第10話ハーレム社長
「返事は今すぐじゃなくてもいいけど、もし魔王城へ転職する気があるなら――」
「しますの!私をぜひとも、アザゼル様のお傍において下さいまし!!」
ミランは目を蘭々とさせながら詰め寄る。
(勢い!……そ、そんなに転職したいのか。大変な思いしてきてそうだもんなぁ……)
「分かった。じゃあ契約成立だな。従業員宿舎や仕事内容についてはルイーゼとシルビアに聞いてくれ」
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ミラン
連勤 358日
ストレス値 800
性格 バリキャリウーマン、新しいこと好き
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ミランが魔王城の一員となった。
◇◇◇
約一週間後。元社畜勇者のシンは休暇を終えて魔王城へ出勤していた。
「散歩したり読書したり、意外と自分は釣りが好きだって気づいたり。長かったけどめちゃくちゃ良い休暇だったなぁ……体も軽いし調子がいい!今日はバリバリ働くぞ!」
ムキッと、シンは両手で力こぶを作り執務室の戸を叩く。
「失礼します。アザゼルさん、今日はどこのダンジョンに――」
開けるとそこには薄紫の髪をしたボンキュッボンの女が、アザゼルのお茶を差し出し、銀髪の女が肩を揉んでいるという状態。
間違えたかな。シンはゆっくり戸を閉じる。
そして開け放った。
「いや?!なんスかアザゼルさん?!何女の子囲ってるんですか羨ましい!」
「おぅ。シンか。おはよう。休暇明けか遅刻せずに偉いぞ」
「あっ、ありがとうございます……へへ……じゃなくて!誰スかその女性は?!」
「彼女はミラン。経営部長に任命した元勇者だ。今後貿易等を行って行く上で、仕入れと支出を管理してくれる。めちゃくちゃ優秀だからな。シンも頼りにするといい」
「はいっ光栄ですわアザゼル様。私が来たからにはアザゼル様の懐を二倍、いえ、三倍に膨らませてみせますの!」
ミランが両腕を畳んで可愛らしく力こぶを作る。寄った胸がスーツのワイシャツボタンを弾け飛ばしそうだ。
「俺の知らない間にまた仲間が……あれ?ミランってもしかしてミラン・フロスキア?」
「なんだ、知り合いか?」
「あ、いえ、俺が一方的に知ってるだけです。フロスキア家は勇者にポーションや武器を支給してくれていた貴族商人だったので」
「えぇ。そうですわ。私は長女のミラン・フロスキア。以後、お見知り置きを」
「勇者の支援か。素晴らしい試み。商人の鏡だな」
ミランは嬉しそうに頬を緩める。
「だが、それ故に処罰されたという訳か」
「えぇ。冒険者ギルド長、カイザーは勇者に物資を横流しし、王への反逆を企てたとして我が家の販路を封鎖したり悪評を流したりしました。そしてある日、盗賊が押し入り、父と母は……私はクローゼットの中にいて助かりましたが、多額の借金を背負い悪評もある」
「だからジョブチェンジするとしても勇者しか選択肢が無かったし、借金を返すために休まず戦わなければならなかったと……」
「えぇ……っあ、アザゼル様?!泣いてらっしゃいますの?!」
「泣いてねぇよっチクショウ!善人が損をするこの世なんかクソ喰らえだ!」
「うっ!ミランさん!俺にできる事があったらなんでも言ってくださいッス!!」
「し、シンさんまで……おやめになってくださいまし。確かにジョブチェンジの際は絶望しましたが……そのお陰で今、アザゼル様と出会うことができたのですから。そうですわ!アザゼル様、よろしければ寝室のベッドメイキング、私が致しましょうか?」
アザゼルの背後でずっと黙っていたルイーゼの目が光る。
「ベッドメイキング?」
「はいっアザゼル様の快適な眠りを、是非サポートさせていただきた」
「ミランさん。お言葉ですが……アザゼル様の寝室の掃除及びお世話はこの私、ルイーゼが担当しています」
ミランの明るい笑顔が固まり、ニコリと作り物の笑顔に。
「ルイーゼさんは既に多くのお仕事をしていますし、ここは私と分担してはいかがですの?多忙はアザゼル様の生活の"質"を下げることに繋がりますのよ?」
「いいえ。アザゼル様の寝相もノンレム睡眠も私が把握しています。素人が手を出してアザゼル様の睡眠を阻害しないでいただきたいです」
「あらまぁ。では教えていただきましょうか。アザゼル様の愛らしい寝相を。私、ルイーゼさんの負担を減らしたいのですわ」
女の間で火花が散る。ど真ん中にいるアザゼルはと言うと「いやぁ、俺の寝相そんなに酷い?」なんて照れている。
「そこじゃねぇだろ……」
シンだけが全てを傍観しながらツッコミを入れるのであった。
本日も魔王城は平和である。
◇◇◇
エンゼル王国
冒険者斡旋ギルド
執務室
「カイザー様。東の魔王城に送り込んだパーティの内、"勇者以外"の二名が戻ってきました」
カイザーは椅子を回転させ、クレアの方に向く。煙草の火を灰皿に潰しながら盛大なため息を。
「それで……魔王石は?」




