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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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8 僕のおじさん

 第二王子として誕生した叔父は側室との子という立場ながら愛される環境で育ったのに、神学校に進学してから少しずつねじ曲がってヘンタイサディスト一歩手前になっている。


 叔父が今の愛人とうまくいっていてくれたなら、僕にかまわないでいてくれるのではないかな?


『アルのスケッチ画が出回っていないのにメリーアン妃に似ているという噂だけで愛人が嫉妬したという事は実際に第二王子がアルに興味を示しているからだろう。いずれ接触することになる』


 僕が公爵領に行った後で追いかけられると面倒だから、いっそ王都でけりをつけた方がいいのかな?


『最善の策はまだ見えないけれど、国王との謁見の場で出会い事を避けられないのなら、嫌われるような振る舞い……無理だな。服従させることにむきになりそうだ』


 ……嗜虐心をくすぐるんだね。

 つぶらな瞳でノンはえげつないことを考えている。


 まあ、避けられないなら出たとこ勝負で行くしかないね。


 シーナは自分が食べておいしかった料理をメイドに取り置きしておくように頼んでいた。




「シーナ様はなぜそんなにたくさんの料理を部屋にお持ち帰りしようとなさるのですか?」


 焼き肉ブースに移動すると、そんなに細いのにたくさん召し上がるのですね、とイザベラが驚いた。


「王宮のパーティーでトニーは料理にほとんど手を付けず知り合いに挨拶したら帰って来ると思うから、夜食を用意しておくのですよ」


「トニー様とお会いしたがっているご令嬢方が大勢いると伺っていましたのよ。会場でごゆっくりなされたらいいのに」


 残念がるイザベラの言葉に僕は頷いた。

 トニーは女性と交流を持ってもっと自分の人生を楽しむべきだ。


「アルフレッド様が落ち着くまでトニー様は女性を紹介されても困るだけですよ」

「トニー様はご結婚に興味がなさそうですよ」


 コンラッドとサイラスは核心をついている。

 未婚でも幸せに暮らせるとは思うが、最強の護衛に最強のまま是非とも童貞を卒業してほしいじゃないか。


 シーナとノンは曖昧に微笑んだ。




「もっとゆっくりしてきてよかったのに!」


 ガーデンパーティーがお開きになって僕のスイートルームに戻ると、ほどなくして帰ってきたトニーに僕は声をかけた。


「両親と兄弟に会えたのは嬉しかったのですが、実家で止めもらっている見合い話を親族と元上司が持ち出してくるので()()うの(てい)で会場を抜け出してきました」


 シーナの予想通りにほとんど何も食べずに帰ってきたトニーはガーデンパーティーの料理を喜んで頬張った。


「まあ、ラウンドール王国内の現在の貴族達の動向を知れたから、参加してよかったですよ。国王陛下の容体が快方に向かっていると王太子妃殿下から公表されたこともあり、現体制が続く、とみている貴族が多かったですね」


 どこまでも生真面目なトニーは戦勝パレードの妨害工作の派閥や第二王子の愛人についての情報収集をしていた。


「王太子殿下が想定より早く王都に戻られたことで、第二王子殿下を介して国政を牛耳ろうとしていた貴族達は王太子殿下がすでにそいつらの影響力の排除に動いているので、パーティー会場で肩身が狭そうでした」


 僕の伯父上は口先だけでなく本当に優秀なようだ。


「もう一人の叔父上ってどんな人柄なの?」


 僕の質問にトニーは返答に窮した。


「……権力に興味がなく、詩歌や絵画といった芸術を愛好している事で有名ですが、王太子殿下の代理として事務仕事をなさると優秀だったそうです。ただ、押しに弱く、そこに付け込んだ貴族達にいいようにされた一面があります」


「端的に言うと、第二王子は自分が政治にかかわるのは一時的なものだから口やかましい貴族を抑え込むより現在支障のない程度にそいつら主張を認める事で、溜まっていた仕事の効率化を図っていたみたいだね」


