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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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34 駝鳥の盗賊団の算段とシーナの策略

「現場検証で回収した黒焦げの魔術具を解析していたらうっかり魔力を流してしまって転移魔法が作動してしまいました」


 精霊達の情報で未来がわかるシーナが()()()()()()()()()()()()()()なんてあり得ない。


 そうそう、と冷静にトニーが頷いているという事は、二人で転移前に精霊言語で打ち合わせをしていたに違いない。


 掌の精霊達が二回淡く点滅した。


「駝鳥の盗賊団の本陣にいきなり転移したのに圧勝したのですか!?」

「さすがシーナ様!」


 準備万端な状態で賊の本陣に挑んだのではなく事故で転移して無双した話に、セドリックとサイラスは興奮して拳を握りしめてシーナの話に聞き入った。


「賊の所持していた魔術具で転移したので転移先は敵陣に間違いないから、転移の最中に抜刀していました。転移後、すぐに演習用の火炎魔法で賊全員を炎で包んでしまったので、転移に巻き込まれたシーナもハイアット部隊長もかすり傷一つ負いませんでした」


 最強の魔法剣士トニーが転移先の賊の状況をシーナから聞いていたらなら失敗するなんてあり得ないよ。


「もしかして、転移したのは三人だけなのか!」


 トニーとシーナが頷くと、サミュエル叔父は騎士団員を引き連れて討伐したと考えていたようで頭を抱えて、信じられない、と呟いた。


 午前中に魔力枯渇を起こす寸前まで魔力奉納を一緒にしたトニーがほぼ単独で賊を一掃したとなれば驚くだろう。


 でもね、魔法剣士トニーの最強魔法は精霊達の干渉によって敵の魔力を使用するから、魔力枯渇の心配がないのだ。

 まあ、それでもトニーが体力お化けなのは間違いない。


「ええ。シーナ殿が詠唱魔法で援護してくれましたから、燃えない炎に抵抗する賊はちょっと強めに炙れました。それで全員すぐに降参しました」


 焼肉みたいの表現したトニーにサイラスとセドリックは食べかけのステーキをチラッと見た。


「大丈夫ですよ。全員に温泉水をかけたので治癒しています。まあ、後が少し残ったけれど時間とともに薄れるはずです」


 ……ちゃんと炙ったんだ。

 つぶらな瞳のノンがまじまじとトニーとシーナを見た。


「火傷が直るほど温泉水の効能が残っている距離に本陣があったのか」


「ええ、旧国境沿いに拠点がありました。帰路は回りたい箇所がいくつかあったので、駝鳥で移動しました。それにしても、温泉水を殿下と一緒に補給した直後だったので、持ち合わせがたっぷりあったお蔭で、抜刀して炎を出し、シーナ殿が温泉水を見せるだけで、ぺらぺらと自白してくれました」


 一度焦げたら、死なない程度に焦がしてやろうか?と脅すだけで十分効果があったのだろう。


「それで、賊の目的は何だったのですか?」


「温泉水ですね。しかも、距離が離れたら効果が薄れる事も知っていました」


 シーナの報告にサミュエル叔父は眉を顰めた。


「賊に依頼した者は深手の古傷があったようで、当人は襲撃の反射で黒焦げになった賊の中にいました」


「砦に穴を開けて温泉に入りに来なくても、ちゃんと申し込めばよかったのではないでしょうか?」


「盗賊団に依頼しなければならないような人物が砦の中に入れるわけないでしょう!」


 セドリックの疑問にサイラスが即答すると、そうですね、とセドリックは納得した。


「依頼者の身元に繋がる遺留品は転移の魔術具だけでした」


「盗賊に依頼した人物がもう亡くなっているのなら、砦が再び襲撃される事はもうないよな」


 外出禁止を解除してほしいサミュエル叔父がシーナに確認した。


「それが、ないとは言い切れないれないのです。転移の魔術具を制作した古代魔術具研究所のある大聖堂島に問い合わせています」


 そっちか、とサイラス叔父は眉を顰めた。


「この世の中の危険な魔術具は、だいたいどこぞの王家か古代魔術具研究所が所有している。古代魔術具研究所はしょっちゅう爆発している噂があるぞ」


 神罰の時代の前の魔術具は改良しても危険な物が多いのだろう。

 礼拝室に設置した魔術具もサミュエル叔父だけで魔力奉納をしていたら廃人になるかもしれなかったもんね。


「おそらく、教会で禁止されている魔法に手を出して追放された上級魔導士が、癒えることのない深手を癒そうと温泉の噂に飛びついたのでしょう」


 あり得る、とサミュエル叔父は呟いた。

 癒えることない深手って何だろう?


