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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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26 魔法使いごっこ

 温泉の見学を終えると自分達の部屋に案内された。


 僕達にあてがわれた部屋は備品こそ簡素だったがリビングの他に三部屋も寝室があるスイートルームだった。

 

 うん。ここは王族用の部屋だな。

 従者見習いのセドリックと騎士見習いのサイラスは当然のような顔で僕を真ん中の寝室にして両サイドの寝室に自分達の荷物を運ばせた。


 気分は家族旅行だね。


 僕達の向かいの二部屋がシーナとトニーの部屋だった。

 トニーには別棟に大きな部屋を用意されているけれど、僕達のそばを離れないようだ。


 ここで真面目に働いてしまうと名ばかりの代官ではなくなってしまうからだ、とトニーは言い訳した。


 シーナの部屋には小さな調合室があった。温泉水を研究してほしいという騎士達の下心が透けて見える。


 温泉水から精霊素が湧いていることをシーナと相談したかったが、シーナはハイアット部隊長と教会に奉納する生地を届けに行ってしまった。


 トニーはここで仕事をしたくなくても山積している仕事があるようで騎士達に執務室に連れていかれた。


 僕の護衛は騎士見習い偽コンラッドのサイラス、とはいかなく、偽コンラッドの指導騎士の三名だった。


 荷物の整理が終わると僕達は三人の護衛騎士達に砦の案内を頼んだ。


 将来的に巨大な温泉街にしたいのか砦の敷地は広かった。いずれ効能が薄まるから温泉街として魅力のある町に発展させて長期的に保養所として活用するつもりなのかな?


 まだ、仮設の教会と温泉施設と騎士達の宿舎があるだけで閑散としていた。


 食料自給率はゼロパーセントで生活必需品を全て外部に頼っているようでは、まだ整備されていない街道を封鎖されたら簡単に兵糧攻めで陥落してしまうよな。


 小さな集落と言えば、妖精と老人の集落では外部で狩猟をしていたようだが、ほぼほぼ自給自足ができていた。


 ここでの暮らしは保存食だけの暮らしになるのか、と思うと気が滅入る。


 いや、僕はね、自分たち用の食糧は持てる限り持参したけれど、ここに駐在する騎士達は温泉街と言えばご当地グルメなのに保存食しか口にできないなんて気の毒だよ。


 未整備の要塞内を歩きながらそんなことを考えていると、騎士団の療養所に案内された。


 傷痍騎士達は温泉で癒されても欠損した四肢まで復活するわけではない。歩行訓練のリハビリの疲れを湯治で癒していた。


「……このように、欠損部分を補うように他の筋肉が発達して義足での歩行が滑らかにできるようになりました」


 軍医の説明に傷痍騎士達は誇らしげな表情をした。温泉の癒しで筋肉が発達するわけがないから本人が相当努力したのだろう。


「国防の最前線に立ち、このような大怪我をおってなお前向きに機能回復訓練をされているなんて頭が下がる思いです」


 前世で闘病生活の辛さを知っている僕は傷痍騎士達一人一人と握手をし労わりの言葉をかけた。


 長きにわたった戦争でそれぞれ怪我を負った時期は異なっており、リハビリの進みがよくない人達を優先して連れてきたのに大きな成果が出た、と軍医は語った。


「義足で圧迫された箇所が風呂で回復すると気持ちが前向きになるのです」


「手足の一部が吹っ飛んでしまったけれど、頭は無事だったから魔法はまだ使えるので、まだ私達でも何かができるような気力が湧いてきました」


 傷痍騎士達は自分達の欠損部位を笑って話せるほど心も回復したようだ。

 慢性的な痛みから開放されるって素晴らしいことだよね。

 

 僕達の護衛役の三人の騎士は笑顔が戻った傷痍騎士達を見て涙ぐんでいる。

 

 傷痍騎士達はもう一度剣を振るうことはできなくても、魔法を使って現場復帰ができないのかな?

 何か目的がある方がリハビリの張り合いになるだろう。

 

「皆さんのお気持ちは理解しました!元気になったらバリバリ働いてください!」


 僕の言葉にサイラスとセドリックは王族スマイルを浮かべたまま頬を引きつらせた。

 大怪我したのにまだ働け、と王子が言い出したらマズいらしい。


 傷痍騎士達は、子どもの言う事だから、というような温かい眼差しを僕に向けた。


 コホンと咳払いをしたセドリックは笑みを浮かべたまま取り繕うように口を開いた。


「皆さんには年金が支給されますから故郷で家族とゆっくりお過ごしください」


 軍医はサイラスの言葉に頷いた。


「故郷に帰ってご家族を安心させるはもちろんですけど、みなさんは人生にもう一花咲かせられますよ!だって、みなさん魔法使いなんでしょう?ここは、この通り温泉以外何もない土地です。みなさんの魔法で住みよい町を一から作りあげられるのですよ!」


