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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第二章 おっぱいがいっぱい?

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20 カカシの思惑

 和解した僕とニーナが握手をすると食堂で宴会が始まった。



 テーブルいっぱいに広げられていたご馳走はカカシが、母が食材を各地から取り寄せていた舌の肥えた王子様、という情報を残して僕を迎えに行ってしまったため、村中の貴重な食材を持ち寄って相談して決めたメニューだった。


 

 スープはスパイスが効いていたがスープカレーともちょっと違った。何かが足りなく感じたが、羊肉の美味しいスープだった。

 ルーカレーがちょっぴり恋しい。


 パリッと香ばしく焼きあがった鶏肉は期待通りにカレーの風味がする大満足の味だった。

 このスパイスの調合に小麦粉でとろみをつけたらルーカレーになるんじゃないのかな。


 ルーカレーを知らないトニーは、スパイスで食欲が沸く、と喜んでいる。

 ノンはもちろんサラダと人参だ。


「カカシ様の精霊が妖精と老人を懲らしめるために別の亜空間にいるから、精霊達は出来心を起こしてニーナを唆したのですか!」


 ニーナの母のリラはカカシから詳細を聞くと、ハァと溜息をついた。


「精霊達に唆されるスキがニーナにあったのは事実じゃ」

 

 容赦ないカカシの言葉にニーナは俯いた。


「精霊達に好かれてしまうと、こんなに幼いころから精霊達の干渉を防ぐよう気を付けねばならないのですね」


 改心したニーナが叱責され過ぎないように、洗礼式前の子どもだ、という点をトニーは強調した。


「今、説教部屋じゃない、亜空間にいる爺さんのようにならないために、幼いころから躾けておかないとニーナが本格的に精霊魔法を使いだりたら村人たちでは手に負えなくなってしまうからよ」


 シーナの言葉に村人の大人達全員が頷いた。


「シーナの誕生時は亜空間で出産するくらい大騒ぎじゃったのう。母親がお乳を与えながらシーナの魔力操作を補助して、精霊達の干渉を防いだんじゃ」


 カカシの言葉にシーナは遠い目をした。さすがのシーナでも生まれた時の事なんて覚えていないだろう。


「私の子どもの頃は洗礼式前に精霊魔法を使ったら、即、亜空間での説教が入ったのに、ニーナには甘いわよ」


 シーナがこぼすと、面目ない、とカカシが言った。


「儂もここのところ村を離れていたからじゃ。まあ、……害虫駆除に役立っていたからあまりきつくしかれなかったんじゃよ」


 カカシが申し訳なさそうに言うと、母さんの影響よ、とアンナが小声で言った。


「はいはい。ちゃんとはっきりさせておくね、ニーナ。私は魔獣と戦うために冒険者になったのではなく、数奇な運命を背負ったアルがこの旅路で死なないように助力をするために冒険者になったのよ。緑の一族はシャオ王国にもラウンドール王国にも干渉しない。だから、私が個人で受けた仕事にする必要があるの」


「……大人の事情、ってやつなのね」


 ニーナはシーナの話に納得した。賢い子だ。


「この地域も安定したから、そろそろ村を移転する時期なのです。先行しているグループが次の候補地をいくつか先回りしています。私達の移動先は諸国が強い関心を持っています。シーナの個人行動で穀物価格が変動することもあり得るからですよ」


