18 中級魔導師青年アダム
公爵領は大叔父一家がしっかりしているので、領地の守りの魔法陣への魔力供給は洗礼式後でよい、と言われてしまい、僕とセドリックは中庭の祠に魔力奉納をした。
サミュエル叔父は公爵家と血縁関係がないので中庭の祠の魔力奉納も断れていていた。
その分サミュエル叔父には仮設用の国土を守る結界の魔術具に魔力を注いでほしい。
サミュエル叔父は王家の騎士団を率いてきたので宿泊施設として別棟をまるまるあてがわれていたのにちょろちょろと僕の周りに出没している。
いいかげんに仕事をするから時間があるのか、優秀だから時間を捻出できるのか判断に迷う人だ。
セドリックは王太子のスペアとして他人にわかりにくい自己研鑽したサミュエル叔父を尊敬するようになり、午後の読書の時間に図書室までついてきても嫌な顔一つせず従者見習いとしてサミュエル叔父のために椅子を引いた。
青年アダムが戦勝パレードで僕の身代わりを害しようとした事を小耳に挟んでいるのでセドリックは彼を完全に無視している。
処分保留の身分をわきまえているのか青年アダムは気分を害した風もなく黙ってサミュエル叔父の背後に立っていた。
セドリックはシーナが選んだ本を僕の座る席まで運び、こんなに難しい本を読むのか、と眉を寄せた。
僕は公爵領の歴史書を斜め読みすると、いつもの通り面白そうねエピソードを写本した。
サミュエル叔父はそんな僕を微笑ましそうに見ながら収納ポーチから地図を取り出して僕の背後にいるトニーに見せた。
なんだ。サミュエル叔父はここで仕事をするつもりだったのか。
新たな国境沿いに設置する魔術具の位置とそれに伴う警備の人員等を温泉地の代官補佐と協議済みだったようでトニーは事後報告を受けていた。
トニーは本当に名前ばかりの代官なんだな、と思いつつ僕のご先祖様の武勇伝を書き写していた。
びっしりと紙に文字が埋め尽くされるとシーナが口元を隠して咳払いをした。そうするとインクが紙の中に沈み僕はまた歴史書の写本を続けた。
本当は僕が腹話術みたいに口を開けずに小さな声でアップウの呪文を唱えているのだが、シーナの魔法にしか見えないだろう。
二重に書いた紙を裏返して続きを書こうとすると、えっ、と言う声が聞こえて顔を上げた。
「シーナ様。ちょっといいですか?」
トニーとサミュエル叔父のやり取りでなく僕を注視していたのか青年アダムがシーナに声をかけた。
「上級魔導士相当の元聖女シーナ様の魔法は素晴らしいのですが、僕が干渉すると一枚の紙にもう少したくさん書くことができるかもしれなせん」
青年アダムが口を挟むとサミュエル叔父が、ああ、と頷いた。
「アダムの詠唱魔法は単体ではそれほど特殊なことができないが、他人の魔法に干渉して効果を倍増させることができる」
魔法にバフをかけることができるって、なにげに凄い事じゃないか!
サミュエル叔父の背後にたたずむ顔がいいだけの青年だと思っていたアダムを僕達はまじまじと見た。
「今回の作戦はこれだけ大規模に魔術具を設置するのに参加する王族が私だけで何とかなるのは教会の魔力を当てにしているだけじゃなく、アダムに手伝ってもらうからできるのです」
サミュエル叔父が思い付きで公爵領に来たという事は、はなから教会の魔力を当てにしていたわけではなく、きちんとした作戦があったのだろう。
「そんな能力があったのによくアダムさんを教会が手放しましたね!」
大人数で執り行うことが多い教会の儀式に青年アダムが一人いれば派遣する司祭の人数を減らせるじゃないか!
「僕はいつもサミュエル殿下と行動を共にしていますから、私の能力はサミュエル殿下の実力です」
おお。
青年アダムは自分はサミュエル叔父の右腕だと主張するのではなく、自身の能力がサミュエル叔父の力だ言い切るのか!
