28 最強の護衛の完全復活!
僕とニーナを冷やかすかのように精霊達が僕達をドーナッツ型に取り囲んでピカピカ光っている。
これほどまでに精霊達の密度が濃いのは客席から精霊達が降りてきているに違いない。
「攻守交代!」
シーナの掛け声で僕達はスタート地点に戻った。
競技場になだれ込んでいた精霊達は客席に戻っていった。
いい勝負をしなければ観客席の精霊達は味方にならないだろう。
「試合開始!」
僕は即座に身体強化でジャンプした。どんな魔法攻撃が来るにしてもトニーを信じて競技場全体を見渡せるように高く飛び上がった。
僕が立っていた足場から僕に向かって蔦のような植物が地面から伸びてきたがトニーの炎が焼き尽くした。
なるほどね。僕の魔力を目印にして蔦が芽吹く魔法のようだ。
新たに生えてくる蔦を警戒した僕はアップウの呪文で着地予定地点に隠れている蔦の種を吹き飛ばすべく風魔法を放った。
風を吹き付けた地面から蔦が生えてきた。
おっと、予想以上に発芽速度が速い。だが、すぐにトニーが燃やす。
あれ?魔力循環で完全に魔力漏れを防げないからカカシの中級精霊に利用されたのか!
僕の魔力で精霊魔法を行使したら僕を慕う精霊達ではカカシの中級精霊にかなわないから蔦に僕の魔力を奪われてしまったのか。
落下する僕は足場にする踏み台の土魔法をトニーの魔力に頼ることにして、アップウの呪文で精霊達に命じた。
燃え上がる地面の上に集まった精霊達が作った踏み台に踏み込み、再び高くジャンプした。
カカシの中級精霊がトニーの魔力も奪ったのか踏み台からも蔦が生え、高く飛び上がった僕を追いかけて伸びるが、一気に炎に包まれた。
トニーの魔力を奪っている蔦は炎を栄養にしているように太く成長しながら僕に迫ってくる。
トニーの一物を守るために入れ墨の魔法陣の周囲にあえて作った魔力漏れを中級精霊に利用されてしまった。
これがカカシの中級精霊の実力か!
逃げ役の時の炎は攻撃用ではなく防御用だからこの炎はマジで燃える炎だ。
足元から迫りくる熱風を頬に感じる。
マズいぞ!
いや、マズくない。鉢巻の魔法陣が反応したのか頬に感じる熱が消えた。
いやいや、マズい。熱さを感じなくても炎に包まれた蔦は僕に迫ってきている現状は変わらない。このままなら蔦に捕まる!
蔦に拘束された後で僕を捕まえる算段なのかまだニーナは開始地点から動いていない。ニーナは僕を見上げて悲鳴を上げた。
カカシの鉢巻の魔法陣を破壊するほどの炎だったらシーナが介入するから僕は大丈夫だよ。
いや、鉢巻の魔法陣の防御で火傷こそしないだろうが、燃える蔦に縛られたらきっとビジュアルがえぐいだろうな。
開始早々捕まるなんて絶対に嫌だ。
アップウの呪文で水の刀を作りだし、蔦をずたずたに切り裂いた。
ヤバイ!
切り刻まれた蔦が水の刀の魔力を吸って成長している!切り刻んだ数だけ蔦が増えちゃったよ!
いや、まだイケる!
増えた蔦をトニーが燃やすと蔦は成長するが、焼き尽くせば灰になる。
地面にどれほど蔦の種があるかわからないから、僕はまだ跳んでいる方がいい。アップウの呪文でノンの魔力を借用し地面に強風を吹き付けて再び上昇した。
カカシの中級精霊は次はノンの魔力を奪うだろう。
こんな逃げ方なら僕達の方が先に魔力切れになってしまう。
……トニーを信じろ!
脳内にノンの言葉が聞こえた。
ああ、もちろん信じている。
飛び上がった放物線の頂点から落下しながらトニーを見ると、同じタイミングで顔を上げたトニーと目が合った。
僕とトニーは頷きあった。
トニーの魔法が僕を傷つけることはない。
それだったらいっそのこと、飛び上がって逃げるのではなく、ばらまかれている蔦の種を全て燃やし尽くせばいい!
