27 保護者同然参加版鬼ごっこ
僕達は絶対に僕とニーナが怪我をしないルールを決めた。
僕とニーナにはカカシ特製の魔法攻撃無効の魔法陣が施された鉢巻を頭に巻く。
逃げ役の保護者同然は攻撃魔法で鬼役を退ける事ができるが、鬼役の鉢巻の防御魔法を破壊してはいけない。
このルールを逸脱するような魔法攻撃が放たれると審判役のシーナが介入して僕とニーナの怪我を防ぐことになった。
シーナの介入があるとマイナスポイントになる。勝敗は攻守を交代して鬼役に捕まるまでの時間から、マイナスポイントを引いて決定する。
「二組とも練習が必要だろう。それぞれ別々の亜空間に転移させるから、思う存分練習するとい……」
上級精霊様の言葉が終わる前に僕とトニーは真っ白な亜空間に転移していた。
転移の気配を察したノンが僕の腕に飛び込んだので、ノンも亜空間にいた。
僕とトニーとノンは顔を見合わせた。
……手伝うよ。
えっ!ノンが魔法の練習をするの?
ノンが、つぶらな瞳で、おバカだね、と言っている。
「そうか、ノンが相手役になってくれるのか!」
トニーが先にノンの意図を察した。
鬼ごっこは誰か逃げてくれないと捕まえられないし、追いかけてくれないと掴まらない。
はい、おバカでした。
そういう事ならシーナはニーナとカカシの方に行ったのだろう。
ノンと鬼役と逃げ役を交代しながらカカシの中級精霊の魔法を予想しながら攻守の魔法の練習をした。
アップウの呪文とトニーの魔法陣の魔法が滑らかに発揮できるようになるまで練習した頃合いで、そろそろ良いか、と上級精霊様の声が脳内に響いた。
僕達が、はい、答える前に円形競技場の元々いた場所に転移していた。
上級精霊様がせっかちなのではなく、きっと神々が楽しみにしているからだろう。
カカシとニーナもいい練習ができたようで自信ありげに見える。
「私はカカシ様とニーナの練習に付き合ったんだけど、アル達にはノンが付き合ったのね」
ニーナの言葉にノンは得意気な顔をして頷いた。
身体強化で追いかけてくるノンはトニーの攻撃魔法にひるむことなく練習に付き合ってくれたのだ。
「攻守を決めるのはじゃんけんでいいかしら。勝った方が鬼役ね」
僕とニーナは頷いた。
前回の勝負を踏まえると、先に鬼役をやって後で逃げる方が、どれだけ逃げ切れるかで勝敗が決まるから先に鬼役をしたい、と僕とトニーは考えていた。
じゃんけんをするために僕とニーナが右手を出すと、すかさず精霊達が僕達の右手に集まり勝負に介入する気満々にギラギラと輝いた。
立会人の上級精霊様が苦笑した。
「この子達は神々の僕たる精霊達だよ。神々からの応援だと思って気にせずそのまま勝負しなさい」
精霊達が使える神々のご希望にこたえるために精霊達は僕達に右手の筋肉に干渉しようとしているのだろう。
応援はありがたいが干渉は嫌だな。僕は両掌を胸の前で広げてニーナに見せた。
「ニーナ。魔力を指先まで循環させてみて。……そう。そのまま、魔力をグルグル回す事だけ意識して、じゃんけんポン!」
ニーナの細かい魔力漏れで多少の干渉があることは気にせず、少しでも干渉する精霊達を減らした段階で掛け声をかけて、精霊達の出鼻をくじいた。
僕の勢いに負けたニーナは掛け声と同時にチョキを出し、掌を広げたままだった僕はパー。負けが確定して鬼役は僕に決まった。
なんかズルくないか、とカカシが呟いたが、僕とトニーは、ズルくない、と同時に答えた。
「はいはい。両者とも位置について!」
シーナの声に僕達は指定された位置まで下がった。
前回同様に秒殺できれば一番いいが、カカシの側に浮いているカカシの中級精霊がそう簡単にいかせてくれないだろう。
シーナはノンが上級精霊様の足元まで下がったのを確認すると頷いた。
「それでは、保護者同然参加版鬼ごっこ、開始!」
シーナの言葉が終わった瞬間、駆け出す態勢を取っていた僕に疾風が襲い掛かったが、最初の攻撃魔法は風魔法だとトニーが推測していたので、裏をかいた僕は素早く態勢を低くするとニーナに向かって頭からスライディングした。
身体強化で走り出していたニーナの足に伸ばした僕の手が届きそうになるとニーナはジャンプでかわした。
よし!作戦通りだ!
