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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
閑話一

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閑話1 強欲どもの行きつく先 1

 夜更けの食卓は私の周りだけ灯の魔術具が燦然と輝き、少し下がって給仕のタイミングを窺っているメイドの顔に死相のような影を落とした。


「もうよい。どいつもこいつも嘘つきばかりで反吐が出そうだ」


 メイン料理に半分も手を付けずに、皿を下げるように、とメイドに合図した。


「殿下、お口の周りが汚れています」


 部屋中の者に聞こえるように大きな声で言ったのに、私の脇に控えていた執事に、口を閉じろ、とナプキンを手渡された。


「ああ、食後にアルフレッドの様子を見に行こう」


 大人しく口を拭った私は汚れたナプキンを執事に押し付けた。


「殿下。申し上げます。アルフレッド殿下はもうご就寝になっております」


 執事と会話しているのに家令が口を挟んだ。


 白々しい。

 銀髪のかつらを被って赤毛を隠し、顔の印象が残らない程度の認識疎外の魔法をかけたくらいで、アルフレッドが入れ変わっていることに気が付かない方がおかしい。


 つまり、この離宮に勤めている従業員たちはそんな魔法に誤魔化されるボンクラか、仕掛けた側室に買収されているか、見て見ぬふりをしているかの三択だ。


 入れ替わりが決行された日に私と共に行動していた執事が小さく首を横に振った。

 わかっている。

 問いただすのは今じゃない。


 王太子離宮を取り仕切る家令は私の兄が王太子だった頃からの()()()()()で私の忠臣ではない。

 共に死線をくぐり抜けてきた幼馴染の()()()()以外、この離宮で信用できる人物はいない。

 ……いや、東棟の亡き妻の連れてきた臣下だけは例外だ。


 家令がありえないほど仕事を引き受けるからこんな真夜中に食事をとる羽目になっているのだ、と怒りの方向性を変える。


 裏切り者は家令ではない。こいつは国王である父に忠心を尽くしているだけで、王太子なら昼夜を問はず国王陛下のために働くものだ、と考えているだけだ。


 兄が王太子だった頃のように、私を補佐する人物などいないのにな!


 我妻メリーアンが亡くなって早半年。

 彼女は私に本当の愛を与えてくれたただ一人の女性だ。

 瞼を閉じれば彼女の笑顔が浮かび、私はやれる、と信じることができる。


 彼女は我がシャオ王国とは国の規模が全く違う大国ラウンドール王国の王女で、メリーアン王女に見初められた私は、本来なら婿入りして彼女がラウンドール王国で女公爵の爵位を相続し、私は公爵の配偶者として彼女を支えるはずだった。

 

 私と彼女の人生が狂ったのは、私の父、シャオ王国国王が強欲すぎたせいだ。

 


 

 父は、国王の長男、私の兄の立太子の儀を済ませると、第二皇子の私が兄の地位を脅かさないよう、(よわい)13歳の私を東方連合国の援軍の将に据えて、私を激戦地に送った。


