型に笑った。
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ラグ
連勤 0日
ストレス値 0
忠誠心 0
性格 頭脳派、サイコパス、特技は騙し討ち
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「……」
アザゼルはウィンドウを静かに閉じた。
「ようこそ魔王城へ。君の持ち場は俺の執務室だ」
「えっ、アザゼル様どうして…せっかく医療の心得がある方なのに」
「試用期間だけだ。とりあえず掃除や洗濯等、身の回りのことを頼みたい。スケジュール管理や業務に関わることは引き続きルイーゼに頼む」
「は、はい」
「ヒバリ、オルウェン。ラグを案内してやってくれ」
「承知」
「…」
厳格と無口の騎士コンビ。ラグは二人と共に魔王城案内へ。
「アザゼル様、ど、どどぅして、今の方に試用期間?というのを設けたんですか?」
もじもじ、真っ赤な顔をしながらアンジュが首を傾げる。か細く聴き逃しそうな声だ。
「なんとなくね…まだ信用できないな、って」
「そうですの?ブラックギルドにいれば、魔王城は凄く魅力的な場所に見えますわ。転職したいと願う勇者はたくさんいるかと」
「それにアザゼル様に尊敬の念も抱いてましたし、いい人ですよ、きっと!」
「…あぁ。そうだと良いんだが」
アザゼルは椅子に頬杖をつくと、険しい顔をした。
◇◇◇
「ですから、これはなんだって聞いているんですよ」
「ご、ごめんなさぃ、ごめんなさぃぃ…」
魔王城の食堂は朝から不穏な空気が漂っていた。
「どうした?」
聞きつけたアザゼルは厨房へ顔を出す。そこにはお皿を片手にもったラグと、泣き崩れるアンジュの姿が。
「一体なにが…」
「あぁ、アザゼル様。ちょうどいい所に…こちらを見てください」
ラグはスープの入った皿を見せる。スープには黒い虫が浮かんでいた。
「スープに虫が入っています。この厨房の担当は彼女。皆さんの食事を作る場所を不潔にしているということです」
「落ち着け。虫なんて空気中にごまんといる」
「あぁそうですね。僕のお皿だけなら、そう思ったかもしれません。ですが、ねぇ皆さん」
ラグは食事をしている他従業員に向け、呼びかける。従業員達は戸惑いながらも誰も彼もがスープを食べ残していた。
「こんなにも混入している。意図的に放り込んだのでは?」
「ちがぃます…私、そん、な、こと」
「はぁ?なんですか?聞こえませんね。ごにょごにょ喋るってことは図星ですか?やっぱり貴方が意図的に、食事に虫を入れたんですかァ?」
「うっ…」
数人の男女が口元を抑える。アンジュは言い返すことができず涙目で震えるだけ。
アザゼルの額にピキ、と青筋が。
「アンジュは料理を大切にしている。虫なんか入れるわけがない」
「アザゼル様。僕は医者として衛生に気を遣っているだけですよ?」
◇◇◇
次回、新人ラグがトラブル勃発!




