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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第二章 おっぱいがいっぱい?

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第二章1 三者両得!

「トニー!もう少しここの部位のお肉を薄くスライスできないかな?あっ!シーナ。精霊達に見本を作ってもらっていいかな?」


 トニーが仕留めた猪を解体するのを手伝っていたら、どうしてもこの肉をすき焼きにしてみたくなったのだ。


「うん、いいだろう。アルとトニーに懐いている精霊達は手伝うなよ!アップウ!」


「うん!アップウ!」


 シーナの指導の元、僕は現在、僕達の意に沿いやすい精霊以外の精霊達を従わせる練習をしている。

 シーナが僕達の周りの精霊達の精霊魔法の使用を禁止して、僕に初対面の精霊達を使役させるのだ。





 アップウの呪文で初めて精霊達を行使した時、イメージ通りの草のトンネルができたのは僕に馴染みのある精霊達の功績だった。あの場で集まった精霊達は目的地の沢を越えて森に向かって草むらのトンネルを延長させていた。


 森の精霊達は下心があり、この森にで猪が増えすぎた事を好ましく思っていなかったから、僕達を森の奥に誘導したかったらしい。


 精霊達を使役する事はなかなか一筋縄ではいかないのだ。


 森の奥に住む聖獣に近い魔獣は大猪で、ご神木付近で猪が繁殖しすぎてしまい、沢の近くまで降りてきた猪達に自慢の草花を踏み荒らされてしまうから、草花を愛でる精霊達は猪に腹を立てていた。


 沢に招待した精霊達は、ご神木のある森の奥に行くな、とシーナに訴えるし、草花を愛でる精霊達は、森の猪を何とかしてくれ、とシーナに嘆願した。


 解決策として、森で持て余している荒くれ猪だけを精霊達が沢の方に誘い出し、トニーに仕留めてもらおう!と提案すると精霊達は納得して大人しくなった。


 またしても精霊達の希望を叶えることになってしまったが、お陰で僕は剣と魔法の世界に転生して初めて魔法の剣技を見ることができた。


 僕とシーナは木の上に避難し、トニーが収納ポーチから取り出した長剣を鞘から抜いて構えると精霊達に追い立てられた猪が次々と森の奥から突進してきた。


 トニーの構えた長剣から炎がメラメラと燃え上がった。大きく右足を踏み込んだトニーは突進してくる先頭の猪に向かって下段から剣先を振り上げた。


 炎を放つ剣は先頭の猪の首をはね、猪の首が宙に飛んだ。

 頭部を失った猪はそれでも惰性で沢に向かって走ったが、五、六メートルほど進んで倒れた。


 驚いたのは、トニーの一振りは先頭の猪だけでなく、後ろから突っ込んでくる猪の首まで次々と宙に飛ばしてしまったのだ。


 最初に首が飛んだ猪が頭部もないのに足を動かし続けたり、切られた首から血しぶきが飛ばなかったり、と気になる事が多すぎて、後方で何が起こっているかまでは見届けられなかったのが残念だ。


 どうやら、トニーの魔法剣は、一打千撃、と呼ばれており、最初の一撃の剣筋そのままの炎の刃が後方の敵に襲いかかるとんでもない魔法剣だった。


 使用者の魔力量と魔法剣との相性次第で炎の刃の数が変わるらしいのだが、トニーが使用するとその場にいる敵全員に炎の刃が襲いかかってしまうらしい。


 ラウンドール王国の王立騎士団の入団式で魔法剣を使用して王家に忠誠を誓う儀式があるらしいのだが、そこで母が王族代表として魔法剣をトニーに使用したところ、トニーにだけ魔法剣が反応し、トニーが魔法剣の正当な使用者、と認められたのだ。


 トニーの初陣はいまだ現在進行形で揉めているラウンドール王国と隣国との紛争で、魔法剣を携えたトニーが単騎で最前線に切り込み、一振りするだけで敵の前線部隊を全滅させたらしい。


 以来、ラウンドール王国騎士団はその時トニーが纏っていた鎧とマントを影武者に使用しトニーの当時の愛馬に騎乗させて影武者を前線に送り込むだけで、敵部隊を一斉退去させることができるらしい。


 最強の騎士の伝説は初陣から始まったのか。

 トニーの最強魔法の原型がこの魔法剣の魔法らしい。剣を抜かずにこんな魔法を出せるなら絶対負けないだろう。




 話を猪の解体後に戻そう。


 シーナのアップウの呪文に従った僕とトニーの周りの精霊達は見守るように淡く光り、僕のアップウの呪文に猪駆除を希望した精霊達が従った。


 今さっき出会ったばかりの精霊達は僕のイメージを理解し、風魔法で猪のもも肉をすき焼き用に薄くスライスした。


「なるほど。焼肉の用より薄くするんだな」


 トニーは精霊達がスライスした肉を透かして、薄いな、と呟いた。 


「もっと薄くスライスしたらしゃぶしゃぶ用のお肉になるよ!あっ!卵の殺菌を精霊達にお願いしてもいいかな?」


「卵の殺菌!?」

「よく焼いて食べれば食中毒にはならないぞ」


 シーナとトニーは首を傾げた。


「すき焼きには生卵が必須なんだよ。この前仕入れた調味料の中に醤油っぽいのがあったじゃない。あれと水飴で甘辛いタレを作って、お肉を焼いて煮込んで濃い味にするんだ。すき焼きダレが染みたお肉を生卵をつけて食べるのが、美味しいんだよ。生卵無しは考えられない」