 カミルさんは僕にもわかるように説明してくれた。


「シャオ王国が悪い国で、ラウンドール王国がいい国だからアルフレッド殿下が逃げ出したんじゃないの?」


 ニーナは答えにくい質問をした。


「ニーナはどうしてシャオ王国が悪い国だと思ったの?」


 返答に困ったときの必殺技、質問返しをすると、ニーナは爆弾発言をした。


「シャオ王国は王様が王族を次々と殺して魔力が足りなくなっているんでしょう?」


 その言い方は身も蓋もない。


「まあ、そうなんじゃが、アルフレッドの父が現在奮闘しているから、緑の一族がシャオ王国近辺に移住する必要はない」


 カカシの言葉に、そうですか、と村人たちは聞き言った。

 子どもの前でこんな話をするからニーナが賢いのか、と思ったが、他の子ども達はテラスに集められていた。


 僕との和解のブランチと思いきや、こんな話についてこれるほどニーナが賢い子だから同席しているのだろう。


「ニーナ。ラウンドール王国がいい国だったなら、儂はアルフレッドをこの村に招待するのではなく、転移魔法で直接王宮に送り届けるじゃろう」


「ラウンドール王国にも事情があるのね」


 ニーナの言葉に僕とトニーは無表情を貫いた。


「まあ、そうなんじゃが、アルフレッドをほっておけなかった、というのが一番の理由じゃ。ああ、シーナが教育係として不足があるわけじゃなく、儂らの予想以上にアルフレッドの成長が早いからなんじゃ」


 カカシの言葉にニーナが激しく頷いた。


「精霊達の話と全然違ったわ。お花畑の亜空間で精霊達が……ダメだわ。そのまま言ったら悪口になっちゃう」


 ニーナの周りの精霊達が恥ずかしそうに淡い光を揺らした。


「いや、精霊達が言ったまま話してくれないか?」


 僕の言葉にトニーとノンは頷いた。


「シーナ様が保護したアルフレッド王子はシャオ王国で贅沢三昧で暮らしているが、鍛錬を怠っているからひ弱な上、護衛のトニーの魔力を使用している狡い王子だって」


 散々に言われようだが、間違っていない。


 はい、と僕は右手を上げた。


「それは、事実の切り取りだよ。衣装が豪華なのはラウンドール王国の特産品が高級布とレースだから、母上が両国間の貿易を潤滑に行う名目で毎年買い入れていたから。ひ弱だったのは食事にちょくちょく毒を混入されていたから体調を崩すことが多かったから。トニーの魔力を使用しているのは、毎日、祠巡りかご神木に魔力奉納をしているのに一日中身体強化をしているからだよ。加減の効かない精霊魔法の使用時にトニーの魔力を使っているだけだ」


「それで、あんなに身体強化が得意だったのですね」


 僕の説明にカミルさんは感心したように言った。


「精霊達は自分たちの都合のいい事実を見るとそれ以上情報を探さないから、嘘ではないけれど正確な事実ではないことを言うのよ」


 シーナの話をニーナは真剣な表情で聞いた。


「本当は生きるか死ぬかのギリギリの状態から脱出した王子様で、旅の途中で必死に努力したからあんなに強かったのね」


 トニーとシーナとノンが頷いた。僕はニーナに急に持ち上げられると照れ臭い。


「ああ。アルフレッドとニーナはともに身体強化が得意でも、状況が全く違う。ニーナが身体強化が得意で賢いのは、精霊達と亜空間で過ごす時間があったからじゃ。亜空間で畑を耕す練習をしたり、図書室に籠もりきりの時リラに叱られたら亜空間で本を読み耽ったりしていたじゃろう?」


 カカシの指摘にニーナは頷いた。


「少しでもアンナ姉さまの手伝いがしたかったんだもん!」


 これは叱りにくいね、とシーナはアンナを見遣った。


「アルフレッドは亜空間で訓練しているのではなく、頭でイメージしたことをすぐ身体強化に活かせるんじゃ」


「精霊達の補助なくあんなことができるなんて、天才よね」


 ニーナは僕の評価をヘンタイから天才に変換している!振れ幅が大きすぎだ。


「神童は二十歳過ぎたらただの人、ってお国の言葉にあるんだ。大人になって僕がトニーのように強くなれるとは限らないんだよ」


 僕が慌てて否定すると、カカシとシーナは頷いた。


「二人とも村の他の女の子から見たら神童じゃ。タイプの違う二人の神童じゃが、二人とも今のままじゃ危うい。ニーナは精霊の言葉に耳を傾け過ぎだし、アルフレッドは良くも悪くも精霊達を引き寄せすぎる」


