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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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31 礼拝室内の僕達と叔父さん

 サミュエル叔父の言葉に僕達は絶句した。

 

 トニーは、子ども達に打ち明けるような話じゃない、と言いたげな視線をサミュエル叔父に向けた。


「いや、なに。……私は恵まれた環境に生まれたよ。王家の側室の子として生まれたのに王家の誰からも疎まれることなく、成果を出せば褒められ愛されて育った。まあ、母方の親族はクズだけど権力に近くなれば一定数のクズが湧いてくるものだからそれも仕方ない」


 王族スマイルで取り繕うように言ったサミュエル叔父にサイラスは誤魔化されなかった。


「それでも、何もかも忘れて魔力枯渇で廃人になるのもいい、と思ったのですよね」


「……こんな私でも国の役に立って廃人になるのなら本望じゃないか。騎士達は戦に向かう時に死を覚悟するだろう?」


 サミュエル叔父はサイラスとセドリックから向けられる悲痛な眼差しから目を逸らすようにトニーにを向き、話を振った。


「死を覚悟して戦に臨む騎士達は時に犬死かというような命令に従うこともありますが、それとは違います。そもそも自殺願望を持つものは騎士選抜の段階でふるい落とされます」


 希死念慮傾向のある人物が騎士になったら自陣に壊滅的被害を及ぼす自殺行為をしそうだ。騎士団ではメンタルチェックをしているよね。


「騎士団を信用していないわけではない。悪い例えだった。すまない。私も積極的に死にたいとか廃人になりたいなんて思っていない。ただ、時々、誰にも迷惑のかからないタイミングで消えてしまいたいという思いに駆られるだけだ」


「サミュエル叔父上は消えては駄目です!」


 涙目のセドリックが訴えた。

 もっと他に言いたいことがあるのに、アゥっと声が詰まりセドリックは口をへの字にした。


「サミュエル叔父上は自己評価が低すぎですよ。詠唱魔法を使える王族なんてサミュエル叔父上だけですよ!叔父上が個性的な生き方をしたから今の面白い叔父上なんです。僕達の大切な親族です」


 ちょっと前までヘンタイサディストの叔父だと思い込んでいた僕は滅多なことは言えないけれど、祖父母がサミュエル叔父に向ける愛情は本物だ。


「…………昔々の幼いころに、メリーアン姉上に同じようなことを言われたよ。家族なのだからもっと堂々としていなさい、とね」


 遠い目をして語るサミュエル叔父上にトニーは頷いた。


「当時の王太子離宮で私は一部の従業員が苦手で本館に行くのが嫌だった。メリーアン姉上が迎えに来て私に冷たくする従業員を毛虫を投げつけて蹴散らしてくださった」


 サミュエル叔父上の思い出話に肖像画の姿からおしとやかなイメージを膨らませていたサイラスとセドリックは、毛虫!とドン引きした。


 トニーが小さく頷いているから事実だろう。

 だって高級生地の素材は昆虫の糸だもん。素材採取のためだったら母上だったら素手で触れる。


「ブライアン兄上は私がメリーアンの後ばかりついて歩くのを嫌がっていたが、あのころの私は忙しいブライアン兄上にかまってもらいたかっただけかもしれないなぁ」


 サミュエル叔父が漏らした本音にサイラスは頷いた。


「私とコンラッドがなんだかんだと理由をつけて入れ替わるのも、忙しい父上に気付いてほしいからかもしれません」


「フフフ。サイラスやコンラッドの年齢なら可愛らしいが、私の年ではまだ親兄弟にかまってほしいと思っていては駄目だろう。ブライアン兄上やメリーアン姉上にはこうして子ども達がいて、こうして次世代に繋いでいるのに私ときたら……」


「サミュエル叔父上、その言葉は自嘲ではなくトニーの心を抉る言葉です!」


 サイラスの指摘にトニーが小さく頷くとサミュエル叔父はすまなかった、と笑った。


「僕達は叔父上から学ぶことがたくさんあるので、元気に長生きしてくださいね」


 サミュエル叔父は素直に頷いた。


「ああ。シーナ殿の魔術具の警告が出たら魔力奉納を中断するよ」


「私がお手伝いするのは駄目ですか?」

「僕も何かしたいです!」


 サイラスととセドリックが申し出たがサミュエル叔父上は首を横に振った。


「気持ちだけで十分だよ。今日は見学だけだ」


「今朝、シーナと見てるだけって約束したでしょう」


 シーナの名を出すとまだ何か言おうとしていた二人は口を噤んだ。

 

 すでに精霊素がたくさん集まっているこの四角い魔術具を本格的に作動させるのに僕ができる事はない。


 トニーは四角い魔術部の上部に置いたシーナの魔術具に鞘をにいた魔法剣をセットした。


「よろしく頼む」

「はい」


 サミュエル叔父が四角い魔術具に両手で触れるとトニーは魔法剣の柄を握った。

 四角い魔術具が発光し大量の精霊素達が礼拝室になだれ込み魔術具に吸い込まれる気配がすると魔術具の魔法陣が礼拝室全体に広がった。


 床も壁も天井にも緻密な魔法陣が光り、うわぁ、と僕達は声を漏らした。


 この荘厳な空間を見せたくてサミュエル叔父上は僕達をここに連れてきたのだとわかった。


 四角い魔術具はまるで礼拝室を模した小さな礼拝室のようだ。

 この小さな礼拝室の魔法陣は砦を守る仮の結界を礼拝室の本物守りの魔法陣に繋いでいるのだろう。


 掌の精霊たちが二回光った。


 七大神の祠のように神々に祈るシンボルのような物は何一つない礼拝室なのに、七大神の祠で魔力奉納をしているような気分になる。


 ああ、そうか!サミュエル叔父とトニーが魔力枯渇を起こさないように、精霊達は僕達の魔力を借用して魔力奉納をしているな!


