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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第三章 男児はつらいよ ~僕とおじさん

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2 伯父さんと舅とお嫁さん

 王太子妃の実家はそこそこに大きな侯爵領で今回の長期戦争で兵糧や魔術具を騎士団に供給して利益を出していた。

 終戦の報告に騎士団が立ち寄っても不自然ではなかった。



「殿下!手合わせをお願いいたします!」


 打ち合わせ通り、僕とトニーが領城の脇の公爵領騎士団訓練所の片隅で木刀を取り出すと騎士達があえて名を呼ばず声をかけてきた。


 僕の設定は騎士志望の少年が個人で二人の護衛を雇い終戦締結後の危険のない戦争跡地を見学した、という態になっている。


 洗礼式前で名のるほどでもない、と侯爵への僕の紹介を伯父上は濁していた。

 まるで、孫差別の激しい舅に三男だと言わない事で領城での僕への扱いがぞんざいになっても王太子家への不敬ではない、と取り繕っているかのようだった。


 騎士達の訓練を見せてやりたい、とチラッと僕を見ながら伯父上が侯爵に要請したので、僕達はしれっと公爵領の騎士団の訓練所に潜り込んだのだ。


 隣国との戦争では後方支援しか担当していなかった公爵領騎士団員達は、前線で活躍した王家の騎士団員達と直接交わることがなかったようで近寄りがたかったのか、遠巻きに僕と戯れる騎士達を眺めていた。


 僕と騎士達が木刀で軽く手合わせしている間に、伯父上は侯爵が魔術具の素材を買い占めて市場価格を不当に釣り上げていた素材の保管倉庫を発見し、これは何だ!と騒いでいる。


 伯父上にとって戦後処理の最中に僕達と合流した事がイレギュラーで、侯爵領のがさ入れが当初から計画されていたことなのだろう。伯父上のそばには部隊長たちだけでなく文官らしき人物もいた。


 ラウンドール王国の僕の伯父さんは、シゴデキな男だ。


 木刀を振る僕の真似して二本足で立ち前足を振っていたノンに木刀が飛び出るアンクレットの魔術具を作ったシーナもなかなかシゴデキな女だ。


 トニーも騎士達も面白がって木刀を振り回すノンに稽古をつけている。

 シーナも張り切ったので伯父上と侯爵が見に来た時には、ノンは前足二本で二本の木刀を操る二刀流になっていた。


「二刀流で戦う兎なぞ、初めて見た!」


 一本でも木刀を持つ兎はいないと思うが、侯爵はあんぐりと口を開けて騎士達に果敢に向かっているノンを見た。

 しまった!

 僕の身体強化を見せつけなくてはいけなかったのに、これでは主役がノンになってしまっている。

 

 僕は木刀を構え直すとトニーに向って走った。


 身長差のある僕は跳躍力でトニーの上を取るとトニーはハエでも叩くかのように僕の太刀筋を予測して打ち返し、それでも、僕はトニーの木刀からの衝撃を利用して素早く着地し即座に小手を狙った。


 小物は小手でいいんだよ。とにかく当てたい!


 そんな小賢しい手段はトニーに見抜かれており、あっさり払いのけられると素早い一撃が飛んで来る。僕が回転して受け流すと、騎士達から拍手が湧いた。


 トニーに一撃当てるなんて到底無理で、一撃を食らわないだけで拍手が湧くレベルなのだろう。


 精霊達の補助なしでの身体強化の訓練だから、今は姿を見せない精霊達が僕とトニーの訓練をドーム状に年囲んで見物している気配がする。


 僕だって一発くらい当てたい気持ちが昂るが、実力差が激しく受け流すばかりで不甲斐ない。

 鍛え抜かれたトニーの筋肉からは次の一手を予測するだけの魔力の流れの偏りが見えない。


 これほど、実力の差が明白でも少年漫画の主人公ならこの状況から何かを学んで新技を開発するんだろうな……。


 僕の体力が尽きるまで打ち込んで来るトニーの木刀をかわしながら、圧倒的な力量差をどうにかするための手段を考えていた。


 あった!

