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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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32 奇襲の際の砦の様子

 砦の襲撃の最中に守りの魔術具に魔力奉納をしていたサミュエル叔父とトニーの帰還に涙ぐんで喜ぶ護衛騎士達とは対照的に、ノンを抱えたシーナは二人が無事なのは当然とでも言いたげに涼しい表情のまま精霊言語でまくしたてた。 


『私は全く砦が奇襲されるなんて知らなかったわ。ただ、漠然と礼拝所内で魔力が足りなくなりサミュエル殿下やトニーばかりでなくアルやセドリック殿下まで魔力奉納に参加して、全員が魔力枯渇する未来がある、と精霊たちに聞いていたから、あの魔術具を用意したのよ』


 だからシーナは僕達に魔力奉納に参加せずに見学だけするように言って僕とセドリックに魔術具を持たせたのか。


「敵の数と被害規模は?」


 トニーにもシーナの精霊言語が聞こえているはずなのに落ち着きをはらって奇襲の詳細を護衛騎士達に尋ねた。


「現段階で正確な敵の人数は明らかになっていません。第一報をもたらした砦の見張り塔の報告では、駝鳥のような魔獣に騎乗した二十人程度の賊が強力な魔法攻撃を仕掛けてきましたが、守りの魔法陣が強化された直後だったので打ち込まれた魔法攻撃が反射し、賊の全員が黒焦げになりました。生体反応がないので、全滅です。現在現場の確認に三班と四班が向かっております!」


「本当に、間一髪で間に合ったんだな」


「ええ、中断していたら危なかったですね」


 サミュエル叔父をトニーの言葉に護衛騎士達は頷いた。


「賊って、隣国の襲撃ではなく盗賊なのですか?」


「駝鳥に騎乗して襲撃する盗賊団がありますから、現地調査で本物の駝鳥だと確認が取れましたら、盗賊団で間違いないでしょう」


「…………温泉水目当てなのか?遠くまで運び出せば効能が薄れる事をまだ知らないから強奪しようとしたのだろうか?」


「砦を襲うにしては人数が少なすぎます。たとえ砦の外壁の一部を破壊して内部に侵入しても王族が滞在中で増員されている騎士団に敵うわけがないですよ」


 サイラスの指摘に僕達は頷いた。


「……おそらく、ですが、教会関係者からサミュエル殿下が国境沿いに移動している情報が漏れたのではないでしょうか?」


 シーナの推測にサミュエル叔父は眉を顰めて頷いた。


「昨日、シーナ様が教会を訪問しているから私達が到着したことは教会関係者なら知っているでしょう」


 サイラスの指摘に、シーナとサミュエル叔父上は首を横に振った。


「教会関係者だからこそ、元聖女を侮るものなんだ。上級魔導士同等の聖女といえど、怪我や病気の癒しや豊穣の祈りくらいしかしない。死霊系魔獣討伐隊に派遣されることはないので戦闘能力は皆無だと思い込んでいる」


 サミュエル叔父の説明を聞いた護衛騎士達は、似非占い師の男の姿をしているシーナを見て頷いた。聖女時代のシーナが男装で危険な現場に出向いたことを容易に想像できても元聖女という肩書だけでは戦闘要員とは考えられないのだろう。


