第16話ダメな上司を持つと大変だな
「おぃ!アンジュ!お前何言ってんだ?!」
アザゼルの手を握り返した聖女。冒険者パーティが焦るのは当然のこと。
「待って待って…魔王には全然歯が立たなくて、アンジュは洗脳されちゃったってこと?」
「ありえないありえない」
双子も戦う前にして後退りだ。
「洗脳?アンジュが決めたことだ。今日これより、アンジュは魔王城、炊事課に転職とする。ね、ビーフシチュー作れる?」
「はっはひっ、おまかしぇくださっひっ!」
アンジュは噛み噛みながら敬礼する。ずるりと大きめの眼鏡がずり落ちた。
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
アンジュ
連勤 1278日
ストレス値 1000
性格 おっとり天然、家庭の味
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
「1200ってことは…約三年強……凄く頑張り屋さんなんだな」
「ふぇっ?!えっあっ、わ、私はそんなに…えっと、体は頑丈なので…」
「アザゼル様。アンジュさんの仕事場や宿舎を案内するのはこのルイーゼがやりますよ」
ニコリ。ルイーゼは微笑んでいるが目が笑っていない。燃え上がるのは嫉妬心である。
「それがいいですわねルイーゼさんっ!アンジュさん。分からないことはぜーーーんぶっ私かルイーゼさんに聞くんですわよ?アザゼル様はお忙しいから」
早口でまくし立てるミラン。二人からしたら、"アザゼル様から遠ざける!"という下心満載である。
「いやいや。二人にばかり負担をかけられない。俺やシン、ニーア、ヒバリとかシルビアとか。ま、分からないことは皆に聞いていいからね?」
アザゼルはアンジュの頭を撫でる。青白い顔に赤い瞳は、冷徹な魔王そのものなのに、手つきには優しさが。アンジュの瞳が潤む。
「くぅうっ!この燃え上がるような嫉妬心!なのにアザゼル様の優しさが胸をときめかせてきますっ」
「分かりますわよルイーゼさんっあぁっもどかしい!私の頭も撫でてっ!」
「はいはいよしよし」
アザゼルは二人の頭を撫でながらほっこり。
(慕われるのって悪くないなぁ。これでより魔王城も安泰)
「げーっこいつら気持ちわるいよ。ねぇユノ」
「気持ち悪い気持ち悪い」
双子は揃って怪訝そうな顔をする。しかし手元は何やら手遊びで企んでいた。
「おっと、まだ面接の途中だったな。君たちよく似てるな。双子か?」
「魔王が気安く話しかけないでくれる?超〜油断してるよね?舐めてるよね僕らのこと」
「舐めてる舐めてる」
「アザゼル様。面接するまでも無いかと。この方々も、アンジュさんにダメージを押し付け、能力もないのに成り上がっただけの屑ですわ。私が処分致しますの」
「いや、ミラン。ここは俺にやらせてくれないかな?…君たちはアンジュのことを戦闘としては役に立たない。そう言っていたな?」
「そうだよ。アンジュはダメージ肩代わりするだけ。身代わりくらにしか役に立たない」
「鬱陶しい、鬱陶しい」
「優秀な人材も、使う相手が悪ければ役に立たない。彼女の才能を潰しているのは君らの方だ」
「は?何言っちゃんのこのオッサン」
「アザゼル様を…オッサンですって?」
「処された後はお口を縫い付けなければなりませんわね」
「まぁまぁ。要は、ダメな上司を持つと部下が可哀想だ。そう言いたいんだ」
冷たい笑み。ユリ、ユノ。プライドの高い双子の怒りを煽るには充分だった。
「その女は役ただずだ!僕らは超エリートの魔法学校を首席で卒業し、新卒から皆を扱き使う、上に立つ資格がある者!」
「支配支配」
「そう!僕らのために無様に働く雑魚人材!」
双子の間に巨大な魔法陣が。ぐじゅり…嫌な音を立て、魔法陣から飛び出したのは黒いドロっとしたものだ。
「くらいなよ!僕らの禁術、闇毒魔法を!」
「触れば即死。即死。全部飲み込む」
ボタボタ。黒いドロドロは床に落ち、床を溶かす。ツンとした薬物のような匂いにアザゼルは顔を顰めた。
「困るんだよなぁ。労働環境を乱されるのは」
「あっアザゼル様っ逃げて!あの技は触れたもの全ての細胞を溶かし、さらに人から人へ感染していくんです!」
「見境なく?そりゃ始末の悪い魔法だな?」
「わ、私が、この場にいる方々のダメージを肩代わりして……」
アンジュは震えながらも決意を固める。
「ははっ!無理無理!アンジュ如きに僕らの毒闇が受け止められる訳ないよ!」
「雑魚雑魚〜」
絶望に歪むアンジュの顔。それでもやるのだと意志を固める健気な聖女。アザゼルは、そんな聖女の肩を抱き、掌を魔法陣へ向けた。
「教えてやろう。有能聖女の本当の実力を」




