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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第二章 おっぱいがいっぱい?

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7 僕と兎と水の神様

 可愛い兎を抱っこしたまま妖精に案内されて水の神の塔に向かった。


 五つの塔に囲まれた内側は一階層と呼ばれており牧草地が広がっていた。

 草を食む牛や羊が同種で群れになっていた。少し離れたところに豚や鶏いるのが伸びきった牧草の隙間からちらほら見えた。


 中央付近に光と闇の神の塔が聳え立ち、その手前に噴水があるのだろうが伸び放題の草のせいでよく見えない。


 ここで兎を放ったら見失ってしまうだろう。


 塔の幅は飼料を保管するサイロのような幅でしかないのに、高さは天に続くかのように聳え立っている。


 いや、見上げてもよくわからないのだ。ポ〇デリングのような居住部の上に偽太陽が輝く空のような天井が広がっているので、塔がどこまでも続いているような錯覚を起こしてしまう。


 妖精が塔の大きな扉に触れる直前で扉が自動的に動いた。


「これ!古代魔術具の技術なんだよねぇ。崩壊しちゃうなんてもったいないな」


 ただただ圧倒されている僕とトニーを尻目にシーナは、つくづく惜しい、と嘆いた。


 僕は壊れてしまう事を惜しむより珍しい物を見ている感動に浸りたい。


 窓のない塔の中は床も壁も高い天井もびっしりと描かれた蔦のような模様がうっすらと光っており、とても神秘的だった。


「魔法陣が隠されているな」


 目を凝らして壁の模様をじっくりと観察したトニーは魔法陣の全貌を見ようと首をゆっくりと上げて天井まで続く模様を目で追った。


「うーん。よくこれで神罰を逃れたな。でも、移築するとしたら、見逃してもらえないような気がする」


 肌寒くもないのにシーナは両腕を擦った。


「もしかしたら、創造神からの神罰ギリギリな状態を神々が楽しまれたのかもしれないね」


 僕の言葉に腕の中の兎は頷いたが、トニーとシーナはギョッとした。

 神罰関係でジョークを飛ばしてはいけないようだ。


「新たな魔法陣の構築に尽力した先人たちの偉業のお陰で俺達は今の魔法陣を使用できるのに、爺さんは一人でこの魔法陣を構築したのだから、凄いとしか言いようがない」


 トニーの言葉に妖精は嬉しそうに頷いた。


 シーナは険しい表情をしたまま妖精の先にある祭壇を見た。


 町や村にある七大神の祠は大人一人入れる大きさのお堂の中に水晶や神々の像がご神体のように祀られていて、触れる事で魔力奉納ができる。


 塔の中の祭壇の上には水色の魔石を両手で持つ水の神の像が祀られていた。


「祭壇に何か問題でもあるのか?」


 トニーがシーナに尋ねると、問題ない、とそっけなく言った。


「水の神への解釈が古いが、今までこれで何とかなっていたのだから今さら変える必要はないだろう」


 険しい表情をしたままシーナは顔の前で指を組んだ。


 僕が今まで見た水の神の像は水瓶を肩の上に担いでいて、魔力奉納で触れる時に直接、神の像に触れるのがおこがましい気がして水瓶を触っていた。


 小さな村の祠では魔石のついた木の棒を祀っていたところもあったので、神々は人間が作る神の像の形状に拘らないのかもしれない。

 

「爺さんが配管を直している間に光と闇の神の塔に先に魔力奉納を済ませよう。それから土の神、火の神、空の神、風の神、と回って、最後にここで魔力奉納をした方がいい」


「「「魔力奉納する順番が大事なの?」」」


 僕とトニーと妖精の声が揃った。


「いや、順番はさほど気にしなくていい。誰にだって、自分にとっての一番の神様がいるから七大神の序列は気にしなくていい」


 いつも火の神と風の神の祠では魔力奉納が長いトニーは肩をなでおろした。


「この集落は魔法陣の魔法と詠唱魔法が分離される前の技術を使っている。魔力奉納の際口にする言葉はおそらく祝詞になるだろう。私は元聖女だから、現在教会で使用されている祝詞を唱える。創造神が一部作り変えた新世界の法則をこの集落に初めて持ち込むことになるから、七大神全ての神々にご挨拶をしなくてはならない」


