30 シーナ曰く
さっきまで魔石が光っていた場所に魔石を咥えた不死鳥の像が現れて廊下を明るく照らしていた。
古代魔術具を改良して現在も砦として使用しているのに地下の廊下の灯のスイッチのつけ方をが口伝から漏れてしまい非常灯代わりの魔石の灯で対応していたようだ。
サイラスとセドリックは、何で今まで気付かなかったの?と言いたげな視線をサミュエル叔父に向けた。
「敵に攻め落とされた時を考えると、砦の守りの魔法陣を破壊されないために礼拝室の前をあえて簡素な造りにしていたと判断したのでしょう」
「戦争がなければ砦まで王族が出向く機会が減るので細かい操作方法までは残らなかったのだろう」
トニーとサミュエル叔父の説明にサイラスとセドリックは納得した。
照明の灯で薄れてしまったが廊下中に張り巡らされた魔法陣はまだ光っていた。
「これはどういった魔法陣なのでしょうか?」
サイラスの質問にトニーは首を横に振った。
「隠匿の魔法陣が施されているのでさっぱり解読できません」
「王家伝来の魔法陣だ。私でも全部は解読できないが照明用の魔術具が仕込まれていることは確認できた。この辺りに置くまで続く魔法動線がある」
トニーとサイラスはサミュエル叔父が示した魔法陣を触れると、ああ、と言って頷いた。
精霊素が吸い込まれていく気配がす。それが今魔法陣が作動しているという事だろう。
コツコツと足音を響かせながら奥へと進んでいくと行き止まりの手前でサミュエル叔父は立ち止まった。
「一番奥は転移魔法の部屋で王都のとある場所まで転移できる。こっちが礼拝室だ。アルフレッド。どこかに何かがある気配がするかい?」
「王都へ直通するの転移魔法の部屋があるのですか!」
「行き止まりにしか見えません!」
サイラスとセドリックは驚くとサミュエル叔父はハハハと笑った。
「国王陛下がお忍びでいらして、ここに転移魔法の部屋を移設しました」
そういえば、祖父はお忍びで祖母をつれて行くようなことを話していたな。
いやいや、今は精霊素が集まっている場所を探さなきゃ。
壁や天井に広がる魔法陣の模様が複雑な箇所ではなく、細い線しかない壁に精霊素が集まっているような気がする。
「ここかな?」
なんの変哲もない壁を指さすと、ここなところ!とサイラスとセドリックが驚いた。
首を傾げたトニーは思い当たることがあったのかハッとした表情になった。
「うーん。この奥に守りの結界の魔術具を設置しているから、アルフレッド殿下の勘違いではなさそうですね」
「そうだな。でも今はアルフレッドには礼拝所内の照明のの魔術具の軌道場所を探してほしかったんだ」
なんだ。そっちか。
うーん、と僕は首を傾げた。
精霊素が一番集まっている箇所じゃなくさっきくらいの量の精霊素の気配か……。
難しいな。
廊下の奥に行くにしたがって精霊素が吸収されている気配がするところが多いのだ。
みんなに注目されているけれどアップウの呪文を使いたい。
トニーに目配せをすると、ゴホンゴホン、と咳払いをしてみんなの視線を集めた。その隙に口を開けずに喉の奥でアップウの呪文を唱えると、精霊達が淡く点滅したところがあった。
「あそこかな?」
僕が指さした時には精霊達の光は消えていた。
ここか、とサミュエル叔父が壁に触れると魔石を咥えた不死鳥の像が現れた。
「やっぱり扉の隣だったか」
トニーの言葉にサミュエル叔父は頷きながら不死鳥の像の隣の壁に手をつくと扉が現れた。
「叔父上。私が照明の魔術具に魔力供給をします」
サイラスの申し出にサミュエル叔父は、ありがとう、と任せた。
何のわだかまりのない叔父と甥っぽくいいな。
礼拝室の中は一斗缶二つくらいの大きさの四角い箱が置かれているだけで何もなかった。
神々の像どころか壁画もない。
いったいここは、何に祈る礼拝室なのだろう?
