17 僕の隠れ蓑
サミュエル叔父は結果として領城で大歓迎された。
来てしまった者は仕方がない、という事で僕達はサミュエル叔父とセドリックを僕がうっかりやらかすだろう事への隠れ蓑にしようと企んだ。
僕が温泉地で教会関係者幹部と鉢合わせしても、身体強化に長けているのはセドリックと一緒にトニーの稽古を受けているからだと納得しやすい。
そうなるとセドリックのレベルアップが不可欠だ。
セドリックとノンとの訓練の場所を公爵領の騎士団の訓練所を間借りする事にした。
サミュエル叔父は大叔父と騎士団長と温泉地での守りの結界の魔術具の敷設方法を説明していたはずなのに気が付けば全員僕とセドリックの訓練を見学していた。
身体強化なしで柔軟体操と素振りをした後、トニーと打ち込み稽古をしていた。
幼児の訓練は楽しく!がモットーな僕達は身体強化をバリバリ使い二人と一匹で本格的にトニーに打ち込んでいった。
ジャンプが得意な僕が空中戦を担当しセドリックは僕が撃ち込んだ直後にトニーの脛を狙い打ち返されている最中にノンがトニーの背中を狙う汚い戦法でも、トニーは木刀で全てかわした。
打ち込み稽古の間、トニーは僕達の剣技がどれほど未熟でも指摘することなく好き勝手にやらせてくれる。
僕達の体力の限界が来る前にシーナからストップがかかり、温泉水を飲んで一休みしている時に感想戦としてトニーやシーナからダメ出しが入った。
「二人と一匹の連携が取れていてテンポよく剣を繰り出すけれど、パターンが決まってきたので動きの先が読みやすくなった」
「アルの着地で狙われる事をセドリックは警戒しすぎだからトニーじゃなくても動きが読めるわ。もっとアルを信じて大丈夫よ」
温泉水は食品保存の魔術具に入れていたのに現地で飲むほど疲労全回復とはならなかったが、体のこわばりが軽減した。
「「もう一回お願いします!」」
「……!」
頷いたトニーに僕とセドリックとノンはすかさず向って行った。
忠告通りセドリックは僕を守ろうとする動きを止め、トニーに一発当てる事に集中した。僕は動きをトニーに読まれている事であきらめずに動きに緩急をつけて一撃を入れようと努力したが、結局、二人と一匹は一発も入れることはできなかった。
「噂に聞くよりすごい動きをしますね!」
サミュエル叔父の言葉に大叔父は頷いた。
「少し見ない間にずいぶん動きがよくなっています」
サミュエル叔父のが連れてきた王家の騎士団員達からも褒められた。
前世のイメージで動いてしまう僕は剣術というより映画の殺陣のように見せる動きをしていた。
経験がないのに映像だけはたくさん見ていたから、やりたくなっちゃうんだよね。戦隊ものみたいな動き方。
セドリックと一緒に訓練するようになってからセドリックの動きを見て勉強になった。
頬が紅潮し息が上がっていた僕とセドリックノンが水筒の水を飲むと顔色も呼吸もすぐに戻った。
「……これが例の温泉水ですか」
大叔父の言葉に僕達は頷いた。
「各種効能のある名湯ですが、現地から遠くなるほど薬効が薄くなります。ここで飲むと初級回復薬ほどの効果もないでしょう」
シーナの説明に王家の騎士団員立ちは頷き、それは残念、と大叔父と公爵家の騎士団員達は首を横に振った。
「アルフレッドとセドリックと兎にはずいぶんと効いているようですが」
サミュエル叔父の疑問に、若いですから、とシーナが即答すると笑い声が上がった。
「実際のところ、体がお小さいからです。大人でしたらちょっとした胃腸薬代わりに毎日飲める健康飲料水ですよ」
僕には関係ない話だが、飲み過ぎによる胃もたれに効くようだ。
「薬効あらたかな温泉水でも国外まで持ち出したらただの水になりそうですな」
大叔父の言葉に僕達は頷いた。
「保養所として需要が高まりそうですが、名湯の名が国外に知れ渡ると厄介ですな」
「教会関係者から噂が広がるのは止めようがありません」
教皇も堪能した温泉だから温泉の薬効を教会関係者はとっくに知っているだろう。
枢機卿クラスがわざわざ現場に出てきたのも教皇がほんのり若返ったことが原因だったりしてね。
「持ち出した距離だけでなく、おそらく史実によると時間経過によっていずれ薬効成分などほとんどなくなるでしょう」
シーナの説明に一同、ハァ、となったがサミュエル叔父が異なる視点でシーナに食いついた。
「シーナ様は古文書が読めるのですか!」
「理解できるだけで翻訳はしませんよ。あれにかかわると命がいくつあっても足りません」
古代文字は音読すると神罰が下るけれど黙読なら死なないのかな?
「そうですね。いったい何が神罰に相当するのか神罰が下った人物から聞き取りができないのでわからない、としか言いようがありません」
大叔父の言葉に大人達は頷いた。
「アルフレッド様は本が好きだから、いつかは古文書を読みたいと思うのですか?」
セドリックの疑問に僕は首を横に振った。
「いいえ。命からがら逃げだしてきた僕の人生はたくさんの人に支えられているのに、むざむざ死に急ぐような行動はしません!」
僕の宣言にみんなが安堵した。
僕ってそんな危険な書物に興味を持つほど好奇心旺盛で向こう見ずだと思われていたのだろうか?
「公爵家では古文書は意訳して書庫に保管してあります。十分な資格を手にしたとき書庫の扉が開くのでその時までお待ちください」
大叔父の言葉に僕は頷いた。
「教会の古文書は初級魔導士の試験に合格するだけで閲覧可能でしたね」
サミュエル叔父の指摘に青年アダムが頷くと、シーナは眉を顰めた。
「呪文の開発や神学の研究に古文書を閲覧する場合があるからですよ。神学校の図書室では貴族出身者の取り巻きたちが幅を利かせていたので、その方々にかかわらないようにするために危険な資料で代用したから読めるようになっただけです」
「緑の一族は平民扱いなってしまっていたのですね」
神学校出身の青年アダムは気の毒そうにシーナを見た。
「私の場合は、平民だから虐げられたというより、数少ない聖女候補に因縁をつけて関係を持とうと下心のある連中が紛れているのを警戒したからです」
心当たりがあるようでサミュエル叔父と青年アダムは、ああ、と声を漏らした。
「教会の上位者は魔力の多い貴族出身者ばかりなのは当然です。次期教皇もきっと、魔力の多い貴族出身者になるでしょう。ラウンドール王国は教会内の派閥に属していませんね。サミュエル殿下、国籍がはっきりしていない大国の王子を取り込みたいと考える派閥は予想できますか?」
シーナの問いにサミュエル叔父と青年アダムは真顔になった。
「ええ。いくつか思い浮かびます。アルフレッドの優秀さを教会幹部に隠す必要があるのですね」
僕を教会に取られたくない全員が頷いた。
シーナの機転で精霊魔法の呪文の存在を打ち明けずにサミュエル叔父の協力を得る事ができそうだ。




