第18話新人いびりはほどほどに
「アンジュの新加入により…シェフ並みの食堂が爆誕…」
アザゼルはカトラリーに盛られたサラダやハム、フランスパン、ミネストローネを見て、天を仰いでいた。
「なんだこれ?!すげー美味ぇえっ!」
「あら本当…私の家に以前務めていたシェフ並みですわ…材料に高級食品は使われていないのに、なんて品のある味……」
シンとミランが目を輝かせる。魔王城メンバー達もかつてない朝食の味に虜になって言った。
「アザゼル様。ご飯のこと気にされていましたもんね!本当に良かったです。この料理なら、きっと働くメンバー達のパワーにもなりますよ」
「ルイーゼ…うん。そうだね。やっぱり福利厚生整えてかないと。働く環境は本人たちにはどうしようも無い。そこを整えるのが俺の仕事だからな」
「アザゼル様…」
「アザゼル様ぁあ…す、すすす、素敵ですぅ〜!」
ふわり、フリフリのメイド服姿の聖女、アンジュが眼鏡の下の瞳を輝かせる。お玉を両手に感激を隠せない様子だ。
「おはようアンジュ。君のスキルこそ素敵だ。こんなに美味しい料理を短時間で作ってしまうなんて…君のおかげで、今日も皆、健康に働けるぞ」
うんうんと魔王城メンバー達が頷く。
アンジュの脳裏に浮かぶのは、かけられてきた罵倒や雑用ばかりやらされてきた思い出。
(自分を犠牲にすることでしか役に立てないと思ってきた…でも、大好きな料理で私、この方の役に立ちたい…)
「は、はぃっ!ま、ままっ任せてくださいアザゼル様っ!」
薄暗い顔をしていたアンジュが、心の底から楽しいという表情を見せる。
今日も魔王城は平――
「み、ミラン様。これは由々しき事態です」
「えぇそうね。アザゼル様の…」
「「胃袋を先に掴まれた…!!」」
朝食を囲み、コソコソと会議を始める女二人。新たなライバルが、とハンカチを噛み締めている。
アザゼルを取り合って"魔王城内恋愛"が勃発しようとしている事など、アンジュはまだ知らない。
◇◇◇
魔王城、厨房
「み、ミランさん…これは一体なんですか?」
ルイーゼは黒ずみとなった丸い欠片をつまむ。エプロン姿のミランはバツが悪そうに目を逸らす。
「フォンダンショコラ…」
「どうやったらこうなるんですかぁ?!二分の一、いや、五分の一くらいになってますよ?!こんなのアザゼル様が食べたらお腹壊しちゃいますよ!」
「わっ分かってますわよそんなこと!…仕方ないでしょう。キッチンに立つことなんて、無かったんですもの…」
「はぁ…ミランさんの、"アザゼル様の胃袋を取り返そう計画"とてもいい案だと思いましたけど…」
ルイーゼはチラリ、自分が作ったクッキーに目をやる。
「私も一通りの料理はできますが、あの料理上手のアンジュさんと張り合うのは無防なのでは…」
「う…い、いいえ、諦めてなるもんですか!私は努力の女!必ず悪の聖女の料理を越えてみせますの!」
「私がどうかしましたか?」
ひょこ、厨房に顔を出したのはアンジュ本人だ。ミランが叫び声を上げる。
「いっいい、今の聞いていまして?!あ、悪といっても邪悪という意味ではなく、アザゼル様の胃袋を虜にして横取りしてようとしているアクといいますか」
「ミランさんっ全然フォローになってません!」
「?…あれ、お菓子作りですか?楽しそうですね。魔王城では"そんなこと"も許されるんですね」
肩肘を張っていたミランが力を抜く。
「えぇ。アザゼル様は業務の割り振りを無理のないようにされていますわ。それに、これはアザゼル様に極上のおもてなしをするという大事な仕事ですの。新人のアンジュ様にはお分かりにならないかもしれませんが」
「ちょっとミランさん。新人いびりしたらアザゼル様に嫌われますよ」
「っ…し、してないわよ!私はただ、アザゼル様に癒されて欲しくて…」
「素敵です!」
「へっ?」
アンジュは目をキラキラさせながらミランの両手を掴む。
「甘いものは疲れを癒すって言うし、こんなに心込めて作って貰えたら、アザゼル様、喜んでくれると思います!」
「うっっ…ま、眩しい…ルイーゼさん、私…今すごく敗北してませんこと?!」
「してますこと…ぼろ負けです。アンジュさんが天然で素直なので、より一層…」
「敗北?…あ、これもしかしてフォンダンショコラ?」
「分かりますの…?」
「美味しそうだから…でも、混ぜる速度と材料を入れるタイミング、オーブンの温度に気をつければもっと美味しくなりそうですっ」
「っ…」
「ミランさん。人間、誰であろうと幾つであろうと師と思え。アザゼル様の名言第58番です!」
「うぅっ…あ、アンジュさん…その、お菓子作り……お、教えていただけませんこと?」
真っ赤な元お嬢様のお願い。
頼られた!アンジュは目を輝かせて頷いた。
果たしてどうなる?お菓子作り




