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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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28 いろいろ育む!

 時間は少しだけ遡る。


 詠唱魔法に時間がかかりすぎる青年アダムを療養所に放置して、僕達は大浴場に行った。

 

「私はね、噂を鵜呑みにしてとんでもない勘違いをしていたようです」

 

 大浴場で木彫りのアヒルの玩具を持ち込んでいたセドリックと美肌の湯で戯れていたサイラスがボソッと呟いた。


「あっ!兄上!わかります。サミュエル叔父上にくっついている、あの腰巾着って言うんでしたっけ、あの人、只者じゃなかったですね」


 戦勝パレードを妨害しようとしたのに未遂だったからお咎め保留中という認識のセドリックは、青年アダムが処分保留になるだけの国への貢献があった事を目の当たりにし、態度が一変していた。


「そっちじゃなくてサミュエル叔父上ですよ。成人してもまともに執務をこなす能力がないから神学校に逃げたんだという噂を鵜呑みにしていたのです。実際は率先して体を動かす真面目な方でした」


 サイラスはそう言うと浴槽に潜った。


 そっちの噂か。まあ、サミュエル叔父が年下の男の好きだなんて噂をセドリックには言えないよね。


 サイラスがサバーと浮かび上がると木彫りのアヒルが転覆しセドリックが文句を言った。


 ああ、船旅もしたかったな。

 ……揺れるのは嫌だよ。

 船酔いは嫌だね。


「兄上は髪の毛がふさふさだから頭まで湯に浸かる必要はありませんよ」


「えっ!美肌の湯って増毛効果があるの!」


 僕がセドリックの話に食いつくとハッとした護衛騎士達は髪の毛に美肌の湯をかけ始めた。


「アルフレッド様と王都に帰還した騎士達の中に髪の毛がふさふさになっていた騎士が複数いたのでそんな噂が王都で囁かれていましたね」


 騎士の兜って蒸れそうだから毛根に悪いよね。


「それって、髪の毛に張りが出てふっくらしたからふさふさに見えただけかもしれないよ。本当に毛髪がない人で試してみないとわからないよ」


 頭のお湯をかけている護衛騎士の中に前髪が後退しおでこが広い騎士がいる。彼の前髪が増えたら効果があった証拠になるかな?


 わざわざ王都からハゲを連れてこなくてもこいつでいいんじゃないか?と全員の視線が彼のおでこに注がれた。


「潜ってみる?」


 小声でサイラスがおでこの騎士に勧めると、彼は無言で頷きお湯に潜った。


 精霊素さん、おでこの護衛騎士の毛根に集まれ集まれ!

 いっけない!

 あっぷう!やり過ぎ注意!


 ザブンとおでこの騎士がお湯から顔を上げるとわかめのようにおでこに張り付いた髪の毛はまだ貧相だった。

 だって、髪の色がモスグリーンだから本当にわかめみたいなんだもん!


