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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第二章 おっぱいがいっぱい?

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19 身体強化で鬼ごっこ

「アルフレッド。着替えたら、腹ごなしに体を動かしてみないかい?みんなで気持ちよく食事をとるために遺恨を残さないようにしたいんじゃが」


 カカシは僕に話しかけながらニーナを見た。


「アルフレッド殿下、カカシ様!申し訳ありません」


 ニーナの母が僕とカカシの前に来て頭を下げた。


「リラ、精霊達に好かれ過ぎているニーナは育てにくい子なのは確かじゃが、子育てはどんな子を何人育てても難しいんじゃ。まだ幼いニーナをみんなで見守ってやろう」


 カカシの言葉に僕は頷いた。


 村中を歩いてみて気が付いた。花冠を被っている女の子はニーナしかいなかった。

 緑の一族だからといってみんながみんな精霊達の干渉を受けるわけではなさそうだ。


 精霊の言葉を時折聞くニーナは、生まれつき精霊言語を取得していたシーナを尊敬しているが、もしかしたら精霊たちと交わらない一族の人達を軽く見てしまって、両親は手を焼いているのだろう。


「まだ幼いと言っても、秋になればニーナも魔法学校に入学するのよ。その、鼻っ柱ばっきり折っておかないと、寮生活で問題を起こしそうね」


 シーナの言葉に、日頃、ニーナに手を焼いているアンナが頷いた。


「体を動かすとは、どういった事をするのでしょうか?」


 僕より先にトニーがカカシに確認を取った。


「精霊達の介入なしで鬼ごっこでもしたらよかろう。ニーナは身体強化に自信があるようだが、アルフレッドの身体強化の方が非常によくできている。いい学びになるじゃろう」


 カカシの提案にトニーとノンは、それなら大丈夫、と頷いた。

 身体強化なら僕もちょっと自信がある。


 ニーナも自信満々な表情で僕を見て頷いた。




「本当にごめんなさい。ニーナがあそこまでおバカな子だとは気付いていませんでした」


 僕達を客室に案内してくれたアンナはニーナが残る食堂を出るなり頭を下げた。


「年の離れた契約の妹は、たいがい大人が手を焼く子を押し付けられるものだけど、あの子は凄いわね」


 シーナはアンナに同情するように言った。


「お母様が冒険者になった、と村中で話題になった頃から様子がおかしくなっていたんだけど、こんな暴走をするとは思ってもいませんでした」


「どんなふうに変わったの?」


「ニーナは精霊達と戯れながら薬草畑の手入れを手伝ってくれる気立ての良い子だったのに、枯れ枝を魔法の杖に見立てて振り回して風魔法で昆虫を追い払うようなことをし出して、カカシ様に相談していたんです」


 シーナが冒険者になった、と聞いて自分も冒険者に憧れたんだろうか?

 

「実際に風魔法を使わないごっこ遊びなら、子どもらしい、と笑えるのだが、洗礼式前に精霊魔法に慣れると魔法学校に馴染めなくなるだろうなぁ」


 トニーの感想にシーナとアンナは頷いた。


「精霊使い狩りが起こる事は、カカシがほぼ確定事項の未来だ、と予言している。ニーナを唆している精霊達は、緑の一族から精霊達の救世主を輩出したいのだろう」


 精霊達の思惑がニーナの思いとは別にあるのか……。


「あれ?僕って、未来に生まれる精霊達の救世主の一助になるだけで、僕が精霊達の救世主ってわけじゃないのに絡まれたのか!」


 シーナとトニーとノンは頷いたが、精霊達の救世主?とアンナは首を傾げた。


「そうね。ああ、そっちがアルとトニーの部屋でこっちが私の部屋だ。まあ、アルの事情は着替えている間にアンナに説明しておくよ」


 二つの客室の扉の間で僕達はシーナとアンナと別れた。


 