 これだ!

 トニーの強打をまともに受け流した僕は吹き飛ばされた空中で木刀を握り直すと、木刀に魔力を込めて如意棒をイメージした。

 トニーの斜め上で構え直した僕の気配に気づいたトニーが僕の一撃より早く木刀を振り上げたが、ぶつかった木刀から伸びた僕の魔力の塊が棒高跳びの棒のようにしなり、トニーの背中に届いた!


「やったー!やったー!背中に届いた!」


 着地した僕が万歳しながら飛び上がると、笑顔のトニーが、参りました、と負けを認めた。


 木刀から伸びた僕の魔力は目に見えないので、一見、当たっていないのに僕がはしゃいだからトニーが降参したようにみえるが、僕の魔力の気配を察知した一部の騎士達から、あれは何なんだ!と声が上がった。


「あれは、活火山のトニーではないのか!御子殿はなかなかの才覚がおありのようですね」

「いえいえ、あの子はまだまだです」


 感心する侯爵に伯父上は謙遜するかのように返答した。

 うんうん。伯父上は、三男坊は身体強化が得意ではない、と言っていたもんね。


 伯父上は妻の実家を奈落の底に落とすつもりはないようで手心を加えたのか、二人は表面上は和やかに会話をしているが、侯爵の使用人達の顔色は蒼白だった。





 僕は侯爵からの晩餐の招待を断り、騎士達の宿舎の片隅に魔術具の部屋を設置し、その横でトニーとシーナとノンと作り置きの夕食を取った。


 ハンバーガーと野菜スープだ。肉が続くが体を動かしたからモリモリ食べられる。


「ブライアン殿下は自身の後ろ盾の一角でもある侯爵に不正を大至急是正するよう強く求めるだけで公に処分するつもりはないようね。まあ、侯爵のこれからの行動の如何によって態度を変えるのでしょう」


 シーナの説明に僕の掌に集まっている精霊達が、正解!と二回点滅した。


「私達の口留めに貴重な素材をたくさん提供してもらったから、山分けしようね!」


 ウキウキ声のシーナに、トニーは小さく首を横に振った。


「そんな物もらわなくても、口外しないぞ」

「もらっておいた方が先方が安心するんだから、もらっておこうよ。あっ!そっか。アルはまだ自分で加工できないから、私が加工してあげるね」


 そんな問題じゃない、とトニーが言いかけたが、ノンの装備を強化する、とシーナが言うと、トニーもノンも頷いた。


 日が暮れてしまう前に訓練場の片隅に浴槽を作り、癒しの湯の温泉を注いで入ると、トニーとの訓練でできた掌のマメが綺麗に直った。


 シーナは汲んできた温泉水の効能が温泉地から離れるとどれだけ効能が薄れるか、飲料用の温泉水の味が落ちるかの検証に夢中になった。


 温泉地で僕は怪我一つなかったから効能の差は実感できなかったが、飲料用の温泉の味はセンブリ茶のように苦くなっていた。

 きっと、王都に着くころには人間が飲めない味になっているだろう。


 温泉の効果を知っている騎士達が交代でもらい湯に来た。

 伯父上の三男に見えるように偽装しているので、騎士達は、殿下!殿下!と気さくに声をかけてくれる。


 トニーの知り合いの騎士と相撲のようなレスリングの相手をしてもらったり、ノンの魔術具の木刀を見せびらかしたりして、僕はこの状況を楽しんだ。


 翌朝の出立時には侯爵家の使用人たちの顔色が健康な色になっていたので、暴れん坊王太子の裁きは上手い塩梅のお沙汰だったようだ。




 王都に入る直前の町から僕は伯父上の馬車に乗ることにして侯爵領を出ると馬車を降りた。


 仲良くなった騎士も多くなったのでお喋りも弾み、歩くことが楽しかった。

 僕に声をかける騎士達は貴族出身者が多かったので、言葉遣いや立ち居振る舞いの及ばない箇所を訓練の助言の延長上のようにごく自然に指摘してもらえた。


 お陰で僕のお行儀の問題はトニーから及第点をもらえた。



「王都に帰還したらアルは騎士団の詰所で馬車を乗り換え、私の離宮へ向かうことになる。私は王宮への報告があるので一緒に行けないが、妻と子ども達が温かく迎え入れてくれる手筈になっている」


