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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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25 リニューアルした温泉

 温泉地の代官に就任するのはトニーなのに、僕の漏らした一言で先に大浴場を見に行くことになった。


「この時間帯に入浴している者はいませんから今でしたら男湯も女湯も見る事ができます」


「混浴は止めたんですか?」


 僕の質問に、混浴だったの!とサイラスとセドリックが驚き、案内役の騎士が微妙な表情になった。


「……さる、やんごとなき御仁がご入浴された際、混浴だと細君をお連れできない、とのご要望がありましたので……」


 誰の要望か即座に理解した僕達は、そうでしたか、としか言いようがなかった。


 祖父が祖母を連れてくるため女湯を作らせたのか。

 夫婦で一緒に入る楽しみより、常に護衛を引き連れていなければいけない立場だから祖母の寛ぎを優先させたのだろう。

 王室御用達になる事がほぼほぼ決定事項だから仕方ない。




 大浴場の建物は土魔法の即席の物らしく土壁の外観で体育館のように大きかった。


 大浴場はいくら大きくても荒野でサーフィンをしたような解放感はなくなってしまった。

 それでもおそらくこの世界は一番大きな入浴施設だろう。


 僕達が作った浴槽やお湯を吐き出すライオンの像はそのままだったので、サイラスとセドリックは何の像なのか当てっこして喜んでいた。


 マラーライオンみたいな奇抜な像にしなくてよかった。


 趣向を凝らしたのは建物の設計士も同様だったので、高い天井は開放感があったが、明り取りの窓枠がバラの花びらの形を模していて、それはそれでカッコいいのに、全体的にはコンセプトが統一されておらずチグハグ感が否めない。


 いや、そこが何度も改装を重ねた田舎の老舗のスーパー銭湯らしくていいのかもしれない。


「外で入浴する開放感がなくなってしまったのはちょっと残念です」

「露天風呂を新たに作りました!」


 そうですか、と僕だけでなくとトニーとシーナも喜んだ。

 外気浴も堪能できる露天風呂は最高だ。


 でも、妖精と老人の集落にあった高さを生かしたインフィニティプールのような露天風呂の絶景は期待できないだろう。

 そうはいいても、あれは偽物の空だったけどね。



 浴室の奥の扉を開けると更衣室で、そこで水着を着用してから露天風呂に出るスタイルだった。


 屋外ですっぽんぽんになる開放感がないのは残念だ。



 前言撤回。この露天風呂ではすっぽんぽんは遠慮しよう。


 更衣室の扉を開けると広い石造りの浴槽の奥に要塞の見張りの塔が見えた。


「見張りの塔から丸見えなんですね」


「保安上の問題で、有事の際の手旗信号が見えるようになっています」


 案内役の騎士が手を大きく振ると見張り塔の騎士が白い旗を振った。


「白旗は、異常なし、の合図です。要警戒の時は赤旗です。敵襲ありの時は鐘を鳴らします。大浴場内は赤旗が上がった時に警告灯がつきます」


「要警戒とはどんな時ですか?」


「この要塞には現在、我々、騎士団員と教会関係者しかいません。教会関係者も全員把握していますので、教会関係者に成りすまして入り込んでいる人物を見かけたり、不審物の発見があったりした時に赤旗を振ります」


 まだ、一般に温泉の効能が交渉されていないが、いつ起こるかしれない有事に備えて最大限の警戒を払っているようだ。


「夜間はどうするのですか?」


 昼風呂もいいが、月見風呂も楽しみたい。


「夜間はランプの光で合図します。皆様はお一人で行動なさらないようにしてください」


 護衛を巻いて単独行動をしないように、と釘を刺された僕とセドリックとサイラスは、はい、と素直に頷いた。


「そして、あちらが女湯です」

 

 露天風呂の仕切りの塀に見えにくいけれどあった扉を案内役の騎士が開けると、男湯とほぼほぼ同じ作りの女湯の露天風呂があった。


 大きな違いは、大きな神々の像が塀沿いに並べられおり、見張りの塔から露天風呂が死角になっているので白旗と赤旗を掲げる魔術具が設置されている事だった。


「どこからも覗けないようになっれいるのがいいですね」


 シーナの感想に案内役の騎士が頷いた。


「安全を担保しつつ寛げる空間にすることを目指しました。こちらは万が一の時にそのまま逃げる事ができるように、こちらの岩が収納箱になっているので各種サイズのガウンを収納しています」


 浴槽のそばに四阿のような休憩スペースがあり、椅子のように配置された岩が収納ボックスになっていた。


「男湯にもこの休憩場所が欲しいです!」


「はい、そう言った意見があるので、保養所として開放する前にもう少し整える予定です」


 なんとなく読めてきた。

 男湯は祖父が突撃したから突貫工事で体裁を整えたが、女湯は後だしじゃんけんさながに男湯の欠点を色々考慮して作ったのだろう。


「現在、ここに女性騎士は滞在しているのですか?」


 サイラスに質問に案内役の騎士は頷いた。


「ええ、さる、やんごとなきご夫人を受け入れるために、女性騎士が女性の目線で砦の中を監修をするために滞在しています」


 祖母はお忍びで来る気満々だったけれど、受け入れる方は最大限に気を使うわけだよね。


「観葉植物もわざわざ運んできたのですね」


 シーナの指摘に案内役の騎士は苦笑した。


「はい、ここはあまりに殺伐とした場所なので何かしら憩いになる植物があった方がいいかと思いまして」


「温泉の地熱を利用して南方の植物を栽培できるから、試してみたらいいでしょうね」


 マンゴーとかバナナとか栽培できたらいいな。


「もうしばらく南下して旅をする予定だったのに一気に北上してしまったから面白い植物に遭遇しなかったな」


 南に行けばチョコレートとかコーヒーなんかがあったかもしれないのに、さして放浪しないうちにラウンドール王国に転移してしまった事を嘆くと、トニーとシーナとノンが笑った。


「コンラッド殿下かサイラス殿下が南方の国に留学されたら、何か見つけてくださるかもしれませんね」


 シーナに突然話を振られたサイラスは、どうでしょうかね、と言葉を濁した。



 その後案内された女湯の大浴場は浴槽の大きさは同等だったが、お湯の蛇口は植物の像に統一されていて落ち着いた雰囲気だった。


「女湯には魔獣の像はないのですね」


 セドリックには植物園のような雰囲気よりワンダーランド感満載の男湯の方が気に入ったようだ。


「ええ、こちらにいらっしゃる女性は当分の間、高貴な方々とその関係者ですから、高級感があった方がいいのです」


 案内役の説明にトニーとサイラスは頷いた。





 こうして、新しくなった大浴場を見学して気付いたことがある。


 薬効あらたかなるこの温泉水は精霊素が豊富に湧き出ている。


 火山灰によって死の世界に覆いつくされたこの地は、精霊素が湧き出る温泉水によって自然界での魔法が活発に行われて、こんなに早く緑が芽吹いたのだろう。


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