20 僕と精霊素と精霊達
「紙に何回も書ける魔法を再現するだけじゃなく、他人の魔法の効果をあげることができるという事ですか?」
トニーは僕に何ができるのかを確認した。
「たぶん、できそう。だって、精霊素に、おいでおいで、と念じたら集まってきたもん!」
トニーとノンは、マジかよ、という表情になったが、シーナは首を小さく横に振った。
「あのね、魔法の元みたいな精霊素に幻想を抱くのはわかるけれど、精霊素は精霊達と違って自我がないの。呼びかけに応じるわけないじゃない!」
「うーん。見えない存在をそこにいると説明するのは難しい……。あっ!精霊素が集まって精霊になるんだったら、掌の中で精霊が誕生したら、この部屋の中で拡散している精霊素を集めたって検証になるかな?」
「「「……!」」」
二人と一匹は絶句した。
部屋中の精霊達は大フィーバーを起こし、てんでばらばらに色とりどりの光を点滅させ部屋中をクルクル飛び回った。
それでもキングサイズのベッドでセドリックがぐっすり眠っているのは結界の外側にいるから光の影響を受けていないからだ。
「……結論から言うわね。できるわ」
騒がしい精霊達の言葉を端的に僕達に伝えたシーナは、何でそうなるのよ!と頭を抱えた。
「……この部屋は城の礼拝室に近くて精霊素が多い、そんなことは私でも推測できるわよ!……精霊素に自我があるの?……そんなわけないじゃん。あんたがたは精霊素だった頃の記憶があるの?」
精霊達と会話しているのか自問自答なのかわからない言葉をシーナはブツブツ呟いている。
「アダムさんの詠唱魔法は自身では精霊素を集めている自覚がないけれど、アダムさんの祝詞に反応した精霊達が精霊素を集めているように、アルの掌に集まっている精霊達が精霊素を集めているのではないですか?」
トニーの疑問に僕に掌に集まった精霊達が、違う、と一回点滅した。
「……本当にアルが呼びかけると精霊素が寄って来るらしいわ」
「とりあえずやってみようかい?」
「ちょっと待った!」
トニーとノンは頷いたが、シーナが止めた。
「この部屋の中の精霊素の量に限りがあるから、私が先に試してみてもいいかしら?」
どうぞどうぞ、とシーナに先を譲るとシーナは胸の前に両掌を広げ、目を閉じて集中した。
僕達はじっとシーナの掌を見つめているけれど、精霊は目に見えないから何の変化もない。
浮遊している意識のない存在が少しずつシーナの方に引き寄せられている……いや、気のせいかな?
「……うわー。無理無理無理無理!精霊素を集めようとすると、どうしても呪文が頭に浮かんで来るのよ。ああ、もう。アダムさんの魔法を見て呪文を開発してしまったから、呼んでも反応がないと呪文を思い浮かべてしまうわ!」
精霊達が介入しようと光ったため失敗したシーナは両手をぶらぶらさせて降参した。
「私ができるかはおいおい確認するから、アルがお手本を見せてちょうだい!」
シーナは僕の真正面に座り込み、その隣のトニーの膝にノンが飛び乗り、二人と一匹はかぶりついて僕の手元を見た。
「始めるよ!」
両掌を少し離して指を丸く寄せると、いつも僕の掌に集まっている精霊達がパッと離れた。
準備万端になると、おいでおいで、と心の中で呼びかけた。
見えない触れているのかさえわからない精霊素が集まってきているのを気のせいでなければ産毛で感じている。
どのくらいじっとしていただろうか?
集中していた僕は時間の経過を感じなかった。
ただ、掌の中に意識のない何かが寄ってきているのを五感じゃない魔力でもない何かで感じていた。
ただ、揺蕩うだけの存在……。自我なんてなくても自分が存在している事は理解している。
何もない僕の掌の中で米粒大の真っ白な光がゆっくりと現れた!