 僕とニーナは素直に頷いた。


「アルフレッドはこの村で呪文の精度を上げる練習をしたらいい。幸いここにはアルフレッドを好ましく思わない精霊達が少数派ながらいる。その子たちを呪文で従わせることができたら、敵対する精霊の動きを止めることができるようになるだろう」


 ヘンタイサディストの叔父を慕う精霊達がいたとしても、アップウの呪文を使いこなせるようになれば干渉されずに済む。


「これだけたくさんの精霊達に囲まれていても精霊達の干渉を防いでいるアルフレッドの魔力循環方法をニーナはしっかりと学びなさい」


「シーナ様が精霊達を制御していたんじゃないのですか?」


 僕達の周りの精霊達が、違う、と一回点滅した。


「私を買いかぶり過ぎよ、ニーナ。私は精霊言語を取得しているけれど、まだ使いこなせているわけじゃないのよ。精霊言語は膨大な情報が一気に脳内に流れ込んでくるから、それを防ぐことに膨大な労力を費やすの」


「だからシーナを亜空間で保護していたんじゃ」


「母さんが村で特別扱いされていたのは特別にしないと死んでしまうからだったのよ。私はそんな苦労をする精霊言語は取得したいと思わないわ」


 アンナの言葉にシーナは頷いた。


「こればっかりは、いきなり精霊言語を取得してしまう事があるから厄介なんじゃ。アルフレッドとニーナは取得の予兆がある。アルフレッドの開発した魔力循環方法が取得時の混乱を乗り切る対策として一番有効じゃ」


 僕が魔獣のように習得した魔力循環による魔力漏れの防止方法が、万物の声が聞こえてくる精霊言語を取得時の混乱を防ぐのか!


 カカシが僕達を村に招待した思惑は、僕の呪文の練習場を提供するだけでなく、精霊達に干渉されることをいとわなくなっていたニーナが妖精の言いなりだった老人のようにならないようにし、僕とニーナが精霊言語を取得した時に起こる混乱に対処する方法を二人同時に学ぶ、一石三鳥を狙っていたようだ。


「この村で、ゆっくり練習していってくださいね」


 カミルさんの奥さんが僕とニーナにミルクをついでくれた。

 僕とニーナの取り皿には真っ赤なチキンが載っていたので、気を使ってくれたようだ。


 さっき食べたタンドリーチキンより明らかに辛そうな鶏肉を少しだけ切り分けて口にしたニーナは即座にミルクをゴクゴクと飲んだ。


「辛いけど、美味しいのよ」


 上唇に白い髭をつけたニーナの勧めに従って僕も少しだけ鶏肉を口に入れた……。


 なんじゃ!これ!

 口から火が吹く!

 辛いんじゃなくて痛いじゃないか!


 王子様の僕は吐き出すわけにもいかないから噛まずに丸呑みすると、ミルクをゴクゴク飲んだ。


 甘い!

 ミルクじゃなくてラッシーだ!

 

 僕がゴクゴクラッシーを飲み干すと大きな口を開けて氷を口に含んだ。

 ああ、癒やされる。口の中に楽園ができた。


「この、辛いと、甘いを交互にやるのがたまらないのよね」


 ニーナは意地悪で勧めたのではなく、本当にこの辛い鶏肉とラッシーの組み合わせが大好きのようだ。


「あっちのテーブルには辛い食べ物がないわよ」


 シーナの指さす方は子ども達のいるテラスだった。


「辛すぎるのは無理だけど、スパイスの効いている方が好みだからこっちの席にいるよ」


 僕の返答に、そうじゃろう、とカカシが言うと、カミルさんと奥さんは、そうだったようですね、と納得した。


 どうやら、このテーブルは話の流れで難しい話になっただけで、スパイスが好きな人たちのためのテーブルだったようだ。

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