第11話パワハラ社長
「それで、魔王石は?」
どこまでも利益優先。パーティ三人の内、一人は命を落としたというのに心配をするでもなく利益の確認だ。
クレアは言葉を選ぶように唾を飲み込んだ。
「いえ……持ち帰った品は……一つも無く」
「一つも?」
「ッ、勇者は帰らず、斧使いロアも魔導師のクリフもただならぬ怪我をしているようです。フェリエル様、東の魔王城は」
バシャッ
クレアの言葉を遮るようにコーヒーがかけられる。淹れたてでないとはいっても、相当な温度だ。クレアは両手で顔を抑え悲鳴をあげる。
「そんなことは聞いていない。要は人員という道具を失った上に、何も成果が上げられなかった。そういう事だな?ロアとクリフをここへ呼べ」
「は、はい。申し訳ございません」
クレアはハンカチで顔を抑えながら執務室を後にした。
暫くして、肌着にマントを羽織っただけのロアとボコボコのクリフが顔を出した。
カイザーの前で立っていられないほどの怪我のようだ。跪く彼らにカイザーはため息をこぼす。
「酷いナリだな。167番はどうした?」
「み、ミランは……奴らに洗脳されました」
クリフは割れた眼鏡を外しながら俯く。
「洗脳だと?」
「はい。魔王は強大な力で僕らの武器を粉々にし、ミランに体のいいことを囁いて仲間に引き込むんです。恐ろしい魔王だ。僕がこれまで見た中で、最も……」
「アザゼル……あの野郎は化け物ッスよォ。見つめただけで、心臓を握りつぶせるんッスよォ!勝てるわけねぇって!」
成果を上げられなかった二人は必死だ。カイザーから処罰を受けないよう話を盛りまくる。
「勝てる訳がない。それはSランクパーティでもか?」
「え、Sランクって剣一本あれば国を滅ぼす事ができるって言う伝説の……そ、存在すんのかァ本当に?!」
「確かにSランクならば、あの化け物じみた強さにも太刀打ちできるかもしれません」
「そうか。なら貴様らは"同じ冒険者パーティができる事ができなかった"ということか」
カイザーは立ち上がると跪いている二人の前に立つ。
「ッ?!だ、だって俺たちとソイツらじゃランクが」
カイザーの足が、ロアの右手を踏みつける。
「ぐぎゃっ?!」
「ランクの違いは知っている。だが、Sランクが勝てるのに、貴様らが一太刀も浴びせられず、しかも何も持ち帰れていないのはどういう事だ?怠慢じゃないならなんだ?」
「ちっ違っ、ドロップ品は全部ミランの奴が……」
「Sランクと比べて、貴様らAランクは弱すぎる。何故だ?必死さが足りないんじゃないのか?俺への忠誠が、足りないんじゃないのか?」
グリグリとロアの手を踏み躙る。呻くロア。それを横目に、クリフは腰のナイフを握りしめた。
(コイツはここから指示を出すだけ。戦って傷ついているのに安月給……トップで胡座かいてるテメェの首を取ってやる。どのみち処罰を免れないなら、今ここで、政権交代してもらおうか!)
カイザーは自ら依頼をこなさない。だからクリフは見誤ったのだ。この男の強さを。
クリフのナイフは振り下ろされる暇も無い。頭の上で構えた時点で、彼の体は粉々に弾けていた。
「は……」
蹲っていたロアの目の前にボトボトと落ちてくる肉塊。襲ってくるのは、恐怖と悲しみ。
「う、うあぁっ?!クリフ!クリフぅう!!」
ロアの悲痛な叫び声。カイザーは返り血を浴びながら、冷やかにも舌でそれを舐った。
「ロア。貴様は俺に反逆するか?逆らうか?俺が間違っていると言いたいか?」
カイザーに顎を捕まれ、ロアは全身を恐怖で震わせた。
「あ、ぁ。いえ、間違って、いま、せん」
「そうだよなぁ……俺もこんなことはしたくない。コストの無駄遣いだからだ」
カイザーは椅子に腰かけ直すと煙草に火を灯す。
「ロア、貴様はジョブチェンジだ」
ジョブチェンジ。即ち勇者への降格。冒険者にとっては死の宣告だ。
「そ、そんな……この俺が、雑魚でドブネズミ以下の勇者……」
「まだ分からんか。貴様はとっくに、勇者以下の虫ケラだ。番号287番。とっとと下がれ」
「ひっ……そん、な……そんなぁあ……」
ロアはこれから訪れるであろう地獄の日々に震える。これまで自分のしてきた行為が全て自分に返ってくるということだ。
嘆きの声を聞きながら、カイザーは窓側へ椅子を向ける。国の外壁の向こう側、森から突き出る黒い城の屋根。
「俺の利益を邪魔する存在は、必ず消してやる……魔王アザゼルめ」
カイザーはSランクパーティの名簿を手に取った。




