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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第二章 おっぱいがいっぱい?

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5 中途半端な存在

 ボウっと僕の目の前で燃え上がった老人は表情を変えることなくしきりと訳の分からない言葉を喚き続けた。

 身を焼かれているような苦痛の素振りではないようだ。


「魔法が効いていないようだけど、演習用の炎なの?」

 

 シーナは焦がす程度、と言っていたので、トニーは手加減したのだろうか?


「ああ、見かけだけ派手にして体毛が少し焦げる程度に加減した」


 老人の真ん前にいる僕に火の粉がかからない。特等席で魔法を見ることができたので、凄いね!と僕は拍手をした。


 シーナはそんな僕の襟首を捕まえるとトニーの後ろに引っ張った。

 はしゃいでいる場合じゃなかった。

 不審な老人は誘拐犯かもしれないのだ。


「この爺さんは何者なんだ!」


 老人を燃やす炎を消すタイミングがわからないらしいトニーがシーナに尋ねた。


「自分の思う通りに事を運ぼうとしか考えていないから、いきなり背後に現れて洗礼式前の子どもに精霊言語で大量な情報を送り付ける、()()()()()()使()()だよ」


「「妖精使い!?」」


 老人は精霊使いではなく、妖精使いなのか!

 でも、妖精って何だろう?


「トニーの魔法を防げない、()()()()()()()()()()()()()()と契約した愚かな人間だよ」


 中級精霊のなりそこない、と言う言葉の箇所で、燃え上がる老人の鼻先に閃光が現れた。


 閃光が収まり、目を開けると、僕とトニーは同じ言葉を口にした。


「「小さい!」」


 燃え上がる老人の鼻先に姿を現したのは、体長五センチほどの〇ルバニアファミリーの人形のような男性型の妖精だった。


 姿こそ美青年だが、以前、精霊達が象ってくれた中級精霊の大きさと比較すると小さすぎて威厳がない。

 バー〇ー人形のボーイフレンドをシルバニ〇ファミリーのお父さんサイズに小さくしたような感じだ。


「浮いているから人形じゃなく、魔法を行使できる存在だとがわかるけれど……玩具みたいだね」


 メラニーのための玩具と考えると小さすぎて年齢制限に引っ掛かりそうだ。


「人間ごときが聖なる存在の妖精に対してあまりにも不敬な態度だぞ!」


 僕の反応に妖精は右手の人差し指を突き立てて怒りをあらわにした。


「いや。妖精の存在が神々の(しもべ)として中途半端な存在だって、自覚した方がいいよ」


「愚かな人間より神々の(しもべ)たる妖精の方が高貴な存在だ!」


「神々の(しもべ)でもシーナに口で敵わない気がするから、先にそのお爺さんの炎を何とかした方がいいんじゃないかな?」

 