「それって、けっこう優秀じゃないか!」


「メリーアン妃がかかわらなければ皇太子殿下と仲が悪いわけではないので、兄の立場を脅かさない程度に優秀さを出すことのできる人物だね」


 嗜虐性のあるショタ傾向の趣向を排除した叔父の人物像を王位をつぐ意思のない王族としてシーナは真っ当な評価をした。


「トニーよりも若い独身の王子様なんだから、縁談が尽きなさそうな気がするよ」


 男色家の噂があっても王族に嫁ぎたい令嬢はいそうな気がする。

 初夜の寝室で、お前を愛すことはない、から始まる恋愛小説や漫画って女性が好きな題材だよね。


「……男性のパートナーがいることは公言なさっていませんから、希望を持つ令嬢方もいるかもしれません。ですが、第二王子殿下は側室の一族と絶縁宣言なさっていますから、後ろ盾が弱いですね」


「ご令嬢が嫁いで、そこそこの贅沢な暮らしができても、子どもの代まで王族でいられる保証がないのかぁ」


「ハンサムな方だからパーティーでは大勢の女性に取り囲まれていましたが、静かに微笑んでいらっしゃるだけで、どなたともダンスをしない事で有名です」


「自身の愛人が暴走したことに、まだ気づいていないようだったな」


 トニーについていた精霊達から報告を聞いたシーナは、どうしたものか、と首を傾げた。

 精霊達からの情報とトニーの情報を総合しても、叔父との面会をどう遣り過ごせばいいのかの結論は出なかった。




 そうこうしている間に国王陛下との謁見の日がやってきた。


 ラウンドール王国の王宮はびっくりするほど広かったが、僕とノンの歩く速度が大人並みだったので謁見の間まで辿り着くのにそれほど時間がかからなかった。


 本日、トニーとシーナとノンは僕の護衛ではなく正式に招待されてここにいた。


 孫との面会ではなく鎮魂の儀式により終戦処理が終わった事への功労をたたえて僕達は招待された形になっていた。


 だから、僕とノンは緑の一族であつらえた衣装に勲章をつけられるようにサッシュを身に着け、トニーは魔法剣士の装束で、シーナはベールを被った聖女姿だった。


 二足歩行で早歩きをするノンが一番目立っていた。


「メリーアン王女殿下第一子アルフレッド王子殿下、ならびに兎のノン殿、魔法剣士トニー殿、緑の一族族長孫娘元聖女シーナ殿のご入場です」


 謁見の扉が開くと僕達の紹介のアナウンスがあった。


 正面の玉座はまだ空席だったが左右に王太子夫妻と問題の叔父上が起立して僕達を迎え入れた。


 これは、僕達はかなりの厚遇で招待された形になっているのだろう。

 恐ろしく緊張する場面なのに問題の叔父の視線がノンに釘付けになっているので、少しばかり拍子抜けに感じた。


「国王陛下御夫妻のご入場です」


 僕達が入場した扉とは別の扉が開くと僕達は一斉に礼をした。


「此度の戦後の英雄たちよ。面を上げて楽にしてくだされ」

「私達の孫と、孫のお仲間たちですね。騎士達からあなた達が仲良く旅をされていた話を伺いました」


 祖父母は入室するなり無礼講を提案すると、伯父上は微笑み、伯母と叔父は目を丸くした。

 はなから無礼講でいこう、と祖父母に提案したのは叔父上に違いない。


 和やかの雰囲気で勲章の授与が終わると、祖父母が着席してたので僕達も着席した。


 温室で祖父母と対面した時にシャオ王国での母の様子やメラニーの話をしていたので、二人はもっぱら鎮魂の儀式について質問をした。


 一番詳しいのはシーナなので、その質問にはシーナが答えた。


「なるほど。本来は教会から多くの司祭を派遣してもらい鎮魂の儀式を執り行うところを、教会の護りの魔法陣を介する事で四方の砦の魔力を借用し、大規模な鎮魂の儀式を行う事ができたのか」