「「生まれたぞ!」」
「……!」
トニーとシーナの声とノンの無言の言葉にハッとした僕は掌を広げた。
生まれたての精霊はフワフワと僕の胸の前を漂うと、いつも僕の掌に集まってい精霊達が仲間を迎えに来た。
精霊達に囲まれると生まれたてのちょっと小さな精霊は嬉しそうにプルプルと震えた。
「可愛い!」
僕の感想にトニーとシーナとノンは頷き、部屋中の精霊達は新たな仲間を歓迎するように点滅した。
「……しっかし、間近で見てもわからないわ!どうして呼びかけただけで新しい精霊が誕生するほど精霊素が集まるのよ!」
「うーん。何て言ったらいいんだろう。そこにいるんだよ。自我も意思もなくても存在しているから認識されると吸い寄せられる……。ああ!生まれ変わる前にね、僕も精霊素だったことがあるんだ!」
「「何だって!」」
「……!」
トニーとシーナとノンは目を見開いて瞬きすると、胡散臭そうな視線を僕に向けた。
「いや、確証があるわけじゃないんだけど、なんかこう、知っている馴染みのある感覚、というか、精霊素の存在が、どこか懐かしいんだよね」
「……精霊達もわからない、と言っているよ」
「前世は、いや、前前前前世くらい前に魔法のない地球という星の日本人として生を受けて死んだあと、何回か意識のない存在に転生したんだよね。生きている喜びも苦しみもないのに死を迎えるって、通常の生物ではあり得なくないかな?」
「そうねぇ、虫けらだって植物だって死を迎える前は苦しむわね」
すべての生物を理解できる精霊言語の取得者のシーナが言うことはおおむね正しいだろう。
「……生まれたての精霊も精霊素時代の記憶はないみたいね。……何々?ああ、行かなきゃいけない、みたいな漠然とした焦燥感があったの?ふむふむ。他の精霊達は気のせいだって言っているわ」
精霊達もだいぶ混乱しているようだ。
「異世界から紛れ込んできた魂が精霊素まで分解されて、それでも、前世の記憶を維持していたのなら、精霊素の中にも自覚なく自我を持つ存在だっているんじゃないでしょうか?」
トニーの突っ込みにシーナは首を傾げた。
「うーん。わからないけれど、わかったことがあるわ。精霊素の存在を体感できない私は精霊達を使って精霊素を集める事しかできなさそうね。こんな事、魂の練成時の記憶があるアルしかできないんじゃないかしら」
シーナは僕が精霊素の生まれ変わりかどうか断定することなく別格扱いした。
「精霊素の濃さを変化させればアップウの呪文を制御できるかな?」
部屋中の精霊達が一斉に激しく点滅した。
やめろという事だろうか?
「……集めるの反対はしないでほしい、って……。ああ、精霊素を薄めるのはなしってことね。新人さんはまだ幼いから精霊素をたくさん欲しいようね。……制限なしで使いたの?」
「……敵の魔法を封じるのに精霊素をこっちに集めるのも駄目かな?」
僕の質問に精霊達は激しく点滅した。
「アルに協力していない敵の周りにいる精霊達から反感を買うから止めた方がいいみたい」
寄ってくる精霊素は使ってもいいけれど、どこかから根こそぎ奪うのはよくないのかな?
掌の精霊たちが二回点滅した。
「アップウの呪文を制御できるかと思ったけれど、精霊達の機嫌を損ねるならやらない方がいいのかな?」
「……取りあえず、私達の周りにいる精霊達は精霊素を集めて魔法を強化することには反対していないわ」
「数回、写本の魔法で練習してみて、アルフレッド殿下の魔力の使用量に問題ないかを確認してから、どの程度まで使用するかを判断したらどうでしょう?」
トニーの至極真っ当な意見にシーナとノンは頷いた。
あのね、僕がアップウの呪文を使う時ってトニーの魔力を拝借しているんだよね。
せっかく、試してみてもいい、って言っているんだから黙っていよう。