「はい。お世話になります」


 当面のところ伯父上の離宮に滞在し、王宮で祖父母に面会してから、母が侯爵になる予定だった公爵領に向かうことになっている。


 伯父上が舅を嫌って横っ腹をぶん殴った直後に、王太子妃にお世話になるのはちょっと緊張する。

 夫が舅を嫌いでも王太子妃が実家を嫌っているとは限らない。


「まあ、そんな硬くなる必要はないよ。うちの妻は気さくな人柄でそこに惚れて嫁になってもらったんだ」


 はい、と笑みを張り付けて返答した。

 

 王太子妃がどんな人柄であろうと数日間お世話にならなければいけないのだから、成り行きに任せるしかない。





「キャー♡ メリーアン様そっくりの可愛らしい王子様!まあ、まあ、まあ、どうしましょう♡ 幸せ過ぎて涙が出そうです!」


 王太子離宮で馬車を降りた僕を玄関で迎えた王太子妃は挨拶も礼儀作法もそっちのけで、僕を見るなり悲鳴を上げた。


『王太子妃殿下はメリーアン様にお近づきになりたいがために、王太子殿下のお茶会に参加した、筋金入りの親衛隊隊員です』


 僕の右後ろに立つトニーが風魔法で僕の耳元に囁き声を届けた。


 母上には親衛隊があったのか……。


「王太子離宮でアルフレッド王子をお迎えできる事を神々に感謝いたします!」


 王太子妃が両掌を胸の前で握りしめて天を仰いだ。

 

 僕の左後ろに立っているシーナが腹筋に身体強化をかけている。


 あれ?

 口に出して言う言葉は図らずとも祝詞になる事がある、ってシーナは言っていなかったかな?

 精霊達を大量に引きつれた僕達の前で僕との出会いを神々に感謝したら……。


 視線を正面に戻した王太子妃が僕達を見ると目を丸くした。


 僕の掌に集まっている精霊達が脳内に映像を送ってきた。


 王太子妃が天を仰ぐ前に見た僕の背後のシーナは似非占い師の容貌だったのに、再び僕を見た時にはシーナは緑の一族の女の子たちを虜にしている素の美貌になっていたのだ。


 ハァと息を吐いた王太子妃の瞳の中にハートの輝きがあるかのように熱の籠った視線で王太子妃はうっとりとシーナを見ている。


 百合属性の王太子妃ですか!

 夫婦そろって緑の一族の女性に一目惚れですか!


 コホン、とトニーが小さく咳払いをすると、王太子妃は正気に戻った。


「あら、やだ、いけませんね。私としたことが失礼いたしました。王太子離宮へようこそお越しくださいました。アルフレッド王子。私、王太子妃のブリジットと申します」


 優雅に一礼した王太子妃ブリジットに僕も頑張ってできるだけ優雅に挨拶をした。


「このように温かく出迎えていただきまして嬉しく存じます。メリーアンの長子、アルフレッドです。家族にはアルフィーと呼ばれていますが、この旅ではアルと呼んでもらっていました。どうか、ブリジット王太子妃殿下も僕をアルフィーかアルとお呼びください」


 冷静さを取り戻していた王太子妃ブリジットは僕の言葉に再び息をのむと嬉しそうに目を輝かせて頷いた。


 推しの子を愛称で呼ぶ関係が嬉しかったようだ。

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