 真面目な顔で説明するシーナの言葉に妖精が目を泳がせた。


「先に水の神の祠に魔力奉納をして水が湧き出したら、集落は上を下への大騒ぎになるだろう。そうなると残り六つの祠の魔力奉納が疎かになる。微妙なバランスで成り立っているこの魔術具の集落が神々の祝福の偏りによって即座に崩壊することもあり得る」


 ああ、と僕とトニーも理解した。


 天罰の時代を経て独自に魔法理論を構築したこの集落は、小さな別世界だ。

 楽しく見守っていた神々はそのうち関心が薄くなり放置していたところに、現在使用されている本当の祝詞が聞こえたら注目を集めるに違いない。

 七大神の一柱にだけしかご挨拶をしなければ、他の六柱の心証が悪くなる。


 細かい順番は気にしなくていいから、とにかく全柱にご挨拶をしなければならないのか!


「アル!兎に名前を付けなさい。兎!お前も魔力奉納をしなさい」


 えっ!兎も魔力奉納をしなきゃダメなのか!

 僕とトニーと兎も目が点になった。


「真っ先に水の神の祠に案内した妖精も鈍いけど、アルはとにかくトニーは気付けよ。そこの兎は私達が身体強化をしながら山を横断していたのに遅れることなくついてきたんだぞ」


 そうだった。

 僕とトニーが兎を見ると、兎はニヤッと笑った。


「この兎はご神木の根元をねぐらにしていたから、神獣候補、いや、ずっとずっと手前、違うな。奇跡が起これば神獣になれるかもしれない、程度だが、野兎にしては魔力が多い。神様にご挨拶をすべきだし、それには名前があった方がいい」


 シーナの説明に妖精は頷いた。


「神々の寵愛を賜ることはめったにない。人間より、もしかしたら、そこら辺の魔獣の方が多いかもしれない」

「人間は魔法陣や詠唱魔法で神々からのご利益をいただいている。神獣とは比較の対象にならない」


 妖精の発言を否定するシーナの言葉にトニーは頷いた。


 何はともあれ、兎の名前を決めなければ魔力奉納に移れない。


「名前かぁ。可愛い名前がいいかな。いや、ちょっと太々しいところもあるから……」


 僕と兎は見つめ合った。

 ひょんきち……。兎は首を横に振った。

 バニー……。兎は眉間にしわを寄せた。


 前世の記憶で思いつく名前は嫌なのかな。兎は頷いた。

 おお!以心伝心じゃないか!


 それから僕は兎にいくつか名前候補を上げて、即座に拒否された。


「そんなに悩む事か?ボブとかジョンとか、何でもいいだろう」


 兎はトニーの方に振り向くと首を激しく横に振った。イヤイヤばかりする兎だ。


「ノン。お前の名前はノンだ」


 兎はハッとした表情で僕を見るとようやく頷いた。


「ようやく決まったか。どんな名前でも呼んで兎が従えば、簡単な使役契約になるのに」


 やれやれ、とシーナが肩を竦めると、えっ!とトニーが反応した。


「魔法陣を使用して魔獣使役契約をする方が強固な契約になるけれど、目を合わせて名を呼び魔獣が応じるだけでも使役契約ができるんだよ。まあ、その場合は魔獣が名に反応しなくなれば使役契約は終了する」


 魔獣が使役者に嫌気がさしたら魔獣から解除ができるのか。やたらとゆるい使役契約だな。


「ノン。魔力奉納に行こうか!」


 ノンは頷くと僕の腕から飛び出して扉の前に向かった。


 やる気満々だな、と笑いながら僕達は水の神の塔を出た。



 六つの塔で魔力奉納を終えると水の神の塔に戻ってきた。

 噴水の修理を終えたのか老人が祭壇の前で待っていた。


 シーナがごにょごにょと祝詞を唱えて魔力奉納をするとトニーも魔力奉納をした。僕の前に二本足で立っていたノンが祭壇に向かってジャンプすると、水の神の像についている魔石に触れて魔力奉納を済ませた。