高く飛び上がったニーナの周囲に集まった精霊達が氷魔法を発動させ地面から氷の柱が立ち上がりニーナを包み込んだ。
僕はジャンプして氷柱の中の球体の空間に閉じ込められたニーナを捕まえに行くと、ニーナの周りの球体の氷が爆発し、爆風で僕は吹き飛ばされ、ニーナはそのまま落下した。
僕とニーナは空中で体勢を整えて安全に着地した。
さすが!カカシの中級精霊!簡単には勝たせてくれない。
円形競技場の客席の精霊達はまるで拍手をするようにパチパチと点滅した。
軽い手合わせだった初手の攻防は神々に好評のようだ。
そう、まだまだ序の口。勝負は円形競技場にいる精霊達をどこまで従わせることができるかで決まるのだ。
振り返ってトニーを見るとトニーの股間が白抜きに光っていた。
トニーを慕っている精霊達はそこがお気に入りだから仕方がない。
だが、今回はご新規さんに手伝ってもらうので股間だけに精霊達が集中しないように分散するようにしたのだ。
この練習に最も時間を費やした。
トニーの体から漏れ出る魔力の場所と魔力量の匙加減が難しかった。
股間を圧縮されないように別な箇所で魔力を流してもトニーを慕う精霊達はズレてくれないので、早々に諦めた。
ならば、他の精霊達に股間に行かせないように、精霊達が仕える神々の魔法陣の入れ墨の周りに魔力漏れを作ることにしたのだ。
魔法陣の魔法は使用方法が限定されていて柔軟な攻撃ができない。
精霊魔法と併用するために魔法陣に影響を受けていない魔力を精霊達が使い、トニーの魔法を最強にする作戦だ。
氷魔法がそもそも得意でないトニーの魔法では大きな氷柱を作れても、ニーナを窒息させてしまっただろう。
ニーナを閉じ込めた氷柱に内側に球体の空間があったのは精霊魔法の細かさによって実現した。
老人の集落で水が湧き出る噴水を復活させた僕を守るトニーは水の神の眷属神の氷の神に仕える精霊達が応援してくれるだろうと踏んで、初手の攻撃を氷魔法にした。
練習以上に大きな氷柱が出来上がった。
カカシの中級精霊の魔法で氷柱は粉砕されてしまったが、神々に喜ばれる戦い方だったという事は、これから僕達に味方してくれる精霊達が増えるだろう。
上手くいっている、とトニーは僕に向かって頷いた。
僕達が初手に満足しているとカカシの中級精霊が仕掛けてきた。
僕の周囲に竜巻が起こり風の壁が出来上がった。
しめしめ。これも想定内だ!