 大きなベッドが二つある広い客室で、着替えながら僕はトニーから女の子と戦うときの注意点を伝授された。





 食堂のテラスから続く中庭はバドミントンコートくらいの広さの芝生があり、未就学児二人で鬼ごっこをするのなら十分な広さだった。


 身体強化で駆け回るなら周辺の庭木や花壇に突っ込まないように気をつけなくちゃ駄目だな。


 動きやすい服に着替え中庭に来た僕を見たニーナは鼻で笑った。


 色白で痩せっぽっちでチビの僕は身体強化の達人には見えないだろう。


「ルールは簡単じゃ。片方が逃げて片方が捕まえる。精霊達の助力を得たり、芝生から出たら反則負け。相手を捕まえられなければ降参する事。みんな食事を楽しみにしているんだから、意地を張って降参しないとブーイングが起こるよ」


 カカシの説明に僕とニーナは頷いた。


「先攻後攻はじゃんけんで決めよう。じゃんけんで勝った方が逃げ役、捕まったら交代。まあ、一回交代するだけで勝負ははっきりするはずだ」


 シーナの言葉に、圧勝すればいいのね、とニーナは呟いた。


 気合を入れているニーナとのじゃんけん勝負は僕の負けだった。

 

 何一つ負けたくないのかニーナは得意気に微笑んだ。

 ……鬼ごっこで先攻後攻の優位性はないだろうに。



 女の子との勝負の鉄則、その一。

 出だしは様子を窺い、実力を確かめたら一気に勝負を決めろ。

 後で言い訳出来ないくらい実力の差を明確にすべし。


 トニーの鉄則を思い出していると、カカシが、始め!と合図した。


 ニーナは僕を挑発するように大きく一歩僕の方へ踏み出すと左にサッと逃げた。

 僕は反射的に跳躍してニーナの花冠を奪った。


「勝負あり!勝者アルフレッド!」


 僕に花冠を奪われたことに気付かず左端まで逃げていたニーナは驚いた表情をして足を止めた。


「まだ捕まっていないわ!」


 僕が花冠をひらひらと振るとニーナは悔しそうに歯を食いしばった。


 女の子との勝負の鉄則、その二。

 なるべく接触機会を少なくする。


 鉄則その一は様子を窺う間もなく体が動いてしまい厳守できなかったが、鉄則その二は守った。


 ヘンタイの汚名を(そそ)ぐため、鬼ごっこといえどもなるべく女子に触れない方がいいもん。


 僕は無言でニーナに近づくと花冠を返した。


 ふくれっ面で花冠を受取ったニーナは芝生の真ん中に移動した。素直に負けを認めたようだ。


「今度はニーナがアルフレッドを捕まえる番じゃよ。両者が呼吸を整えたら開始す……」


 負けず嫌いにありがちな試合開始の合図をあえて誤解する手法でニーナは僕に飛びついてきた。

 

 僕は咄嗟にバク転を三回しながら後方に逃げると食堂で観戦している村人達から大きな拍手が沸き上がった。


「目立ってんじゃないわよ!」


 僕に向かってきたニーナは着地予定地点に足からスライディングした。

 僕は空中で右回転に体を捻り、ニーナの横に着地すると、観衆に向かって王子様らしく手を振った。


 態勢を整えたニーナが飛蝗のように飛んできたので真上にジャンプするとニーナは空を掴んで食堂の方へ頭からスライディングした。


 観客たちから笑いが起こると、ニーナは項垂れて首を横に振った。


 これで、諦めて降参してくれればいいのだけど……顔を上げたニーナの瞳に闘志がみなぎっていた。


 女の子との勝負の鉄則、その三。

 勝負にはとことん付き合うべし。

 勝敗に遺恨を残さないためには女の子が諦めるまで真剣に付き合うべし。


 歩き旅を続けた僕の身体強化は瞬発力より持続力に自信がある。とことん付き合ってやろうじゃないか!


