11 やらかしたのは僕だけじゃないはずだ
従者が席を用意したのでとりあえず青年アダムに着席してもらった。
「王族を攫う計画を立てておきながら、こんなに簡単に保釈されたのはアルフレッドが情状酌量を王太子殿下に申し出たからなんだぞ」
サミュエル叔父は愁傷な顔で俯く青年アダムに叱責すると、アダムは震えながら頬を赤らめた。
「現場にいたシーナの話によると、元聖女が真後ろにいるのにあんな小細工が通用するわけがないのはわかりきっているのに実行したのは、叔父上にかまってほしかったのではないか、という事だったので僕は痴話げんかに巻き込まれた、くらいに考えていました」
「……そういった気持ちがなかったわけではありません」
羞恥心からか耳まで真っ赤になった青年アダムに、物憂げな表情で頬杖をついたサミュエル叔父が大袈裟に足を延ばして組み替えながら視線を向けた。
何でしょう?
この展開は……。まるで、M気質の青年アダムを喜ばせているシチュエーションではないか!?
テラスを開けているのにティールームの空気が淀んでいる気がしてしまうのは、倦怠期のカップルに当てられているからなのか、それとも姿を現していない精霊達が推しのために罵りあってでもいるからなのだろうか?
掌が淡く光った後で二回光った。
精霊達が騒いでいるのか。
シーナは国宝級の変装のマントを身に着けているので、言葉攻めSMプレイに発展しかねないサミュエル叔父と青年アダム慕う精霊達と潔癖症っぽい精霊達との諍いを聞かずにすんでいるため無表情だ。
「悪いことして叱ってもらうのが好きだからといっても、王族に手を出そうとしたら駄目ですよ。アップウ」
青年アダムを叱責するついでに、その辺で騒いでいるはずの精霊達に大人しくしていろ!とアップウの呪文で命じた。
テラスから爽やかな風が吹き込み、淀んでいた雰囲気が一変した。
トニーとシーナとノンはさり気なく僕が呪文を使ったことに目を丸くしたが無表情を保った。
『やらかしたね、アル』
シーナが精霊言語で語り掛けたのは僕とトニーとノンだけだったようで、突然脳内に響いたシーナの声への驚きを誤魔化すように僕達はさり気なく額に手を当てた。
『アップウの呪文が効きすぎてしまい、この場の精霊達を大人しくさせるだけでなく、アダムが王族に手を出そうとしたら精霊達がお仕置きをする呪いがかかった』
えっ!
アダムへの叱責が精霊達への呪いになってしまったのか!
『今後、精霊達は面白がってアダムに付きまとうから、アダムはアルだけじゃなく、他の王族に対しても関わり合いになるだけで精霊達がいたずらできるようになってしまったのよ』
王族に手を出すな、とは具体的に何を意味するのか指定しなかったから、精霊達が好き勝手に判断できる命令になってしまったのか!
なんてこった!
僕とトニーとノンは小さく首を左右に振った。
温泉地で自在にサーフィンできるくらいにアップウの呪文を使いこなしていたので、僕はうっかりやらかしてしまった。
王都に来てからアップウの呪文を使っていなかったから、細部までイメージしなければいけない事を忘れていた。
僕達が内心あちゃーと思っていたが身体強化で表情筋強化し王族スマイルを保った。
「幼児のように叱られちゃったね」
サミュエル叔父の言葉に青年アダムは頬を赤らめているが、その体は僕とシャムエル叔父の方を向くことができずにいた。
『小芝居をするから合わせて!』
脳内に響くシーナの精霊言語に、了解!、と僕は瞬きを二回した。
「サミュエル殿下。アダムさんは王族に魔法攻撃をしようとした呪詛返しに遭っているようです」
シーナは立ち上がるとマントをぱらりと脱いだ。突如として似非占い師から元聖女らしい美女に戻ったシーナを見た青年アダムは口をあんぐりと開けて目を丸くした。
「まさか!母上の呪いの影響がアダムさんまで及んだのですか!」
母の呪いは、もうすでに誰かに呪いを跳ね返す力はもうなかったが、そういったお呪いがあったことは事実なのでシーナの小芝居の設定に乗っかった。
「メリーアン姉上の呪い?」
「ええ、母上は余命いくばくもない最中に、僕とメラニーを害する者に魔法だろうが物理攻撃だろうが跳ね返す呪いをかけてくださいました。僕は多くの人に命を狙われたため、盛られた毒の反作用が多くの人に分散されてしまい一人一人には食あたり程度にしかならなかったらしいのです!」
「メリーアン姉上は呪いと呪いの研究をされていたが、そんな大規模な呪いを施して亡くなったのか!それで、アダムは一体どんな呪詛返しに遭っているんだい?」
「それは、アダムさんがアルにしようとしていた魔法が返っただけですから、アダムさんがご存じでしょう」
シーナの言葉に青年アダムは元聖女に助けを求めるような目をして言った。
「アルフレッド殿下に、実際は緑の一族の少年に扮した騎士団長の末のお子さんでしたが、落馬しない程度に体かしびれるような魔法をかけ、パレードから離れたところを拉致する予定でした」
「アルフレッドを拉致してどうするつもりだったんだ!」
語気を強めたサミュエル叔父の声に青年アダムはビクッとなったが全く叔父を見ようともしなかった。
『第二王子の顔を見ながら叱られたらアダムにはご褒美になるから、第二王子の方に振り向けなくなるように精霊達が体を押さえている』
マジか。サミュエル叔父から叱責されることがご褒美になるから精霊達は青年アダムの体ごと押さえつけて視線を合わせないようにしているのか。
つまり青年アダムは金縛り状態なのか!
