16 第二王子サミュエル
「サミュエル殿下はアルフレッド殿下とずいぶん親しいようですね」
僕に叱られて喜ぶサミュエル叔父に大叔父は怪訝な表情をした。
「ええ。新領土の代官をアルフレッドの護衛の魔法剣士トニー殿が指名されたので、さぞ気をもんでいるいるかと思いお茶席に招待し親しくなりました」
だいぶざっくりとした説明だが事実しか言っていない。
「小さいアルフレッドに当たり前のことを叱られると、幼いころメリーアン姉上に叱られたことを思い出して胸が温かくなるのです」
「ええ、そうですね。サミュエル殿下は課題を放置してメリーアン王女様の後をついて回るたびに叱られていましたな。ああ。微笑みながらも目が怒っているメリーアン王女様が瞼の裏に浮かびます」
おっと!
大叔父も亡き母にメロメロだからサミュエル叔父と喜ぶポイントが一緒だった!
さっきまで涅槃の境地に達していた大叔父夫人まで瞳を輝けせている。
似たもの夫婦だったのか!
公爵領城に多大な迷惑をかけたサミュエル伯父上は母の親衛隊の心を掴んでしまったのかな。
どうやってこの面倒臭い叔父さんを振り払おうかな?
「新領土の温泉地に教会関係者はもう入っていますよ。そちらに先に行かれるとばかり思っておりました」
ジーナはサミュエル叔父に切り込んだ。
「ああ、枢機卿クラスが動いているらしいですね。だから、こっちに立ち寄ったのですよ」
『チッ。強かな王子だ』
シーナは精霊言語で舌打ちをした。
「被災地に枢機卿が直接向かわれたのですか!」
大叔父が驚くとサミュエル叔父は頷いた。
「この度の噴火の被害の規模が大きかったので教会の護りの結界に穴が開きかねない、というのが表向きで、その実、広範囲の浄化の実績に教会側が深く食い込みたい、という願望が透けて見えますね」
ほう、と大叔父夫妻はサミュエル叔父の話に食いつき、シーナは小さく頷いた。
被災地の浄化の魔法に元聖女が大きく貢献しているけれど、実際のところ教会からは誰も派遣されていない。
僕の親権を巡って事後に教皇が仲立ちをしただけだ。
いち早く被災地で教会の護りの結界を修復する事は必須な上、ラウンドール王国の復興事業より先に教会が建立されれば、でまるで浄化の儀式にはなから参加していたように諸外国に見せる事ができるからだろう。
「アルフレッドの洗礼式をする場所を巡ってシャオ王国と争っているから、私がここで一休みして、教会に恩を売るのは悪くなしでしょう?」
なるほど、とみんなが納得しそうになった。
『悪くない選択だけど、ベストは第二王子がサッサと温泉地に向かい、アルがシャオ王国から出国していたから元聖女に出会い迅速に浄化できた、と枢機卿達に主張して、神々はアルフレッド王子をラウンドール王国で過ごすことをお望みだ、ともっていくのがラウンドール王国王族の元教会関係者としての正解だ!』
精霊言語でまくしたてたシーナはそんな素振りはおくびにも出さず、たおやかな笑みを浮かべていた。
「そうですね。それでも、枢機卿の滞在期間中に叔父上が間に合い、コネでも作ってくださるとありがたいですね」
小首をかしげ物悲し気に伏し目がちにして自分の立場が不安定だから悲しんでいるかのように小さな溜息をつき、サミュエル叔父を見上げた。
母に似た顔に弱いのならこれが効くはずだ。
大叔父夫妻は気の毒そうに眉を寄せ嘆願するようにサミュエル叔父を見た。
「任せておきなさい。間に合わせますよ」
サミュエル叔父の言葉に大叔父夫妻の頬が緩み、青年アダムは深く頷いた。彼はもう僕に対して嫉妬心はないようだ。
「教会の護りの魔法陣が完成する直前に現地に向かい、王家の魔法陣を同時に設置すれば、守りの魔法陣の起動時の魔力を教会の護りの魔法陣から借用できます」
「そんなことができるのですか!」
大叔父は目を丸くしてサミュエル叔父を凝視した。
「教会の護りの魔法陣のパターンが読めるからできる事で、その辺の貴族にはできませんよ」
サミュエル叔父の説明にシーナは頷いた。
「土地持ち貴族の子弟が教会に入る理由は本来、教会の護りの魔法陣と領地の魔法陣を連動させるためだ、と族長から聞いたことがあります」
「うん。昔はそうだったみたいですね。今は神学校に入学するだけで貴族社会の落ちこぼれのような扱いを受けるから、優秀な人材が行かなくなったんですよ」
サミュエル叔父の言葉に大叔父はハッとした表情になった。
「……私の子ども達の誰も神学を学んでおりません」
「私が母の実家と縁を切ることになったのも、神学校への進学を反対されたからです。生さぬ仲の私を可愛がってくださった王妃殿下に報いるために神学を学ぶことを志した私を祖父は悪しざまに罵ったので未練はありません」
大叔父夫妻はサミュエル叔父の告白に絶句した。
芸術好きの同性愛者だから母方の実家と絶縁宣言したのではなく、義理の母である姉に忠義を尽くすためだったと聞いたらそうなるよね。
僕だって、サミュエル叔父はヘンタイサ、いや、ちょっとちゃらんぽらんな人だと思っていたが、かなり有能で強かな人物だった衝撃を受けている。
サミュエル叔父は第二王子として王太子のブライアン伯父上に万が一があった時にために国の守りの魔法陣の秘密を知っているのだろう。
だから、それを強化するために教会の神学校に進学した。
詠唱魔法の修得が目的ではなく、ラウンドール王国を強化する事を目的にしていたから、あえて上級魔導士を目指さなかったのかもしれない。
サミュエル叔父の足元で精霊達が淡く二回光った。
ヘンタイサディストの方向に行かなければ、サミュエル叔父を推す精霊達がいるのも理解できる。男前な生き方だ。
「ああ、何という事でしょう!メリーアン王女様を巡る戦争だったのに王女様が嫁がれてから引き際がわからなくなった敵国と持久戦が続いていた最中に、サミュエル殿下は戦後の復興を見据えて国の守りの魔法陣を強化するために神学校に進学されたのですね」
「王座を望まない私にできる事をしただけです」
僕の背後に立っていたセドリックはどこまで話を理解しているのかわからないけど感動したのか鼻息が荒くなった。
『うまいこといっているけれど、あいつは魔法学校を卒業して実務に入るより神学校に進学してもう少し学生気分でいたかった、ってところよ。やだ、自己紹介みたいになっちゃった』
そういえばシーナは結婚したくないから神学校に進学したんだっけ。
高い志だけでなく進路を決めかねて進学を選んでしまうなんて、若者にありがちなことだと思うよ。
この逸話を聞いてしまうとサミュエル叔父は突然押しかけて来た迷惑な第二王子から、ラウンドール王国を陰から支える重要人物、と大叔父夫婦は考えを変えたに違いない。
『これをその場の思い付きでやっちゃうから、精霊達にも先が読めないのよね』
シーナの嘆きに僕とトニーとノンは微かに頷いた。