 体から漏れ出る魔力を抑えている僕はそれほど魔力を引き出されていないけれど、サイラスとセドリックは違うだろう。


 アップウ!

 口元を隠して喉の奥で呪文を唱えた。

 サイラスとセドリックから大量に魔力を引き出すな!


 大量の精霊素が魔術具に流れ込んでいるという事はそれだけサミュエル叔父とトニーは大量の魔力を奉納しているのだろう。


 ウニのような魔術具はまだ魔力枯渇を知らせる警告の光を発していないが、サミュエル叔父とトニーの額には玉のような汗がにじんでいる。


 僕達は固唾をのんで見守っている事しかできないのだろうか?


 僕の脳裏に浮かんだ映像は療養所の裏でサミュエル叔父が抱える小鉢に青年アダムが口元を押さえながら祝詞を唱えている姿だった。


 ああ、あれは正しく神に祈り魔法を行使する姿だ。


「サミュエル叔父上!祝詞です!神々に感謝の言葉できるだけゆっくりたくさん述べてください。アダムさんのようにゆっくり長く唱えたら勢いよく奉納する魔力の流れが緩やかになるかもしれません!」


 シャムエル叔父はハッとした表情を一瞬すると、左手を魔術具から離し口元を隠して祝詞を唱え始めた。


 刀身が光る魔法剣の柄を握るトニーの表情が穏やかになった。

 ゆっくり魔力奉納をする方が体の負担が少ないようだ。


 未成年の僕達が提供できる魔力量などたがかしれているよなぁ。

 二人を応援する事しかできないなんて……。


 いや、ここは全力で応援すればいいんじゃないか?


 僕が収納ポーチから飲料用の温泉水の入った水筒を取り出すと、どうするの?というかのような視線をサイラスとセドリックが向けた。


「頑張れ!トニー!サミュエル叔父上!」


 僕は温泉水を掌に汲むと、トニーとサミュエル叔父上に向けて振りかけた。


 温泉水を浴びた回復の効果があったのか二人は僕に向かって頷いた。


 収納ポーチから予備の水筒を二つ取り出すとサミュエルとセドリックに手渡した。


「「頑張れ!サミュエル叔父上!頑張れ!トニー殿!」」


 サイラスとセドリックも二人に温泉水の滴を振りかけた。


 礼拝室には僕達の応援する声がこだました。


 精霊素だけでなく精霊達が礼拝室に集まってきている気配がした。


 どれだけ精霊達が集まってきても礼拝室内の僕達の魔力量は変わらないから、このギリギリの状態に変化があるとは思えない……。


 違った!


 集まってきた精霊達は礼拝室内の魔法陣にそって張り付きそれそれの神の色に光った。


 僕達があまりの眩しさに目を瞑ると、トニーとサミュエル叔父が、フーと深い息を吐く音がした。

 

「終わったよ」

「終わりました」


 僕達が目を開けると礼拝所内の閃光は終息ており、室内の魔法陣は消え、四角い魔術具の中心部だけが光っていた。


 ウニの魔術具は光っていない。

 誰も魔力枯渇を起こすことなく、無事に砦を守る魔術具に魔力を充填できたようだ。


「なんだかわからないのですが、凄かったですね」


「ああ、温泉水の効果なのかな?ふりかけてもらってから祝詞を唱える前と同じくらい魔力が引きずり出されたのに体に負担を感じなかった」


「同感です。ですが、念のために温泉水をお飲みください」


 トニーはサミュエル叔父に温泉水を注いだコップを手渡し自分のコップの温泉水を飲み干した。

 サミュエル叔父はトニーが飲み込んだのを見届けてから受け取った温泉水を飲み干した。


「このような凄い魔力奉納は初めて見ました。本日は見学を許していただきありがとうございました!」


 サイラスがサミュエル叔父に一礼すると僕とセドリックも見習って頭を下げた。


「いやいや。普通はもう少し王族の人数を揃えてするものだ。みんなの応援とシーナ殿の魔術具と温泉水があったからやり切れた」


「ええ、総魔力量計算が大切なことが十分わかりました」


 サイラスの言葉にサミュエル叔父は苦笑し、セドリックは、計算か、とこぼした。


「ちゃんと起動したから、お前たちが触れても問題ない。七大神の祠への魔力奉納が済んだら毎日、ここで魔力奉納をしてくれると助かる」


「「「はい」」」


 僕達は、やっと自分達も役に立つ、と思い元気よく返事をした。





 僕達が王族と責任者以外立ち入り禁止の扉の前に戻ると涼しい顔のシーナの横に立っていた護衛騎士達は、よくぞご無事で、と涙目で僕達を出迎えた。


「砦南西方向から魔法攻撃がありました。幸い、守りの魔法陣が起動したところだったので攻撃を反射し襲撃した賊は全滅しました」


「ああ、だから起動時の魔力奉納の量が想定以上に多かったのか。シーナ殿の魔術具とアルフレッド達の応援と温泉水がなければ、死ぬかと思った」


「私の占いで、総魔力量が足りない、と出ていたので、僭越ながら急ごしらえで魔術具をご用意させていただきました」


「本当に助かった。ありがとう。私の人生はまだまた面白いことが続きそうだから、ここでおしまいにならなくてよかったよ」


 サミュエル叔父の言葉に護衛騎士達はシーナに崇めるようなまなざしを向けた。

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