 言い終わると思わず口をもぐもぐさせそうになった僕はゴクンと生唾を飲んだ。


 確実に美味いんだな、と言いたげにトニーは小さく頷いたが、シーナは首を傾げた。


「殺菌ならできなくはないが、卵を生で食べた経験がない。美味しいのか?」


「美味しいよ。卵かけご飯は最高の朝食だよ!そうだ!ご飯も炊こうよ!卵をからめたお肉をご飯の上に載せて食べても美味しいんだよ!」


 生卵にご飯はつきものだ。僕はいそいそと食糧保存の箱を開けて米を取り出した。


「お肉はトニーに任せるから、僕はお米の準備をするね」


「先に卵の殺菌をしよう。さっきのアップウの呪文でアルに従った精霊達は、なんだかんだ言っても私達に恩のある精霊達だった。たった今、物見遊山で集まってきた精霊達にさせてみよう」


 シーナは昼食の支度と呪文の制御の練習を同時にすることを気に入ったようだ。


 卵を三つ取り出すと、トニーは食料保管の箱をチラッと見た。

 そうだよね。

 追い卵も欲しいよね。

 ボールに卵を二つ追加するとトニーは嬉しそうに頷いた。


「新顔の精霊達以外は見守るように!アップウ!」


「美味しく安全な生卵になぁれ!アップウ!」


 五つの卵が淡い光に包まれた。


「うん。生で食べても安全な卵になったな。浄化の範囲も卵だけでボールの外側まで殺菌していない」


 矯めつ眇めつ卵を眺めたシーナは呪文の規模に合格を出した。


 トニーはテーブルに並べられた調味料の水飴に群がる精霊達を見て首を傾げた。


「もしかして、新顔の精霊達も水飴目当てに協力した可能性があるんじゃないか?」


 成功に喜んでいた僕とシーナは、あり得る、と眉を寄せた。


「まあ、ひとまず呪文の特訓は置いておいて、昼食の準備をしてしまおう」


 トニーの提案に僕とシーナは頷いた。


 米を研いで水に浸し終えると、僕から少し距離を置いた場所で精霊達が誘うように淡く光った。


「精霊達が猪を駆除してくれたお礼に美味しい野草を少し採取してもいい、と誘っている。私が警護するからちょっと行ってきていいかい?」


 シーナはお肉のスライスに苦戦しているトニーに声をかけた。


「シーナが付き添えば大丈夫だとわかっているのだが、俺も行ってみたい」


 精霊達に誘われて野草採取をするなんてトニーだって初体験だろう。好奇心が湧くのは理解できる。


「ああ、じゃあ、肉を衛生的にしておきたいから、とっとと薄切りにしちゃうね。アップウ!」


 シーナが呪文を唱えるとトニーが格闘していたお肉があっという間に薄切りになった。


「なんだか、下ごしらえ全部を精霊達に頼んでしまえそうだね」

「ハハハハハ。精霊魔法で料理の下ごしらえをしようと考えるのは、アルくらいだよ」


 シーナは爆笑しながらスライスした肉を食料保存の箱にしまった。



 精霊達に導かれて森に入ると、精霊達が猪から守っていた花畑を見せてくれた。道中、食べられる野草のところで精霊たちが二回点滅して、今が食べごろの野草を知らせてくれた。


 中には貴重な薬草もあったようで、シーナのテンションが爆上がりした。


 楽しい野草採取の最中にトニーが森の奥を気にして首を伸ばした。


 トニーが気にしている方向を注視すると、茂みの奥に大きな魔力がある気配が僕にもわかった。


「ああ、あの奥にこの森のご神木を守る大猪がいる。同族が迷惑をかけた、と詫びているよ」


 同族を僕達が殺してしまったのに、大猪が詫びる意味が分からない。


「いや、俺達は貴重な食料を得た。これで当分肉を買わなくていい」


「あの大猪が聖獣になるためにはこの森で同族のみを優先させていてはいけない。生態系のバランスに配慮できなければ神々が認める聖獣になれない」


「僕達を沢に誘ったのは、持て余している荒くれた同族を処分してもらうためだったのかな?」


「そうか?狩られた猪は自業自得だ。沢に行くな、と大猪が命じたのに精霊達に煽られて突進した猪たちが駆除されるのは当然の帰結だ」


 トニーは大猪にいいように使われたとは考えていないようだ。


 まあ、いただいた命は美味しく頂戴いたします。

 僕は茂みに向かって頭を下げた。


「そろそろ戻ろうか、お米がいい感じに水を吸った頃合いだ」


 シーナの提案に僕とトニーは頷いた。


「ちょっと、提案があるんだけど、いいかな」


 こんな森の中でどんな提案をするんだろうか、と思いつつも僕とトニーは頷いた。


「沢の炊事場まで転移魔法を使えないか、試してみたいんだ。今なら、大猪の魔力を頂戴できるからそんなに魔力負担を感じずにできそうな気がする」


 結果的に大猪にいいように使われた感が拭えない僕は一も二もなく頷くと、トニーは笑いながら頷いた。


 シーナに促されるまま僕とトニーとシーナで三角に向かい合い、手を繋いだ。


「アップ……」


 シーナの呪文が言い終わる前に僕達は真っ白い光に包まれていた。


 光が終息すると、僕達は沢の炊事場で三角に向かい合って手を繋いでいた。


「「「やった!大成功だね!」」」


 僕達は握りしめたままの手を上にあげて転移魔法の成功を喜び合った。


「アル、シーナ、魔力を使用した感覚はどうだ!」

「ほとんど負担を感じなかったよ」

「私もだ。精霊達は大猪の魔力をキッチリ拝借した、と言っている」


「それじゃあ、敵襲の時に、敵の魔力を利用して安全な場所に退避できるんだな!」


 トニーは逃走手段が増えた事を喜んで、僕とシーナの手をブンブン振った。


 精霊達と大猪にいいように利用されたけれど、シーナが転移魔法を習得したので、三者両得の大満足の結果になった。

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