落下しながら僕はアップウの呪文を唱えた。
競技場のいたるところから火の手が上がり、炎の魔力を吸って燃えながら蔦は成長した。
またしても炎に囲まれたニーナが、ギャーと悲鳴を上げてジャンプした。
ニーナの鉢巻の魔法陣が光っているから熱風を感じないはずだ。それに、ニーナのいる場所だけ蔦が生えていない。ニーナはその場でじっとしているのが正解なのに、ピョンピョンその場で跳びはねている。
そうだった。僕は体表面温度管理の魔法陣が施された服を着ているから熱さを感じないだけで、ニーナは火傷をしない程度に熱を感じているんだろう。
怪我をしないとわかっていても炎に取り囲まれる恐怖心があるのは当然だ。
でも、トニーの炎は僕を傷つけない。だから、火の粉がかかっても灰になるまで蔦が燃え尽きたところに着地すれば大丈夫だ。
蔦がくすぶっている場所に降り立つと、僕の周囲の残り火が消えた。
灰の上で精霊達が誇らしげに二回光った。
カカシの中級精霊との魔力の取り合いに競り勝ったのだろう。
競技場のいたるところで精霊達が成長する蔦を燃やし尽くそうと輝いている。地上に降りた僕めがけて燃える蔦が新芽を伸ばそうとするが、炎が蔦の生長点を灰にすべく蔦の成長的に光が集まる。
トニーが細かいところまで精霊魔法を制御できているので、迫りくる燃える蔦は僕のところまで届かなかった。
僕はトニーと精霊達を信じる!
僕は両手を広げて観客席にいる精霊達に呼びかけた。
「普通の精霊達だって、中級精霊に勝てる!蔦の生長点を焼き尽くせば、魔力を盗んで増殖する蔦を根絶できるんだ!みんなの力を貸してくれ!アップウ!」
観客席にいた精霊達が一斉に競技場になだれ込んで来ると、方々で閃光が上がった。
いやいやいや、火力高すぎ!
精霊達は確実に蔦の生長点を焼き尽くす気満々だな。
大きな炎を上げた蔦が競技場の中央に移動している。トニーは精霊達の数の力を最大限にすべく全ての蔦を中央に集める策に出たようだ。
競技場内に熱風が吹き付けているが、僕の手前で柔らかくほんのり温かい風に変わり、僕の頬を撫でるように吹き抜ける。
ああ、この風の中にトニーの魔力がある。
この温かさは離宮を脱出した晩に寝袋をトニーの背中に寄せてそっと背中を触れた時に感じた温もりだ。
ありがとう、トニー。
この温もりでどんな時も守ってくれてありがとう。
競技場の中央は集まった蔦が巨大な松明のように燃えている。
ありがとう、精霊達!
トニーのトニーを握りつぶさないでトニーの最強魔法を復活させてくれて、ありがとう。
燃え上がる蔦の周りをグルグルと精霊達が点滅しながら回っている。
……チュキュウセイレイニマケナイ!
……マケナイ マケナイ マケナイ マケナイ マケナイ……
……カナラズカツ カツ カツ カツ カツ カツ カツ……
無数の精霊達が、今ならカカシの中級精霊の勝てる、とトニーの最強魔法に勝機を感じて協力してくれた。
最強の護衛の完全復活だ!
ポカンと口を開けたニーナは踊るように弾みながら集まった蔦の周りをまわる精霊達を見入っている。
おいおい。鬼ごっこの途中だよ。
僕は微動だにせずに蔦が燃え尽きるイメージを保ち続けている。このままニーナが呆けているならじっとしていればいい……。
僕の視線を感じたのかニーナと目が合った。
万歳のポーズのまま僕が走り出すと、ニーナは自分が鬼役だったことを思い出し、僕を追いかけた。
精霊達まで僕を追いかけ始め、追い越しそうになると僕の両手に集まってギュウギュウに圧縮していく。なぜか僕は球体の閃光を持ち上げて走っている状態になった。
なんだかすごく楽しい!