 それからも、ニーナは僕に飛びつく作戦を止めなかった。

 素早さと体力に自信があった僕は後方心身二回捻り、さらに難易度を上げて三回捻り、と自分の限界を試し始めた。


「ふざけないで!何でクルクル回るのよ!」


 大きな歓声を浴びながら回転する僕の着地予測地点に先回りしながらニーナが叫んだ。


「イメージした通りに体が動くなんて楽しいじゃないか!遊ぶんだったら全力で遊ぶよ!」


 芝生の中まで伸びた庭木の枝を掴んで方向転換をした僕に、反則よ!とニーナが叫んだ。


「あの木の根は芝生の下まで根を張っている。芝生の上の木の枝を掴んでも場外反則にはならないよ!」


 シーナの判定にニーナは舌打ちをした。


「ニーナねえちゃま!がんばって!」


 舌ったらずな声援に僕は微笑んだ。


「余裕ぶちかましてるんじゃないわよ!」


「日がな一日身体強化で歩いて旅を続けているんだから、余裕があるのは当たり前だよ。負けずに向かってくるニーナも体力があると思うよ」


 側転でニーナから逃げつつ挑発をかわすとニーナは地団太を踏んだ。


「無駄に勝負を引き延ばす行為は反則とみなすぞ」


 カカシの言葉にいきり立ったニーナは僕に突進してきた。


「贅沢三昧で暮らして、ちょっと状況が悪くなったら逃げ出した王子のくせに!」


「食の細かったぼくのために方々から母上が食材を取り寄せてくれたのは事実だけど、母上の死後、母上の遺産目当てで毒を盛られて死にかけた場所に居続ける義理はない!僕が贅沢した対価は僕の魔力で支払い済みだ!生き続ける道を選んだ事を恥じてなんていない!」


 ニーナが迫ってくるギリギリまで我慢し跳躍でかわした。気分は赤い布を持つ猛牛使いだ。


「妹を見捨てて出て行ったくせに!」


「メラニーには女性騎士最強のアデルがついている!アデルは強いだけでなく、愛情をもってメラニーを世話する能力がある!僕はメラニーが生まれるまでアデルに育てられたんだ!」


「ふふん。上流階級のお姫様は子どもの世話なんてしないのよね!」


 シーナは僕の動揺を誘う作戦に出たのか口撃ばかりする。


「母上の日程は細部まで決まっている上に体が弱かったんだ!カカシだって言っていたじゃないか!子育てはみんなでするもんなんだよ!」


 話が自分に帰ってくるとは考えていなかったニーナが舌打ちをすると、僕が身をかわした方向にジャンプして手を伸ばした。


 僕は背中を逸らしてかわすと、フフっと笑いが込み上げてきた。


「そうやって、人を馬鹿にするところが気持ち悪いのよ!」


「馬鹿にしていないよ。ようやくシーナが僕に向き合ってくれたから嬉しくなったんだ」


 僕の言葉に、ふざけんじゃねぇ、とニーナは吐き捨てるように言った。


「向き合うって何よ!私は始めから全力を出しているもん!」


「そうだね。力いっぱい走っていた。でも、さっきようやく、僕の筋肉の動きに反応したでしょう?やっと、どうやって僕を捕まえようか、から、次は僕がどう動くか、と考えを切り替えて、全身で僕の気配を探ったじゃないか!」


 えっ!とニーナが正気になると、パンパンとカカシが手を叩いた。


「この後、ニーナがどんなに奮闘して勝利しても、攻防のバランスからアルフレッドの勝利で間違いない。そろそろ食事にしないか?」


 カカシの言葉に僕のお腹が、グゥっと鳴った。


「ごめんなさい。私の負けです」


 ニーナは真顔で僕に頭を下げた。


「意地になって勝負を長引かせてごめんなさい。死んじゃったお母さんの話を持ち出してごめんなさい。妹の護衛を見くびってごめんなさい。口が悪くてごめんなさい」


 負けを認めたニーナは次々と自分の非礼を僕に詫びた。

 ……こんなに謝罪の言葉を連呼されているのに、ヘンタイと呼んだ事への心からの謝罪がない。


 だけど、お腹が空いていたので僕はニーナを許すことにした。


「鬼ごっこの勝負での言動に対する謝罪は受け入れるよ。だから、僕が村に滞在する事を快く受け入れてくれるかな?」


 ヘンタイを村に入れたくない、と言っていたニーナに尋ねると、ニーナは恥ずかしそうに頬を染めた。


「大変失礼いたしました。申し訳ございません」


 初対面での暴言の謝罪が入っていなかったのは、鬼ごっこに夢中になり過ぎてニーナはすっかり失念していただけのようだった。

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