青年アダムの全てはサミュエル叔父の物ってことかな。健気を通り越してちょっと怖い。
「アダムさんの魔力が他の魔力に混ざりやすい特徴があるからですね。うちの一族のニーナに少し似ています。鎮魂の儀式でニーナの魔力を介して東の砦から魔力を引っ張って来れたように、王族しか魔力供給できない魔術具にアダムさんの魔力が少し混ざれば新領土の土地の魔力を利用できるようになるのですね」
シーナの説明にサミュエル叔父と青年アダムが頷いた。
「新領土は火山灰の被害で一面灰だらけの不毛の地だと聞きました。そんな土地から魔力を引き出せるのですか?」
セドリックの素朴な疑問を僕は本能で違うと感じた。
「あの土地は魔力が少ないのではなく物凄く魔力が豊富な気がするのですけど、違うかな?」
僕の疑問にシーナとサミュエル叔父と青年アダムは頷いた。
「多くの人々が亡くなった大規模な災害だったけれど、被災地は火の神様と山の神様の魔力が豊富に注がれた土地なので土地の魔力は豊富にあるのです。数年で緑豊かな肥沃な大地へと蘇るでしょうね」
天災はその地に生きる多くの人々の命を奪うが長い年月をかけて豊かな植生に蘇るのに、魔法世界ではほんの数年で蘇ってしまうのか!
シーナの説明にサミュエル叔父と青年アダムは頷くが、神学を学んでいないトニーには理解できないようで小さく首を何度も横に振った。
「サムエル殿下も古文書をお読みになったのですか?」
シーナの問いにサミュエル叔父は首を横に振った。
「いえ。聖典を読み解いてそうではないか、と推測しただけです」
「数年で土地がよみがえったら領地を手放した隣国はさぞかし悔しがるだろうな……」
そんな土地の名目だけの代官になるトニーは頭を抱えた。
「本来なら土地の魔力で巨大化した死霊系魔獣が数十年蔓延る不毛の地を、コホン、死霊系魔獣が巨大化する前に討伐したラウンドール王国騎士団の功績あってのことだですよ」
僕達が討伐した事を知っているのかサミュエル叔父は騎士団の名を出す前に咳払いをした。
セドリックは、オオー、と感嘆の声を上げたが、僕達は空笑いをした。
死霊系魔獣を完全に討伐したトニーが温泉地を賜るのは妥当だったんだな。
「それで、まあ、こんな調子でアルフレッドが写本を続けたら紙がいくらあっても足りないからシーナ様の魔法で二回書けるようにした紙にいったいどんな魔法を上掛けするんだい?」
「シーナ様の魔法は書かれた文字を紙の奥に隠し上からもう一度書けるようにしていりますから、それを何度もできるようにしようかと考えています」
「よろしくお願いします!」
大容量記録紙なんて最高じゃなか!
僕が即答すると青年アダムは満面の笑みになった。
シーナも笑顔で頷いている。よく考えないで即答してしまったけれど問題ない魔法のようだ。
「アルフレッド王子殿下、最初に書いた文字と二番目に描いた時の文字の区別はどうやってしていますか?」
「一回目、二回目、と意識して書いて、読むときに一回目の文章、と念じると一回目の文章が浮かび上がってきます」
「ああ、それでしたら簡単です。三回目の文章を書く時に三回目、と念じてください。紙自体の魔力量で書ける文章の量に限界がありますが、この紙だとあと十回以上書けるはずです」
「そうすると、裏面は使用できませんか?」
「裏は一回しか書けないでしょうね」
「今までは、裏表で四回書けたところを十二回以上書けるなら素晴らしいです!是非ともよろしくお願いいたします!」
「ええ、ですが、僕はシーナ様とは違いしがない中級魔導士なので、呪文が長いのが難点です。お時間を頂戴してもかまいませんか?」
はい、と即答したが、本当時時間がかかってしまい、お茶の時間が来ても僕は青年アダムの呪文が終わるまで紙に文章を書き続け、シーナは適宜に呪文を唱えるふりをし続けた。
「いつ終わるのでしょうか?」
他の本を下げてお茶の支度を手伝っていたセドリックの質問に、お茶の時間が終わるくらいかな?とサミュエル叔父がテキトーなことを言った。