僕がジャンプすると猛烈な上昇気流が後押しとなり、僕は竜巻の目から飛び出した。円形競技場の上空で体勢を整えた僕はアップウの呪文を連呼した。
競技場の真ん中で僕を見上げているニーナの周囲にドーム型に炎が広がった。
次の手は、逃げ役が逃げられないような状況にすれば鬼役が捕まえやすい、という作戦だ。
炎のドームは前髪も焦がさず絶対に怪我をしない仕様になっているが、熱は本物そのままの演習用の魔法だ。身を焼かれる熱さを体感するド根性がなければ炎を潜り抜けられない鬼畜な仕様だ。
円形競技場の観客席の精霊達は大盛り上がりで、激しい光の点滅しが起こっている。
よかった。鬼畜仕様だけどウケたみたいだ。
放物線の頂点から落下する僕を水の塊がボール状に包んだ。
水の塊はチューブスライダーのように形を変え、ニーナを包む炎のドームまで伸びた。
僕はただ滑り降りるだけでニーナのそばまで行くことができたが、炎の内側に突入すると土壁ににぶつかりドンと跳ね返された。
そんなことは想定済みだったので、立ち上がった僕は土壁に人差し指を向けた。
「アップウ!」
僕の指先から水鉄砲のように水が飛び出した。
カカシの中級精霊の作り出した土壁を穿つ水は、土壁の向こうに抜けると霧になるようにイメージした。
炎のドームをすり抜けて多くの精霊達が土壁の周囲に集まった。
よし!いけるぞ!
ピキンと大きな音を立てて僕の水鉄砲の当たる場所を起点に土壁にひびが入った。
ドーム型の土壁がばらばらに崩れ落ち、ニーナを包み込んでいた霧が演歌歌手のステージのスモークの演出のように円形競技場に広がった。
「やあ、お姫様。僕と一緒に炎の中から抜け出しませんか?」
逃げ場のないニーナに手を差し出すと、ニーナは瞳を潤ませながら首を横に振った。
「仕方がないな、捕まえた!」
王子様らしく優雅に差し出した手をパッと伸ばしてニーナの腕を握った。
「勝負あり!」
シーナの声と同時に僕とニーナの周りの炎が消えた。
「うわー!やられたー!」
悔しそうな声を上げたカカシの足元に目を回したのかフラフラしている精霊がいた。
「負けてしまったのはわかるんですが、どうしてカカシ様の中級精霊様がフラフラしているのですか?」
ニーナがカカシに尋ねると、カカシは本当に悔しそうに、あーあ、と言った。
「次の手はトニーの得意な炎の魔法で来る、と読んでいた通りの展開だったから、ニーナは土壁の中でじっとしていれば時間が稼げる作戦じゃった。負けたのはニーナのせいじゃない。土壁の崩壊が儂ら想定以上に早かったんじゃ」
開拓に長けている緑の一族の族長なら土魔法で要塞を作るだろう、と僕達もカカシの作戦を読んでいた。
「アルが精霊魔法を使うタイミングを読み違えた。アルは逃げ役の時のために魔力を節約するはずだから鬼役での魔法はトニーに任せるだろうと踏んでいたのに、糸のように細い水魔法の噴射で儂の中級精霊の作った土壁を崩壊させたんじゃ」
「水の粒で壊したんじゃなかったのですね」
いつの間にか僕の手を両手で握っていたニーナは水の粒で土壁を壊したと勘違いしていたようだ。
「土壁にひびが入ると第二の土壁を作ろうとしていた儂の中級精霊をトニーが風魔法でクルクルと回してしまったんじゃよ」
ニーナとカカシの中級精霊が分断されたら別々に攻撃すると僕とトニーは事前に決めていた。
カカシとカカシの中級精霊が次の防御魔法に気を取られている間にトニーがカカシの中級精霊に攻撃をしているから、僕は余裕をもってニーナに声をかける事ができたのだ。
「あー、してやられたわ。でも、次は儂らが仕掛ける番じゃ!」
気を取り直したカカシの言葉に平衡感覚を取り戻したのか真っすぐに飛べるようになったカカシの中級精霊は頷いた。
コホンとシーナが咳払いをした。
「あのね。いつまで手を繋いでいるの」
おお!女の子とこんなに長く手を握るなんて初めてだ!
前世では体育のフォークダンスの授業は欠席したなぁ、と考えていると、赤面したニーナがパッと両手を離した。
土壁に一人籠っていて寂しかったんだろう……いや、こういう発想をしてしまうからニーナの乙女心を理解できないんだよね。