 僕の言葉に傷痍騎士達はハハハと笑った。


「アルフレッド殿下。ここにいる騎士達は上級魔導士ばかりですが、皆が皆、シーナ様のように便利な魔術具を作れるわけではないのですよ」


 サイラスの言葉に傷痍騎士達の頬が引きつった。

 シーナが誰かわからなくても上級魔導士とし沽券にかかわるのだろう。


「いえ、コンラッド様。上級魔導士にして上級魔術師相当の元聖女の緑の一族のシーナほどの知識がなくても土を攪拌するぐらいはできるでしょう?」


 長ったらしいシーナの肩書に、なんて人物だ?と頭に疑問符が浮かんでいた傷痍騎士達は、土の攪拌?とますます混乱した表情になった。


「美味しい食事のためですよ!作物を育てるのにまず、土を確保しなければいけないでしょう?皆さんの中に土魔法の使い手はいますか?」


 数人の傷痍騎士が手を上げた。


「ここは、灰だらけの土地ですが、元々は穀倉地だったのだから地中には栄養豊富な土が埋まっています。下の土を上に持ち上げてくれたらすぐに畑にできるじゃないですか!」


「いやいや、食糧の備蓄は十分あります」


 サイラスの言葉に三人の護衛と軍医は頷いた。


「保存食より美味しいものが食べたい人は手を上げて!」


 傷痍騎士達は王太子の長男の顔色を窺っているのか挙手を躊躇っていたが、セドリックとノンが真っ先に手をあげると控えめに手を上げる者がちらほらいた。


「今の自分は時間だけはたくさんありますから、自分の魔法を活かせるのならやってみたいです」


 一人の傷痍騎士が声をあげると土魔法の使い手たちが続々と名乗りを上げた。


 なるほどね。王家から支給される食糧に不平を溢すことなくやりがいを求めて賛同すると角が立たないのか。


 前世を含めて社会経験のない僕はこういった配慮ができないんだよな。


「みなさんありがとうございます!


「身体強化以外に魔力を動かすことは体の機能回復にもよさそうですね。療養所の裏手で試してみましょうか?」


 軍医の許可が出たのでさっそく土を掘り返せるか試してみる事にした。






「建物がそっくり埋まってしまうほど灰が降ったのだから相当下の方から土を動かさなくてはならないでしょうね」


 サイラスの言葉に土魔法の使い手たちは頷いた。


「私は現役時代に塹壕作りや水魔法と組み合わせて敵陣の足場を悪くさせる魔法を行使していました。それなりの面積を掘り起こせる自信がありますが、どこまで深く掘り返せる側わかりません」


「うん。試しにやってみるだけだから、灰以外の何かが出てきたら成功ということにしようよ!」


 三人の王族の前で緊張しないように子どもっぽく声をかけた。


「温泉のお湯を汲んできました!」


 看護師たちが持ってきたバケツを護衛騎士が受け取った。


「じゃじゃーん。人間にも動物にも薬効あらたかな温泉水をばらまいてください!」


 僕は命令するだけで居合わせた人たちが何でもやってくれるから楽なもんだ。


「水魔法の使い手さんはいますか!」


 数人の傷痍騎士が手を上げた。


「はい。じゃあ、ばらまいた温泉水をなるべく深くまで浸み込ませてください!」


 挙手をした傷痍騎士達が地面に棒で魔法陣を描きだした。


「何をやっているんですか!」


 シーナとハイアット部隊長が全力疾走で療養所の裏手にやってきた。


 事の経緯を手短に説明するとシーナは、ハァと溜息をついた。


「食いしん坊のアル殿下らしい発想ですね!」

『何かおっぱじめるなら私に相談してからにしようね!』


 脳内にシーナの小言が響いた。


 掌の精霊達に温泉から精霊素が湧き出ている事をシーナに説明してもらうと、合点がいったシーナは額をピシャリと叩いた。


「ああ、アル殿下。私がお貸ししました杖をご持参ですか?」

『温泉水に精霊素が豊富でも水魔法で地中に温泉水を浸透させたら、その魔法で精霊素を使ってしまうじでしょう!王族の前で傷痍騎士達に恥をかかせるわけにはいかないから、魔法の杖を持って、アルが精霊素を呼びなさい!』


「持ってきています!」


 僕が収納ポーチから杖を取り出すと、おおー、と歓声が上がった。


『魔力を流したら魔石が光る子どもの玩具よ。杖がいっぱしの魔術具のように見せかけて』


 魔法使いごっこみたいに振りかざせばいいのね。


 魔力を流すと杖の先端の魔石が光った。カッコいい!月に代わってお仕置きしたくなる。


「水魔法使いが魔力を流したら土魔法使いが地中の土を攪拌しながら上に持ち上げてください」


 突如、乱入したシーナが仕切り出したのに誰も異議を唱えなかった。


「魔法開始!温泉水よ!地中奥深くまで浸み込んで下の土を地表に持ち上げて!」


 僕が光る杖をブンと振り回しポーズをきめると、魔法使いたちが地面に手をついて魔力を流し始めた。

 

 よし、精霊素達、おいでおいで!


『アップウ!精霊達は余計な干渉をするな!傷痍騎士達の仕事を奪うな!』


 そうか、僕が精霊素に呼びかけたら、聞き間違いした精霊達も魔法に干渉してしまうのか!


 シーナがいない時にやっていたらどれだけの精霊が僕の呼びかけに答えてしまったのだろう。


 この辺り一面にキラキラした精霊達が溢れかえったらマズかったな。


 ……やらかす寸前にシーナが来てくれてよかったね。

 つぶらな瞳で語り掛けるノンに僕は頷いた。

 

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