「これが砦を守る結界の魔術具ですか!?」
あまりに簡素な陶器のようなツルンとした四角い箱が重要な魔術具だと信じられないか上ずった声でサイラスが言った。
でも、この魔術具に精霊素がどんどん集まりみるみる吸い込まれている気配がしている。
「これは守りの結界の一部で新たな国境に設置した魔術具と連動している。この魔術具のどこに触れても魔力供給ができる優れ物だよ。成人したら仕組みを学べるから楽しみにしていなさい」
「「「はい!」」」
僕達は元気よく返事をした。
「王族がいらっしゃらない時は責任者がこうして補助の魔術具を装着して魔力供給をします」
トニーが四角い箱に手を触れると薄っすらと魔法陣が現れた。
「私の魔力では各地に置かれた守りの結界の魔術具が繋がっていることを確認できるだけです」
「王族が常駐していないと十分な護りの結界にならないのですか?」
サイラスの質問にトニーとサミュエル叔父は首を横に振った。
「満タンに魔力を充填しておけば、守りの結界によほどの攻撃を受けない限り季節一つくらいは持つはずだよ。国の守りの魔法陣を描きかえるまでの仮の物だから仕方ない」
温泉目当に王太子一家が訪問する手筈になっているけれどちゃんと仕事をするんだね。
「どれ、次は私が魔力を奉納しよう」
「起動時の魔力奉納は王族お一人でなされた記録がないと聞きましたが……」
「心配ない。国境に設置した魔術具を教会の護りの魔法陣とアダムの助力で紐づけた。私一人で何とかなるよ」
本気で心配しているトニーは真剣な表情で不安要素を口にしたが、サミュエル叔父は穏やかに微笑んで言った。
「はい!サミュエル叔父上!シーナが夜鍋して製作した魔術具を使ってもいいでしょうか!」
じゃじゃーん、と言いながら今朝シーナが持たせてくれた魔術具を収納ポーチから取り出した。
「これは何だい?」
「トニーの魔法剣を置く台です。王家の秘宝の魔法剣を介して砦の守りの魔術具に魔力を流す魔術具です!これがあればトニーの魔力が責任者の魔術具に魔力を消費されることなく、神々の元に集められた教会の魔力と同じようになるはずだ、とシーナが言ってました!」
僕の説明にサイラスは、さすがシーナ様!と目を輝かせ、サミュエル叔父は、魔法剣を触媒にするのか!と驚いた。
「シーナ様から僕も魔術具を預かってきました」
セドリックがポケットから取り出したのは小さなウニのように棘がたくさん付いた魔術具だった。
「これが光ったら誰かが魔力枯渇を起こす合図だとシーナ様は言っていました」
昨晩シーナが作っていた魔術具は自分が立ちれない礼拝室内でのトラブル対策のための魔術具だった。
「教会の護りの魔法陣はまだ仮設の物で、本物ほど魔力が流れていないかもしれないから念のために作った、とシーナは言っていたました」
「……シーナ殿にはお見通しだったか」
そんな事は想定内だったのかサミュエル叔父は天井を見上げて頭を掻きむしった。
「殿下はご自身の魔力が枯渇する危険性を念頭に置いいながら、幼い王子殿下達の前で強行なさろうとしていたのですか!」
トニーの叱責にサミュエル叔父は小さく何度も首を横に振った。
「もしかしたらキツいかもしれないけれど、上級回復薬並みの温泉水も持参しているから、なんとかなると考えていた。……シーナ殿がこのような魔術具を用意してくださったという事は私一人の魔力では足りないのだろうね」
シーナが取り急ぎで魔術具を作ったという事はサミュエル叔父がどうにかなる未来を精霊達が見たはずだ。
それにしてもどうしてサミュエル叔父は自分一人でできると考えたのだろう。
潜在的な自殺願望でもあるのかな?
「……サミュエル叔父上の心の奥にもしかしたら死んでもいい、と思う気持ちがあるのではないですか?」
僕の質問にサミュエル叔父は首を横に振った後でハッとすると小さく頷いた。
「……私がこの魔術具を設置すると手を上げた時は、ここで魔力枯渇を起こして廃人になってもいいかな、とは思っていた。だけど、最近は毎日が楽しくてそんな気になった事を忘れていた」
なんてこった!
ヘンタイサディスト未満の叔父は本格的に嗜虐趣味を開花させる前は、希死念慮傾向のあるメンヘラ叔父さんだったのか!