「なんだか、髪の毛が減ったように見え……」

「濡れて顔に張り付いから少なく見えるだけで減っていないですよ!」


 素直な感想を言うセドリックの口をサイラスが押さえた。


「いえ、事実を知りたいので、見たまんまのご意見をいただけるのはありがたいです」


 顔のお湯を拭っったおでこの騎士は実直そうで性格がよさそうだ。

 何とかしてあげたい。


「温泉の薬効が距離と時間で薄れるなら、蛇口から流れ出るお湯を直接、頭にかけたら少しでも効果が上がるかな?」


 僕の言葉におでこの騎士はお湯を噴き出しているライオンの像の口の下に移動した」




「……増えているかな?」

「アルフレッド様に魔法の杖を振ってもらえばいいんじゃないでしょうか?」


 セドリックの提案にお湯をかぶり続けているおでこの騎士は頷いた。


 本人が試したい、という意思を見せているのだから、やってもいいよね。


 ノンは犬かきで浴槽から上がるとブルっと体を震わせて水飛沫を飛ばした。

 なんだか犬っぽい仕草だな。


 扉にジャンプしたノアはドアノブを開けると更衣室に走っていき、僕の収納ポーチを咥えてきた。


 湯から上がった僕は期待の籠った眼差しを向けるおでこの騎士に向かって、ふさふさになぁれ!と魔法少女の杖を振った。


 おでこの騎士の髪の毛が乾燥わかめを水戻ししたようにモスグリーンの面積が増えていった。


 おおおおおお!と大浴場内に僕達の声が凄くよく響いた。




「ずいぶん男湯が騒がしいと思ったら、護衛騎士の一人がまるで別人みたいになっているんだが……」


 シーナの言葉に元おでこの騎士は嬉しそうに頬を上げた。


「シーナ様の魔法の杖は凄いですね!美肌の湯をかぶり続けているところに魔法の杖を一振りしたらこのようなことになりました!」


 興奮気味に早口でシーナに説明したサイラスの瞳に煌めきがあった。


 あれ?何だろう、この煌めき。


 ちょっと待て!

 かなり年上の家庭教師(今日のシーナは農業指導者だけど)に親子二代で惚れるのは止めた方がいいと思う。

 だって、シーナはサイラスより年上の娘がいるんだよ!


 いや、今、シーナは王家の変装のマントを身に纏っている。


 どこからどう見ても今のシーナはイケメンの似非占い師なのに、そんなに瞳を輝かせるなんて、サイラスは年上のお姉さんとのTLに憧れるのではなく、無頼漢ぽいおじさんに惹かれるBL志向なのか!


 サイラスがサミュエル叔父を煙たがっていたのは同族嫌悪なのか!


「アダムさんが軍医のお手伝いをした、と聞いていたから、治癒魔法の効果を上げる事はわかっていました。今回は本人の自然治癒力を高めることができたのでしょう。毛根が死滅している方に効果があるかどうかはわかりませんね」


「つるっぱげの人で試してみないとわからないのでしょうか?」


 シーナにぽっとなっているサイラスがセドリックの口をふさがなかったので素直な疑問をセドリックは口にした。


「まあ、この件については薄毛の方を募集しなくても、心当たりのある方が集まって来るのでこれ以上検証する必要はないと思いますよ」


 うん。

 騎士団内ですでに薄毛に効く温泉だと噂になっているのなら増毛を希望する人達がぞくぞくと配属希望を出すだろう。


「そうですか。髪が増えると笑顔になるのでいいことなのかと思いましたが、魔法の杖は食べ物を育てるために使った方がいいですね」


「そうですよ。セドリック。美肌の湯に浸かっていればそのうち自然と毛量が増えるでしょうから時期に判明しますよ」


 サイラスの言葉に護衛騎士達が頷いた。




「なるほど。それで、夕食に新芽のサラダが出て、コンラッド殿下の指導騎士の一人の髪の毛がふさふさになったのですね」


 夕食の席でやっと僕達と合流したトニーは頭を抱えた。


「見てください!アダムも成功しましたよ!」


 苺の新芽が生えた小鉢を抱えたサミュエル叔父が食堂にやって来ると、元おでこの騎士の頭を凝視した。


「髪の毛も生えるのか!」

「どうやらそのようですね」


 シーナが即答するとサミュエル叔父は背後に控える青年アダムを見た。


「アダムも誰かで試してみるかい?」

「殿下の毛根以外興味がありませんから難しいでしょう」


 青年アダムの回答にシーナは肩を揺すって笑った。


「祝詞の考案は難しいのですよ。思い入れがないといい文言が思い浮かばないのです」


 シーナの説明に青年アダムは頷いた。


「苺の発芽にこれほど時間がかかりましたが、明日以降、徐々に祝詞を改良して呪文を開発できれば発芽時間を短縮できると思います」


「わかりました。開発計画に農業部門も立ち上げる事にしましょう」


 トニーの仕事を増やしてしまったが、美味しい食事をみんなで食べるために頑張らなくちゃ!

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