 燃え盛る炎に包まれながらも必死に何かを訴えている老人を指さした。

 熱くなくても酸欠になりそうだ。


「ごめんなさい、って謝るなら、火を消して、とトニーに頼んでもいいわよ」


 上から目線のシーナの口調に妖精は悔しそうに顔を歪めた。


「王子様の背後にいきなり不審な老人を転移させておいて、真っ黒焦げにされず、少しだけ炙る程度で済ませるように配慮してあげたのよ!その態度は、いただけないわ」


 シーナの言葉に、もっともだ、と僕とトニーは頷いた。


 振り向いて老人がいた時は、股間が縮み上がるほど驚いた。

 少しだけ焦がしなさい!というシーナの奇妙な指示で、こちらが有利な状況だ、と気付き肩の力が抜けたんだ。


 僕とトニーに怒りがこもった眼差しを向けられた妖精は困惑したように眉を寄せた。


「俺の火炎魔法を止められないのなら、早く謝罪した方がいい。長く続けば俺の魔法制御が乱れるかもしれないぞ」


 誤って老人を燃やしかねない、とトニーが脅すと、妖精はチッと舌打ちをした。


「……いきなり主をアルフレッドの背後に転移させてしまい申し訳ありませんでした」


 妖精が謝罪の言葉を述べると老人を包んでいた炎が消えた。

 炎が消えて安堵した老人は一息入れると、再び謎の言葉でわめきたてた。


 トニーは魔法剣の剣先を老人に向けたまま、どうする?と問いかけるような視線を一瞬シーナに向けた。

 シーナは妖精と老人を見比べて溜息をついた。


「私は通訳をしないわ」


 妖精は小さな頬を引きつらせてシーナを睨み、老人は大きな声で何か喚いた。


「「シーナには爺さんの言葉がわかるのか!」」


「ええ。私は精霊言語を習得しているから、彼が伝えようとしていることが脳内で自動的に翻訳されるの。アルは精霊言語を習得する間際の状態だから、妖精はわかりやすく映像を脳内に送り付けたのでしょう?」


 僕が頷くと、妖精はしぶしぶ頷いた。


「私がね、妖精を中級精霊のなりそこない、と言うのは、その短絡的思考を反省することがないからなのよ」

 

 妖精は顎を引いてシーナの苦言を聞いた。


「この老人と契約したかったなら、彼がきちんと精霊言語を取得するまで待つべきだったのよ。中途半端な状態で契約してしまったから、アルトとトニーには何を言っているのかわからない状態になったのよ」


 老人はシーナの言葉か理解できるようできまりが悪そうに俯いた。


「妖精は精霊達が集まってイメージを固定して実体化できるようになった存在。つまり、普通の精霊が寄り集まって一つの意思を持っただけ」


 僕達の周りの精霊達が、そうだ、と二回点滅した。

 

「私達が連れ歩いている精霊達は、この妖精の元となった精霊達よりずっと多くなってしまったから、貴方がどんなに足掻こうと、アルに精霊言語を送り付ける事だって阻止できちゃうのよ」


 妖精は不貞腐れたように横を向いた。

 僕達の周りの精霊達は誇らしげに激しく点滅を繰り返した。


 精霊達が妖精にマウンティングをしているみたいだ。


「そもそも、トニーの所持する魔法剣の威力に対抗できる精霊魔法を行使できないくせにどうやって、私達に交渉するつもりだったの?」


「シーナもトニーも結局のところ、アルフレッドの意思を尊重するから、アルフレッドが興味を示せば、うちの集落に立ち寄ってくれるじゃないか!」


 老人と妖精は、精霊達の救世主に何とか自分たちの問題を解決してもらおう!系の(やから)だったのか!


「太陽柱に彼が丸焼きにされる未来の映像があったでしょうに」

「トニーはアルフレッドの前で人を殺すのを躊躇う」


 妖精は精霊達と同様に自分にとって都合のいい未来を見るんだな。


「少し焦げる程度に丸焼きにされても気にしないから、行動に移したのね」

「……丸焼きにされない未来の映像だってあったもん」


 精霊達の集合体が妖精なら思考回路は精霊達と同じだよなぁ。

 