「盗賊団への依頼者は教会を追放されているから正規の伝手で温泉に来れないので、盗賊達に派手に砦を破壊させ、騎士団員達が温泉から離れた隙に入浴する算段だったようです。盗賊達は暴れるだけ暴れたら撤収する手筈になっていました」


「盗賊団が請けた仕事は砦の一部の破壊だけなのか……」


「はい。略奪できそうなものがあればする気だったようですが、ラウンドール王国騎士団を舐めすぎていまましたね」

 温泉施設しかない砦だけど守っているのはガチプロの騎士団なのになぜ強奪ができると考えたのだろう?

 

「うーん。通常の強盗団は騎士団や正規軍に挑んだりしないだろうに、どうしてそんな依頼を受けたのでしょう?」


 僕の疑問にトニーは首を傾げたが、シーナとサミュエル叔父は顔を見合わせて頷いた。


「依頼者が所持していた転移の魔術具か、もしくは、依頼者の詠唱魔法が実行犯の盗賊達を過信させた要因だ、と考えています」


 シーナの推測にサミュエル叔父が頷いた。


「大聖堂島の古代魔術具研究所の連中はとにかく凄い実力者ばかりだ」


「ええ。他にも追放された研究員がいないか、持ち出された魔術具はないか、と教皇猊下に問い合わせています」


 シーナの発言にサミュエル叔父やサイラスだけでなく食堂に居合わせた全員が口をあんぐりと開けた。


「きょっ教皇猊下に問い合わせっ……」


 口籠るサミュエル叔父にシーナは穏やかに微笑みかけた。


「私はアル様の護衛兼家庭教師として個人契約を結んでいます。アル様が滞在している砦が襲撃されたのですから、とことん追求してやりますとも!」


 シーナの宣言に食堂中から、おおー!と雄叫びが上がった。


 いやいや、あなた。なに煽っているのさ。

 シーナは個人的に教皇と親しいから教会の事は教会のトップに任せるだけでしょう?


「ということで、教皇猊下から返信があるまで外出禁止を続けてください」


「あい、わかった」


 ああ、そういう事ですか。

 ビックネームを持ち出せばサミュエル叔父だって大人しくしているしかないからなんですね。

 

「大人しく自室で鉢植えの苗を成長させていますね」


「ああ、これですね。この苺もう少し甘くならないかしら?」


 シーナは苺の欠片が乗っていた皿をフォークで突いた。


「いあぁ、だって、苺の一番甘いところを種と一緒に削いじゃったんだもん!酸っぱいだけじゃなくって、ちゃんと甘かったよぉ」


 実るまで根気よく青年アダムが精霊素を集めるのを手伝ったんだ。

 あっ!思い入れがあるから美味しく感じただけかな?いや、美味しかった。


「あっ!私には甘くない苺を食べさせて自分達はちゃんと味見したんだ!」


「一個を薄く切って全員で味見したんだもん。後は全部種を取ったんだから仕方ないよ。明日の収穫分はシーナとトニーの味見分を取っておくよ!」


「アル様。味見は大事ですよ。どうせなら美味しい苺をたくさん育てたいでしょう?美味しい苺の種を選別しないといけません」


「はい!おいしい苺のケーキをみんなで食べたいです!あっ!卵と生クリームがない!」


「……ケーキですか。牧草地のめどが立つまで牛は飼いませんよ」


 トニーに釘を刺されると僕は口をへの字に曲げた。


「駝鳥を連れてきたんですよね。駝鳥は毎日卵を産まないのですか?」


 サイラスの質問に、さあ、とトニーは首を傾げた。


「繁殖期に何度も卵を産むけれど、毎日生むかどうかは個体差があるようです。駝鳥の餌も確保してあるので、ここが気に入ればたくさん産むかもしれないですね」


 毎日卵焼きが食べられるかもしれない、とセドリックの頬が上がった。


「試しにケーキを焼く分くらいのバターと牛乳の備蓄はありますよ!」


 トニーは食いしん坊の気持ちを優先させてくれた。


「やったー!苺のケーキが焼けるくらいたくさん苺を育てるからね」


 目標ができるとがぜんやる気が上がった。




 僕とサミュエル叔父はシーナの策略にまんまとはまり、それから数日間かけて苺の品種改良に情熱を注いだ。




 後日、僕が考えていた苺のケーキと、トニーとシーナが考えていた苺のケーキが大きく違っていたことが判明した。


 シーナの作る苺のケーキの土台はビスケットなんだもん。

 苺のケーキといえばフワフワのスポンジ生地のショートケーキだよね。


 あれ?ショートケーキって日本なんだっけ?

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