12 庭の薔薇と茶室の百合
当面の間、文字数を少なくして毎日更新を目指します。
「咲き誇る前の薔薇が好きなので、このお庭は僕にとってちょうど見頃です」
薔薇を見るために中庭に出たのにテラスから見えた咲き誇る薔薇はティールームの前に集められた鉢植えで、中庭の薔薇はまだ蕾だらけだった。
SMカップルの痴話げんか見たくないから薔薇を口実に中庭に出たのにこのざまで気まずそうに眉を寄せた従者を気遣った言葉だ。
「アルフレッド王子殿下のお心遣いに感謝いたします」
薔薇に対する発言なのか、サミュエル叔父の愛人への寛大な処罰を嘆願した事なのか、はたまた、こじれているカップルに話し合う時間を作った事なのかわからないが、従者は僕に頭を下げた。
「サミュエル殿下はお小さいころから一通り何不自由なく暮らせるように両陛下にお心配りいただいてお育ちになったのに、何か満たされない思いを持て余しているようなところがおありでした」
「叔父上は側室の子という立場からはみ出ないように気を使われていたのでしょうね。僕も異母兄弟がいますが……」
僕の弟は異母兄弟どころか父親も違ったな。
「ええ。存じ上げております。サミュエル殿下は、あれほどの大恋愛の末結ばれたメリーアン王女様のご長男の誕生後すぐに側室が第二王子を出産されたことをたいそう嘆いておられました」
ああ、サミュエル叔父は母の純愛ストーリーに瑕疵を見出して鬱屈した気分になったのだろう。
「まあ、ぶっちゃけてしまえば弟は父上の子じゃなかったんですよ」
遠いシャオ王国のスキャンダルなど伝え聞くことがなかっただろう従者は、え゛っと王族の使用人らしくない声を出した。
「生まれてきた子に両親の罪はない、というメリーアン妃のご意向でアルフレッド殿下のお父君は弟君を洗礼式で実子としてご登録なさるようですよ」
シーナが補足説明をすると、そうなのですか、と従者は納得した。
「王太子殿下もメリーアン王女様も母親の違うサミュエル殿下にとても優しく接してくださいました。メリーアン王女様らしい考え方です」
従者の言葉にトニーは深く頷いた。
「幼いころのサミュエル殿下は王宮でメリーアン王女様の後をよく付いて回り、王太子殿下に、しつこい、と叱責されて以来、行動を控えめにされていましたが、殿下の心に常にメリーアン王女様をお慕いしている気持ちがあったので、このような騒ぎになってしまいました」
叔父の感情が姉を慕う家族愛であっても、妹の親衛隊員と結婚するぐらいのシスコンのブライアン伯父上が幼いサミュエル叔父を徹底的に母に寄せ付けまいとしたらしいので、サミュエル叔父が亡き母にこじれた思いを抱いてしまっていたのも納得できる。
青年アダムはそんなサミュエル叔父の根底にある思いにじれていたのだろう。
まあ、M気質があればそんな葛藤さえ愛の執着に変貌しそうなんだけどね。
あっ!だから誘拐計画を立てたのか。
「真実の愛かどうかなんて、当人たちの心根次第なんだから、叔父上には(僕に迷惑が掛からないような形で)幸せになってほしいですね」
本音は、SM趣味同士でくっついたままでいてくれ!と思っているのだが、王族スマイルで受け流すと、従者は僕の言葉に感銘を受けたような表情になった。
いくら母にそっくりな外見とはいえ僕はまだ薔薇の蕾にすらなっていない幼児だから心酔なんてしないでほしい。
うん。忠臣らしい従者にはサミュエル叔父の昔話の詳細でも聞いておけばいいだろう。
僕達が蕾の薔薇を愛でながらサミュエル叔父の幼いころの逸話を従者から聞いていると、サミュエル叔父と青年アダムが一緒に中庭に来た。
二人が本音で話し合ったら青年アダムが席から立てるように精霊達に命令していたので、二人揃ってきたという事は上手く話しができたのだろう。
「いやいや、庭の薔薇はまだ蕾ばかりじゃないか。申し訳なかったね」
「これから美しく咲くことを想像できるからこのくらいの薔薇の花が好きなのです」
蕾の良さがわかるのか?とサミュエル叔父は目を輝かせた。
「アダムさんの呪詛返しが解けて良かったですね」
シーナが話を二人に向けると二人は恥ずかしそうに顔を見合わせた。
「私達は親しくしていた期間が長くなっていたので、お互いに言葉が足りなくなっていたみたいだ。よくよく話し合うと、お互いの誤解からより刺激を求めて、ずいぶん過激になっていたようだ」
「良いお話し合いができたようで何よりです」
シーナが笑顔で頷くと、僕とトニーとノンは安堵した。
ヘンタイサディスト未満の叔父がより過激になる前に止めることができたようだ。
掌の精霊達が淡く二回光った。
やったー!
ヘンタイサディストの叔父に執着される僕の未来の路線変更に成功したぞ!
蕾の薔薇を愛でた僕達はティールームに戻り、サミュエル叔父と母の思い出話をしても青年アダムは嫉妬することなく穏やかな表情で聞けるようになっていた。
王太子離宮に帰ると、僕が加害者と鉢合わせしたことで大騒ぎになったが、誤解が解けたのでいい感じに歓談してきた、と答えた。
ブライアン伯父上は青年アダムの供述から、母の親衛隊の噂が元で誤解があったことを知っており、母上の熱狂的なファンが思い違いから起こしたことだった、と青年アダムまで母のファンだった事にして家族を納得させた。
僕とサミュエル叔父との関係が落ち着いたので、城下町に出で冒険者ギルドに行こうと計画を立てると、一緒に行きたい!とセドリックがごねた。
セドリックにはお土産を買ってくることを約束して、下町に降りた僕は冒険者ギルドでシーナとの契約を清算した。
でも、これでシーナとお別れではない。
サミュエル叔父上のお茶会でやらかしてしまった僕は、もう少しシーナの手助けが必要だという事になり、今度は冒険者ギルドを通さず、報奨金で潤沢になった僕個人のお小遣いでシーナを雇うことになった。
シーナの滞在の延長が決まると、ブリジット伯母とイザベラを筆頭にブライアン伯父上ブラ一家は大喜びした。
シーナを見せびらかしたいブリジット伯母とイザベラによって、僕は女性だけの内輪のお茶会に呼ばれ、王族スマイルを浮かべて人形のように座っていた。
女性達は母そっくりの僕の容姿をを愛でた後、シーナの話題でもちきりになり、シーナが似非占い師の姿と素顔をお披露目するだけで女性達から黄色い声が上がった。
シーナが行く先々のお茶会で百合の雰囲気が漂っている。
うん。
まあ、淑女が夫以外の男性に入れ込むのは問題があるけれど、元聖女の男装の麗人に入れ込むことは倫理的に何の問題もない。
きっと、これでいいのだ。