「サミュ……」
「サミュエル殿下に話しかけることができないようですね。ラウンドール王国の全ての王族にもう、アダムさんはもうかかわれないという事でしょうか?」
僕の言葉に青年アデルは首を強く左右に振ったが、僕に言葉を返すこともできないようだ。
「どうやら王族と話すこともできなくなったようですね」
シーナの言葉に青年アダムは体を震わせて嗚咽した。
「アルフレッド殿下を拘束したら、サミュエルに近づかないように言い含め、そのままお返しするつもりだったのです」
「いや、あのね、自分の心に向き合いなさい。洗礼式前のこどを攫うなんて王族じゃなくてもやったらダメでしょう。もう、サミュエル殿下に叱ってもらいたかっただけなんでしょう?でもね、アルがその犯罪を保留にしたのに蒸し返したりするから、当日の標的で実際にはアルでははなかったのにもかかわらず、こうしてメリーアン妃の呪いが発動してしまったではありませんか」
うーん。シーナはよく辻褄を合わせたものだ。
僕とトニーとノンは、そうだよね、と頷いた。
「ああ、アダムの魔法が自分に返ってきただけだから、アダムに他者の魔力干渉がないのに体の自由が利かなくなっているのか」
サミュエル叔父は精霊達が青年アダムの魔力を使って体を押さえつけている事を、アダム由来の魔法だから、と勝手に解釈した。
「魔法の気配がしないのに体が動かないのは、僕自信の魔法が返ってきたからなのですね」
精霊達が身体強化の補助をする応用で青年アダムの筋肉への指令系統を乗っ取らてしまったのに、青年アダムも勝手に納得してしまった。
「僕はサミュ……王族を直視できず、話しかける事もできないのでしょうか?」
悲嘆にくれる青年アダムとは対照的にサミュエル叔父はホッとしたように小さく安堵の息を吐き、その気配にハッとした青年アダムを気遣うように足を組み替えた。
ひょっとしてM気質が強すぎる青年アダムにサミュエル叔父は内心、辟易していたから、不意に温泉地に逃げたくなったのかな?
掌で精霊達が淡く二回点滅した。
「うーん。食あたりになったシャオ王国の人達は一過性だったみたいだから、そのうち治るんじゃないでしょうか」
今こそ精霊達の行動そ精霊達の暴走を押さえるタイミングだと気付いた僕は、そう言いながら口元を隠してアップウの呪文を唱えた。
ひとまず段階を踏んで、青年アダムがサミュエル叔父を直視できるようにして……。
憔悴した青年サミュエルが体が動させる事に気付き、涙を湛えた瞳でサミュエル叔父を見上げると、その姿がズキュンと胸に刺さったのか、サミュエル叔父は物憂げに足を組み替えた。
うわー!ガッツリ未練があるんじゃないか。
まったく、この二人で仲良くにゃんにゃんしてればいいんだよ。
甘いムードを醸し出した二から僕達は目を逸らした。
お茶のおかわりをください!と従者に目で合図を送ると、一連の流れに存在感を消していた従者はハッとしてティーポットを取りかえた。
「サミュエル殿下。アダムさんはまだ体の硬直が解けていないようですが、お二人でゆっくりお話合いをなされてはどうでしょうか。従者を介せば話し合いもできるでしょう。私共はお庭の花を見に行きます」
中座の達人のトニー言葉に従者がはギョッとしつつも、こちらから中庭に出られます、と反応した。
僕は、二人が仲直りしたら青年アダムの身体拘束が解けるように、とアップウの呪文で精霊達に指示を出して中庭で咲き誇る薔薇を愛でに行った。