「まあ、全てが黒焦げになってしまったのでは、賊の尋問どころか襲撃に使用した魔術具も残っているかどうか怪しいな」


「そうですね。現場検証で何かが見つかれば良いのですが」


「ああ、お前たちは現状を正確に把握できるまで自室に戻っていなさい」


 僕達は素直に頷いた。




「守りの魔術具を起動させるための魔力奉納があんなに大変だなんだ、と思っていたのに、魔力を充填する傍らで守りの発動を同時にやっていたからなんて、ビックリしたよ!」


「襲撃の音も衝撃も何もなかったですよね」


 自室に戻れ、とサミュエル叔父に言われたのにサイラスとセドリックは僕の部屋に集まって、大きなベッドに寝そべりながらしみじみと言った。


 ワゴンに載せたお茶とお菓子を運んできた元おでこの騎士が、凄い音でしたよ?と驚いた。


「私は本日非番でしたから奇襲時にのんびりと露天風呂につかっていましたが、まあ、物凄い音がしましたよ」


「バーニーは今日は非番なんだ!是非、そこに座って詳しく聞かせてくれないかい?」


 勢いよく起き上がったサイラスに詰め寄られた元おでこの騎士ことバーニーは僕達のお茶の席に同席する事を遠慮したが詳細を語ってくれた。


「その時私は大浴場にいると羨まし気に頭部ばかりをじろじろ見られて居心地が悪くて露天風呂にいました」


「うん。そうですよね。他の人達はアルフレッド様に魔法の杖を振ってもらえないからふさふさになるまで時間がかかるでしょう」


 セドリックの突っ込みにバーニーは頷いた。


「当時、露天風呂には私しかいませんでした。見張り塔には白旗が上がっていたのでのんびりと湯に浸かっていました。でも、見張り塔の旗が要警戒の赤旗に代わったので急いで湯船から上がると、耳をつんざくような爆音がして南西方向から煙が上がりました」


 バーニーの説明にノンは頷いた。

 ……扉の前で待っていたけど物凄い音がしたよ。


 僕達が花咲か爺さんよろしくで枯れ木ではなくおじさん二人に温泉水を振りかけていた頃だろう。


「要警戒の合図の後すぐに爆音ですか!」

「見張り塔の手旗信号が変わったから攻撃してきたのかな?」


「わかりません。ただ、浴場内の警告音が要警戒から即時対戦用の配置につくよう命じる警告音に変わったので大急ぎて着替えて大浴場を出ると、賊全滅の一報を聞きました」


「砦の外壁を破壊するつもりで打ち込んだ魔法が自分達に返って来たらひとたまりもないよ」


 サイラスの突っ込みにバーニーは頷いた。


「ええ、ですから、この砦は安全なのですが賊の装備を確認できるまでここでお茶を楽しんでいてください」


 今日のところは畑作りを諦めて自室で大人しくしている、という事だ。


「今日のところは大人しくしていますから、バーニーさんの物語を聞かせてください」


 口中の水分を奪う硬いビスケットをお茶請けにするよりバーニーの個人的な話を手記にした方が面白そうだ。


「私の話ですか?面白い話なんて何もありませんよ」


「普通の生い立ちの話は三人の王子では体験できない事がたくさんありそうですよ」


 僕の発言に、そうですか?とバーニーは首を傾げたがサイラスとセドリックは前のめりになり話題に食いついた。


「自己紹介をお願いします。バーニーさんは何歳ですか?」


 セドリックの質問に、そこからでいいのか、とバーニーの口がさらに軽くなった。


「私は取り立てて身分の高くない代々騎士爵を賜る家系の三男で騎士団で功績を上げなければ除隊後平民になる何の変哲もない二十一歳の独身の騎士です」


「「「二十一歳!」」」


 額の広がりが後頭部まで達していたので若く見積もっても三十代半ばだと思っていた僕達は仰け反った。


 ……おでこの肌艶が元々よかったじゃないか。


 つぶらな瞳でノンが僕達に語り掛けるとバーニーはノンの思考を理解したのか膝を叩いて喜んだ。


「ノン様は私がまだ二十代前半だと気付いていてくださったのですか!」


 ノンが頷くとバーニーは大喜びし、サイラスとセドリックは、今ならそう見える、と呟いた。


 そこから語り出したバーニーの半生は、僕達が知りたかった一代限りの騎士爵位を代々続ける家庭のロマンあふれる物語ではなく、薄毛の家系に生まれた青年が思春期後半から額が広がっていった歴史だった。


 それはそれで面白かったからメモ用の魔術具に記録しておいた。

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