「はい。四方の砦、特に東の砦から借用した魔力が多かったのですが、これは、アルフレッド王子殿下の一件でシャオ王国が処罰した王族が奉納した魔力なので、ラウンドール王国側から補填する必要はありません。他の三方からは砦の守り人が認知しない程度の魔力量しか借用していないので、特に補填をする必要はないかと思われます」


 シャオ王国の王族の魔力って、托卵不倫野郎の伯父のことかな?

 父上もなかなかいい仕事をしたようだ。


「火山灰の被害者の数は膨大だったと聞いていますが、本当に四方の砦への補償は必要ないのでしょうか?」


 人格を考慮しなければ優秀な叔父の質問にシーナは淡々と答えた。


「はい。ないです。そもそも四方の砦はこの世界を安定させるためにある物なので、正しい魔力の使い方です。教皇猊下がお出ましになる儀式でも四方の砦の魔力を使用しますが、使用された魔力を教会は補填していません。今回はそれと同等の儀式をしただけです」


 教皇の執り行う儀式と同等な儀式、という言葉に居合わせた全員が息をのんだ。


「シーナ様は教皇猊下と同等な儀式を執り行えるのですか!?」


 驚く祖母にシーナは頷いた。


「はい。私は枢機卿時代の教皇猊下と数々の儀式を熟してきました。今回の鎮魂の儀式には緑の一族の族長をはじめとして、アルフレッド王子殿下、トニー殿とノン殿といった魔力の多い方が参加し、一族の見習いの少女の魔力が不安定だったので東の砦を頼っただけです」


「シーナ様は大聖女様だったのですね♡ 」


 伯母の言葉にシーナは笑ったのか少しベールを揺らした。


「私はいささか言動に問題があり、教会内での地位はそれほど高くありませんでした」

「問題のある言動?」


 祖父の問いに、枢機卿を三人ばかり投げ飛ばしました、と小声でシーナが答えた。


 耐えきれなくなった伯父上が噴き出すと祖父母も声を上げて笑った。


「元聖女のシーナ様への印象が真っ二つに分かれているのは、多面的なお人柄だからなのですね」


 似非占い師と緑の一族の美女と両方の噂を収集していた叔父の言葉にシーナは頷いた。


「普段は印象操作の魔法を使用しています。このお部屋は魔法制御の魔法陣が敷かれておりますから、ベールを外せば皆さんに素顔をお披露目できます」


 シーナがベールを外すと、ホウ、と叔父が溜息をついた。

 あれ?

 叔父の好みは似非占い師の男の方じゃないのかな?


 叔父について今日の対策を何も思いつかなかった僕達は、未遂に終わった愛人の愚行に厳しい処分を求めない事で愛人に叔父を引き留めてもらう消極的な案を進めていた。


 シーナは冗談半分に、男装して誘惑してみようか?と言っていたのに、叔父は素のシーナに見惚れているぞ!


 僕とノンが、どうなっているの?と顔を見合わせると、僕の掌に集まった精霊達が叔父から見たシーナの映像を見せてくれた。


 ベールを外したシーナは二十代半ばの美女だが、まっ平らな胸と女性にしてはしっかりとした肩幅に叔父は着目していた。

 叔父は枢機卿を三人連続で投げ飛ばしたシーナの姿を想像したようで、宙を舞う三人の枢機卿とドヤ顔のシーナの映像が脳内に送り付けられた。

 僕とノンはさんざん練習していた身体強化で優雅に姿勢を保つことができなくなり、揺れる肩を誤魔化すように俯いた。


 ヘンタイサディスト未満の叔父さんの想像力に完敗だよ。

 この叔父さん面白すぎです。 

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