異世界に転生して死にかけたけれど、元〇玉みたいな精霊達を持ち上げて美少女と鬼ごっこをしているんだよ!
でも、楽しい時間も終わりが来る。
このまま身体強化で走り続ければニーナより魔力の多い僕は逃げ切れるだろう。
こんなにたくさんの精霊達が協力してくれたんだから、圧倒的勝利で勝ちたいよね!
精霊達が二回点滅すると、ニーナがキャーと叫んだ。
必殺技みたいなのが来ると思って怖がっているのかな?
圧縮した精霊達を一気に開放して競技場内の魔法作用を止めてしまえば、カカシの中級精霊はもう何もできないは……。
「「まいりました!降参です!」」
カカシとニーナの大きな声が競技場内に響くと、巨大な松明のように燃えていた蔦が消失した。
「ありがとう!精霊達!」
僕の両手の間に集まっていた精霊達が緩やかに解けるように広がると観客席に戻っていった。
「……ああ、ビックリした。死ぬかと思った」
カカシはヘナヘナトとその場にしゃがみ込んだ。
「死人が出るような大技を出す気じゃなかったよ」
「この場の全ての魔法が停止してしまうと、二百年以上生きている儂はどうなる事やら……」
ああ、そうか。カカシの不老不死が止まったら本当に死んじゃいかねなかったんだ!
「アルフレッドとトニーの完全勝利!」
上級精霊様の言葉に精霊たちが一斉に点滅した。
トニーの股間が点滅してるよ。いい加減そこにいるの止めなさい!
「アル。ありがとう。体が軽くなった」
精霊達が散らばって圧が抜けたトニーの言葉に僕達は笑ったが、トニーの事情を知らないニーナは笑う僕達を見て首を傾げた。
「アルフレッド。試合の流れであったとはいえ、あれだけ多くの精霊達を従えたことを精霊神がお喜びになっている」
上級精霊様の言葉に精霊達が一斉に二回点滅した。
それぞれに仕える神々がいても精霊神は精霊達にとって特別な存在なのだろう。
「他の神々も面白い試合だったとお喜びだ。皆に褒美として生命の水を賜った」
上級精霊様の手に大きな水瓶が現れた。
生命の水?と僕達が首を傾げたが、カカシとシーナは顎を引いて目を逸らした。
「もしかして、緑の一族の族長の水でしょうか?」
「ああ、それに似た水だ」
鬼ごっこの前に上級精霊様は、人間が飲めない味の水、と言っていたのにもかかわらず、笑顔で水瓶を僕達に差し出している!
この流れなら今飲まなければいけないよね。上級精霊様はサイコパ……。
「この場から持ち帰れば人間が飲めない味の水になるけれど、この場で飲めば万能回復薬だ」
神々のご褒美がひどい味なわけないよね。人間が欲張って持ち帰ると酷い味になるのか。
「歴代のカカシが強欲だったんじゃないよ。一族の水は精霊達の避難所の水じゃ」
「この水は聖水の源流の水ですよね」
言い訳じみたカカシに言葉に被せて元聖女らしくシーナが推測した。
「そうだ。水の神の源泉に命の神が息吹を吹き込まれた水だ」
ありがたく頂戴いたします、と僕達は頭を下げた。
一人ずつコップ一杯命の水を受取った。ノンは小皿一杯だ。
その場でゴクゴクと飲むと無味無臭の普通の水の味だった。
効能はすさまじく、体が凄く軽くなり体中に魔力が巡り、肌はツルツル、爪までツヤツヤになった!
「強靭な肉体になったので強めの魔力圧縮に耐えられるようになった。日々、魔力を圧縮し魔力量を増やしなさい」
ははぁ、と僕達は畏まった。
そうして増やした魔力で神々に魔力奉納をしなくてはいけないんだね、と考えていると、僕達はカミルさんの自宅の食堂にいた。




