24 いざ!温泉地へ!
心なしかサイラスの眉間の皺が薄くなったお礼に新米精霊のために、おいでおいでと精霊素を集めた。
掌の精霊達が、まあいいか、というかのように淡く光った。
精霊素が集まると精霊達が喜んでいるような気がする。
掌の精霊達が淡く二回点滅した。
精霊達のご機嫌を取るのなら精霊素を集めていればよさそうだな。
馬車より自分で走った方が速い、と思いつつも偉い人は偉そうにする事で円滑に部隊を統率できるので大人しく馬車に揺られて現地入りした。
馬車での移動が限界になると途中で馬に乗り換える事になった。
僕とノンはトニーの馬で、セドリックはサイラスの馬に騎乗した。
何でもできるシーナは乗馬もできた。
「本当に灰だらけですよ!」
セドリックは、どこまでも灰色の世界だ、と驚いた。
「いや、もっと白っぽかったんだけど、だいぶ黒くなっていないかな?」
僕の疑問にトニーとシーナが頷いた。
「死霊系魔獣と土地の浄化を同時に行った事で、風の神や命の神のご加護が、もうここに届いたようですね。風に運ばれた植物の種が何度か芽吹いては枯れて微生物が分解し、新しい土が少しずつ作られています」
「そうなのですか?まだ何の植物も生えていないように見えます」
「コンラッド殿下、視力強化をすると緑っぽいものが見えますよ。手前ではなく遠くの方です」
身内にばらしたからと言えど、サイラスはコンラッドの振りをしているのでトニーはそう呼んだ。
視点を遠くにして視力強化したサイラスは、あれか!?と言ったが、同じように目を凝らしたセドリックは、あれってどれ?と首を傾げた。
とぼけたセドリックの声に車内に笑いが起こると、セドリックは頬を強張らせて俯いた。
「私だって視力強化を取得したのは最近なのですよ。セドリックはよくやっています」
「そうなのですか!でもアルフレッド様は見えるんですよね!」
「僕の場合は旅の途中で狩りをする機会があったから、身体強化の一環としてやってみたらできちゃったんだ」
「できない事を諦めずに、身体強化と同じようにやろうと思って取り組むことが大切なのですよ」
サイラスは弟を励ますとセドリックとノンが頷いた。
灰色の世界を駆け抜けていくと植物が生えている黒っぽく見える箇所が増えていき、荒野の中に土色の人工物っぽいものが見えた。
「あれが移築した砦なの?」
「そうです。あれがラウンドール王国の魔法で移築できる砦です」
トニーの言葉にサイラスは頷いた。
「それにしても、私の想定以上に規模が大きいです。要塞都市のような外観ですね!
「温泉が湧き出たことで保養所として利用できるので規模が大きくなったのですよ」
苦笑交じりのトニーの説明に、王族がこぞって行きたがっていることを思い出したサイラスは、すみませんね、と苦笑した。
蟻塚みたいな要塞ような外観になってしまった温泉地に早く辿り着きたくて僕はシーナに目配せをした。
『温泉地に行くにしたがって精霊達の密集度が高まっているわ。土地の魔力も十分にあるから部隊全体の馬達に癒しをかけても大丈夫よ』
ガッテンだ!
掌に集まっているの精霊達に僕の意図をシーナに伝えてもらうとシーナは、任せておいて、と頷いた。
馬達の大規模な癒しはシーナに任せ、僕は砦までの悪路を見た目に変更なく馬が走りやすいように硬め、魔法の効果をあげるべく、おいでおいで、と精霊素を呼び寄せた。
疲労回復と走りやすい足場が相まって馬達はややペースを上げたので予定より早く到着した。
土色のコンテナハウスを無尽蔵に増築したような砦は、その規模の大きさからサイラスの言う通り要塞都市さながらの様相だった。
立ち上る湯気が温泉街らしいと言えばそうなのかもしれないが、謎の武器を作り出す工房が集まっている軍都とも見える不思議な外観だった。
「お待ちしていました魔法剣士トニー殿」
砦の本丸で僕達を出迎えた騎士は、誰が一番偉いかを考える事を放棄したようで、ここの代官になるトニーに真っ先に挨拶した。
「ご苦労様です。私達より先に出たサミュエル殿下のご一行は今どちらにいらっしゃいますか?」
「サミュエル殿下は国境沿いに魔術具の敷設に出かけられております。間もなく戻って来られる予定です!」
アップウの呪文を連発したのでサミュエル叔父達は僕達の到着時刻を読み違えたようだ。
サイラスは現場の騎士達からサミュエル叔父の動向の詳細を聞き、叔父が想定以上にまじめに仕事をしている事に感心したように頷いた。
「ハイアット部隊長は仮設の教会に献上品を届けに行ってくれ。他の団員たちは持ち場の確認の後、宿舎で休憩、アルフレッド殿下と従者見習いのセドリックと騎士見習いのコンラッドは砦の礼拝所に行ってから各自の部屋に行きます」
「トニー殿。私はハイアット部隊長と共に教会に参ります。アルフレッド殿下にはこちらの杖をお貸しいたします」
事前の打ち合わせ通りにシーナは教会で新たな教会の守りの魔法陣を確認しに行くことを明言し、僕にいかにも魔法の杖らしく先端に大きな魔石が付いた杖を貸してくれた。
この杖は、うっかりアップウの呪文の魔法を行使していることがバレてもシーナの魔術具が窮地を救った、という言い訳になるように持たされるのだ。
到着して早々それぞれ別行動をしようというタイミングで、サミュエル叔父の伝令がやってきた。
「アルフレッド殿下、ならびに魔法剣士トニー殿。サミュエル殿下より託がございます。夕刻までに魔法陣の設置が全て終了する予定ですので、それまで魔力奉納をお待ちいただけないか、とのことでございます」
サミュエル叔父は新領地の守りの魔法陣を敷く魔術具の魔力を教会の護りの魔法陣から拝借すると言っていた。
僕達が早く到着したからといって、先に魔力奉納をしてしまうとその目論見が霧散してしまうかもしれないのなら、待つのはやぶさかでもない。
僕はシーナに目配せするとシーナは頷いた。
「わかりました。先に滞在する部屋に案内していただきましょう」
「お風呂も見に行きたいです」
僕達は僕とシーナがアップウの呪文で作った大浴場がどうなっているのかが気がかりで声に出してしまうと、迎え入れてくれた騎士達が笑顔で頷いた。
「まず先にシーナ様達が整えてくださった大浴場を見に行きましょう」
代表騎士の言葉に僕とノンは満面の笑みで頷いた。