 いよいよ僕の番だ。

 

 六柱に魔力奉納をしたときも考えていた。今、水不足を解決してしまうと住人達は引っ越しをためらってしまうのではないだろう、と。


 立派な魔術具の建物に見えるけれど、いつ崩壊してもおかしくないらしい。


 老人と妖精は期待の籠もった眼差しを僕に向けた。


 僕が生きのこる方を選べ、と上級精霊様は言っていた。

 この集落のその後を僕が考える必要はない。なら、僕がここで快適に過ごせるように祈ってもいいはずだ。


 ……大浴場は最上階の五階層にあるらしい。どんなお風呂だろう?


 僕は水の神の像の魔石に触れた。


「水の神様!どうか、旅の疲れを癒すため、湯量を気にせずお風呂に入れるようにこの集落に水をお恵み下さい!」


 魔力が吸い取られるタイミングで早口でお願いすると、爆音とともに塔が揺れた。

 やばい!

 魔力奉納をする直前に魔術具の建物の崩壊を考えてしまったから、今まさに崩壊が始まってしまったのか!

 狼狽える僕の左右にトニーとシーナが庇うように入り込み、ノンが僕と祭壇の間に入り二本足で立ち上がった。


 揺れる祭壇にぶつからないようにノンは僕を守るつもりなのか!


 揺れが収まるとザァーザァーと水音が聞こえた。


 老人と妖精は扉に向かって駆けだした。自動で開いた扉の外では草むらの奥に、噴水と呼ぶより間欠泉と呼ぶ方が相応しいような水量で水柱が上がっていた。


「井戸が枯れてから必要だった分の水を一気に下さるなんて……」


 シーナは首を小さく横に振りながらひとりごちた。


「ノン、守ってくれようとしたんだね。ありがとう」


 ノンは嬉しそうに笑うと僕に飛びついた。


「排水は大丈夫なんだろうか?」


 僕はノンを腕に抱えたまま両手の拳を握りしめた。


「水の神様!適量でお願いします。お風呂に入って、美味しいご飯の支度ができれば十分です!」


 僕の言葉に呼応するかのように立ち上っていた水柱は噴水にふさわしい水量になった。


「神様への願いがこんなに早く叶ってしまうのか!?」


 驚くトニーにシーナは首を横に振った。


「トニー。もう話さない方がいい、塔の外に出よう」


 シーナは僕とトニーの背中を押して早く出るようにと促した。



 噴水の水は高く突きあがり偽物の空の向こうへ消えていた。二階層に届いているのだろう。


「あの塔の中の魔法陣は言葉とあわせて魔法が発動する仕掛けになっているの。魔力奉納をしながら話す言葉はすべて神々に届けるために天界に向けて大きく響くように増幅する魔法陣だったのよ」


 塔から出たシーナは頭を抱えながら言った。


「ものすごくたくさん水が出る、と精霊達が警告していたけれど、どう調節すればいいのかわからなかったから、私はここに暮らす人々の安寧を願う、無難な祝詞を選択したの!」


 うんうん、と僕とトニーとノンは頷いた。


「自分が魔力奉納をしている時は真剣だから塔の中の魔法陣を確認できなかったのだけど、アルが魔力奉納の際、水の神様に呼びかけると、魔法陣に流れた魔力の一端から少しだけ読み解けたの」


 よく解読できたなぁ!とトニーは感心した。


「アル。五階層の大浴場に入りたい、と考えながらお祈りしたでしょう?」


 シーナの問いに僕は素直に頷いた。


「それで、ばっちり五階層に届く水量になったのか!」

「でも、どうして水量の調節ができたの?」


「魔法陣にまだアルの魔力が残っているうちに言葉を発したから祝詞になったのよ」


「詠唱魔法は魔法効力の加減が効きやすい、とは聞いていたが、本当だったんだな」


 納得したトニーはしきりと頷いた。


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