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第17話タイムカードビーチフラッグ


蠢く双子の闇毒魔法。魔法陣から津波のように噴き出し、アザゼル達へ襲いかかる。


アンジュの肩が震える。ルイーゼやミランもおぞましい雰囲気を感じているが特に騒ぐことはない。


「ドロドロのゾンビになっちゃいなぁ!」


「ドロドロ、デロデロ」


「あっアザゼル様っっ」


「アンジュ。力をぬけ。コツは指先にだけ力を込め、さんにーいちで全身で力む。心配するな。ミスっても俺がカバーする」


(いつも戦う時は体が震えて仕方ないのに、痛みに怯えることもない…これが、"できる上司"の元で働くということ…!)


「はいっ!お願いします、アザゼル様っ」


アンジュは錫杖を両手で握りしめた。淡い白い光が、アンジュからアザゼルの手の先に流れていく。


「よしきた。行くぞ。さん、に」


アザゼルとアンジュ。二人の眼前に迫る黒いドロドロ。アザゼルの口元が弧を描いた。


「一」


カッッ


フラッシュをいくつも焚いたような光。

黒いドロドロを一気に包み込む。


「っ…」


双子は声を出す間もない。


光が引いていくと、黒いドロドロは一滴残らず消えていた。


「おぉ〜これは凄い威力だな?アンジュの潜在能力は想像以上だ」


「ッ…ッ……」


アンジュは感激し、真っ赤になって震える。


「う…え、えぇ?おかしい、絶対おかしいよ!」


双子の片方、ユリが頭を抱えて壊れたように笑う。


「僕らの最高峰の魔法だぞ?!大人だって相手にならない!」


「ズルだ。ズルだ」


「だから言っただろ?馬鹿な上司を持つと部下は大変だって。アンジュをダメージ吸収としてしか見いだせなかった。ポンコツ上司」


「不合格、ですわね。おかえり下さいませ」


ミランが一歩前へ。錚々たる魔王城のメンバー。その誰一人にすら、傷をつけられなかった。プライド故に、ユリとユノの目血走る。


「認められない…認められなぃっ!!僕らは最強のSランクパーティだ!小さい頃からエリートで、雑魚聖女なんかに見下されるわけはない!ユノ!行くよっ最高出力!」


「あぁ。殺す。殺す」


二手に別れる。片方は炎の魔法、片方は氷の魔法。


「真反対の属性を持つ、僕らの必殺技!エクスファイヤーボム!」


冷気で包んでから一気に燃やす。すると激しい水蒸気爆発を起こすのだ。普通なら一瞬で粉微塵。


だが、一瞬早く放たれたミランの矢が二つの攻撃を空中に散らした。爆散。


「よくやった。ミラン」


「そっちは囮だよーん!」


白い煙の中から突っ込んできたユリとユノ。杖の先から二度目のエクスファイヤーボム。


「アザゼル様!」


「粉微塵だぁあ!」


カッ


今度は地面から巻き上がる白い光。アンジュの桃色の髪の毛が巻き上がる。

錫杖を中心に湧いた膨大な魔力は、双子の技を双子もろとも消し飛ばした。


「そ、んな…ばか、な……」


「もえ、る。もえる…」


火傷をおい、黒ずんだ双子はふらふらとよろめく。

アンジュは涙を流しながら、ぎゅっと錫杖を握りしめた。


「これが私の、本当の力!アザゼル様を守る力!」


戦うことが苦手だったアンジュ。安心できる主君の元で力を振るう。開放感と安堵に涙が止まらない。


「さ、これで理解したか?如何にアンジュが優秀で、君たちはそれをヘタクソに使っていたか」


「っ……ひ、ぃっあぁっ!殺さ、ないで!殺さないでっ!アンジュ!僕達が悪かったから!」


打つ手が無くなった双子は慌てて頭を下げる。アザゼルは二人を見下ろした後、唖然と突っ立っているイグルへ視線をやった。


「あ……お、俺も…わ、わ、悪かったよ……なっなんでもする!これまで奪ったカネも全部お前にやる!」


命乞いをするなら今だと言わんばかりの掌返しだ。


「だってさ。どうする、アンジュ?」


「……謝られても私が貴方方の元で受けた仕打ちは消えない。数年間、私に奮ってきた暴力も、言葉も。一生消えない。貴方達が死んでも、消えない」


「ひっ…ごめんなさい…ごめんなさいいぃ」


アンジュは錫杖を振り上げ――


床に叩きつけた。

途端、三人を襲ったのは強い疲労感と脱力感。


「貴方達から魔法の力を奪いました」


「な、なんだって?!ま、魔法、魔法がないっ!!」


「嘘でしょ?!魔法が使えないってことは…ぼ、僕らはどうやって稼いでいけば…」


「死ぬ。死ぬ」


「まだ分かりませんか?これからは休むことなく毎日働きなさい。私やこれまで奪ってきた者たちの時間分、詫びながら」


唖然とする三人。アザゼルは彼女の制裁に大きな拍手をした。


「よし、ヒバリ。こいつらをつまみ出しといてくれ」


「い、嫌だ…労働なんていやだぁあ!」


「魔法…僕らの最強の魔法が…魔法がない。何もない。雑魚。僕は雑魚」


「平凡、並…」


Sランクパーティは崩壊した。アザゼルは服の袖を捲って腕時計を確認。


「あの、アザゼル様…本当にありがとうございます。おかげで私、自分の本当の力を知ることが――」


「あ゛ーーー!一分すぎてるぞ!全員走れ!」


「えっえっ?!な、なんですか?!走るって、どこに…」


「退勤だ!!!タイムカードを切れぇええ!」


魔王城全員が血眼になってタイムカードに突っ走った。







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