「妖精はいったい俺たちに何をさせたかったんだ?」


 シーナと妖精のやり取りにまどろっこしくなったのかトニーが本題を聞き出そうと口を挟んだ。


「その老人が作った集落が滅びてしまう未来を変えてほしかったみたいね」


「えっ!あんな個性的な集落が滅びてしまうの!」


 まんまと食いついた僕の反応に妖精はニヤリと笑った。


「ほら、アルを落とせば私たちが集落に行くことになると、短絡的に考えたんでしょう!」

「口が悪いなぁ、シーナ。私はあなた達を()()()()()に導いてあげようとしているんだよ!」


 得意気に両手を広げて笑みを浮かべた妖精に、僕達は胡散臭そうな視線を向けた。


「ハハハ。魔力が完璧に満たされた土地では男女の誕生はほぼ同数になる。魅力的な女の子がたくさんいるよ」

「教会の古い守りの魔法陣から土地の守りの魔力を盗んでいるくせに!」


「住人は豊かな魔力持ちばかりだから日常生活に魔法が使い放題!君達みたいに隠れてこそこそ魔法を使わなくてもいいんだよ!」

「隠れているのは精霊達が面倒事に巻き込むからだ!」


 妖精が()()()()()とやらのプレゼンをするも、ことごとくシーナにツッコミを入れられた。


「ああ。何となく、話が見えてきた。お前たちが水泥棒か!」


 トニーの指摘に、そうか、と僕は手を打った。

 水量が減った川底から見えていた魔術具はこの老人の集落の物だったのかもしれないのか。


 面倒事を避けようとして川沿いの移動を止めたのに、面倒事が追いかけてきたのか。


 両手を広げて顎を上げて得意気にプレゼンしていた妖精は顎を引いて舌打ちをした。


「察しがいいな。トニー。この爺さんの集落はとっくに破綻の一部が露見して、足りなくなった水を長年盗んでいた」

 

 シーナの説明に妖精と老人は無言で僕達から顔をそむけた。


 都合の悪いことを説明しないのは妖精も精霊も一緒らしい。


「この爺さんは文字と言葉を失った時代の生き残りで、人々が混乱している最中に自分の一族郎党だけを救うために山に籠もり、独自に言葉と文字を作り上げ、集落を発展させた。まあ、天才なのは認めるけれど、一人よがり過ぎた」


 唾を吐きながら、何か喚いている老人は数百年前から生きているのか!


 またしても理解不能な情報にトニーは剣先を老人に向けたまま項垂れた。


「精霊や妖精と契約した人間は契約が続いている限り不老不死になるのよ」


「……この爺さんは年寄りになってから妖精と契約したから、老人のまま不老不死なんだな」


 トニーは残念そうな表情で老人を見た。トニーの言葉を推測したのか老人は頷いた。


「突如として神罰の時代が到来してしまい、妖精はお爺さんが精霊言語を取得する前に慌てて契約を結んでしまったから、お爺さんは中途半端な精霊言語しか使えないの?」


 妖精は僕の質問に渋い表情で頷いた。


「お気に入りの天才魔術師を救いたかったのは理解できるけれど、ほどほどのところで、彼のやりすぎを止める必要があったのよ」


「「やりすぎなのは爺さんの方だったのか!」」


 僕とトニーの言葉は老人には理解できないはずなのに、老人は恥ずかしそうに頷いた。


「シーナは精霊達のやりすぎを止めるために奮闘しているでしょう。逆は無理だよ。だって、精霊達の集合体の妖精は本質が精霊達と変わらないように見えるよ。やりすぎる性質のある妖精にお爺さんのやりすぎを止められるとは思えないよ」


 僕の突っ込みに、うんうん、とトニーは頷いた。

 僕達の周りの精霊達は申し訳なさそうに淡い光を揺らしたが、妖精はふくれっ面になった。


「だから、中級精霊は滅多に人間と契約しない。精霊達が興味を持つ人間はだいたい個性が強い。よほどの人格者でなければ不老不死になったらとんでもない事をしでかすからね」


 老人が何か喚いたが、シーナは右手を上げて黙るように制した。


「もう一回炙ろうか?」


 トニーが剣先を上げると老人は首を左右に激しく振った。

 火傷をしないのに炙られるのは嫌らしい。


「妖精は中途半端な存在だから、人格者になる前の中途半端な人間と契約を結んでしまう。中途半端な存在の妖精は花でも愛でて女王蜂と戯れていればいいのよ」


「なるほどね。僕が早く呪文を使いこなせるようにならなければいけないのは、精霊達の干渉を防ぐだけでなく、人間の言葉で話しかけてくる妖精に惑わされないようにならなくてはいけないんだね」


「正直そこまで考えてはいなかったわ。本来、森の奥で花を愛でる妖精と人間が遭遇する事はめったにないのよ。でも、まあ、未熟な精霊や妖精の危険性を目の当たりにする、いい経験ができたわね」


 シーナの言葉に頷いた僕とトニーはシーナの手を握った。


 僕達が転移すると察した老人と妖精は、待ってくれ!と言うかのようにスライディング土下座をした。


「どうしよう?」


 僕が左右の二人に確認すると、シーナは溜息をついた。


「助ける義理はないと思うぞ」


 トニーの言葉に僕とシーナは頷いた。

 

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