 父の兄弟が生きのこっていないのはこういったやり方で自分が国王の座に就いたからだ。


 私は死地の戦場に送り込まれたが、劣勢を覆すきっかけとなり、結果、圧勝して帰国してしまった。


 帰国したら、私の立場は微妙になった。

 シャオ王国国内は兄が皇太子としての地位を固め、国内最大派閥の長の娘と婚約していた。

 だが、東方連合国全体でみると、王太子の兄の内政の実績より、東方連合国の安寧を守った私の方がシャオ王国の英雄だった。


 私に留学を勧めたのは先代の東の魔女だった。


『貴方は東の砦を護る一族の末裔です。留学して見識を広め帰国したら東の砦に入ればいい』


 東の砦とは、世界の護りの結界の東西南北の要の一つで、神罰の時代にも世界の護りの結界を維持した大切な砦だ。

 東方連合国はこの東の砦を護る一族の子孫達の国々で構成されており、砦の守護者は東方連合国諸国の中から魔力量が多く人徳のある人物が選ばれる。


 シャオ王国で兄の後ろ盾の派閥の関係者から命を狙われるくらいなら、東の砦の守護者になれずとも東の砦で働くのも悪くない、と当時の私は考えた。


 国内にいては揉め事の種になる私が東の砦の守護者になれば内政が安定し、かつ東方連合国でのシャオ王国の地位向上になる、と考えた父は私の留学を認めた。


 留学先の魔法学校でラウンドール王国からの留学生だったメリーアンの目に留まったのは、私が東方連合国の英雄と謳われていたからだ。


 彼女は北の砦を護る一族と縁を結ぶことを親族から求められていたが、北の砦を護る一族の王子はすでに婚約者がいたのだ。

 側室として北の砦を護る一族と縁を結ぶことに抵抗があったメリーアンが年度の途中に転入した東の砦を護る一族の末裔の英雄の私に興味を示したのは当然の事だった。


 魔法学校内を案内する、と申し出たメリーアンは私が出会った女性の中で誰よりも美しく、言葉を交わせば聡明で、私はたちまち彼女の虜になった。


『私も殿下をお慕いしております』


 求愛した私にメリーアンが答えてくれた時は、今が幸せの絶頂かと思うほどの多好感に包まれた。


『私は東の小国の第二皇子にすぎません。帰国したら世界の東の果てで東方連合国のために祈りを捧げる人生です。大国ラウンドール王国のお姫様を東の端に攫ってしまう事をラウンドール王国国王陛下はお認めにならないでしょう』


 私がメリーアンに現実を告げると、メリーアンは鈴を転がすようなきれいな声で笑った。


『殿下がシャオ王国第二皇子の地位を捨てて私の国に婿入りしてくださればいいのです』


 ラウンドール王国国王陛下は北の砦の守りの一族の王子が王女の伴侶にふさわしくなかったら、王女に公爵家を引き継がせ国内に留めておく予定だったのだ。


 魔法学校の長期休暇に二人でラウンドール王国に訪れ、内々で国王陛下御夫妻と謁見し、二人の交際を認めてもらった。


 メリーアンは結婚への課題として公爵領の守りの結界の強化する魔法陣の製作を命じられ卒業までに完成させた。

 私は魔法学校の単位取得を早め、東の砦の研究員として三年ほど東の砦に勤務し、留学費用の奨学金の返済に充てた。


 二人で順調に婚姻に向けて動いていたのに、強欲な父がしゃしゃり出てきた。


 十三歳の私にわずか三十人の兵を与えてを劣勢だった東方連合国の激戦地に、犬死するにしても何らかの役に立て、と言って送り込んだくせに、私が大国の公爵伴侶として婿に行くことに父は反対した。


『次男というものは長男のために死ぬために生まれてきたのだ』

『生きて帰ってきたのなら、長男のためにシャオ王国の役に立つよう東の砦に籠もれ!』


 私と顔を合わせるたび、そんなことしか言わなかった兄を停戦協定が済んだ元戦地に警備責任者として派遣し、ろくな武勲がない、と父は言い捨てて、兄から王太子の座を剥奪していた。


 私を王太子の座に引き上げた父は、将来の王妃の座を約束するからメリーアンを嫁によこせ、とラウンドール王国国王陛下と交渉をしたのだ。


 結果は、ラウンドール国王陛下の方が一枚上手だった。


 メリーアンがシャオ王国に嫁いでも生まれてくる子ども達の国籍をラウンドール王国に所属できるように父に要求した。

 私に側室をあてがう腹積もりの父はその理不尽な要求を簡単に受け入れた。


 ……お前がシャオ王国の王族を減らし続けたせいで、シャオ王国の守りの結界を維持する魔力がギリギリな状態なのに、大国から迎え入れる王女の子ども達の親権を放棄する契約にサインなどするな!


 当時、まだ東の砦に籠もっていた私のあずかり知らないところで、大事な話し合いが成されてしまったのだ。


 全てが内定してからラウンドール王国国王陛下は私を教会の転移魔法を利用してラウンドール王国に呼び寄せた。


 婚約内定が破棄されたわけではないことは朗報だったが、国内を把握していない私がいつの間にか王太子になっていた状況は、マズいな、としか言いようがなかった。


『シャオ王国国内の内部調査は済んでいる。メリーアンを嫁がせるにはいささか内情が安定していない』


 王太子に即位したとはいえ、シャオ王国国内はいまだ兄を支持する派閥が最大勢力で、メリーアンが嫁いだとしても歓迎されない事を、ラウンドール王国国王陛下は指摘した。


 国を出れば関係ない、とシャオ王国の状況を放置していた己の不甲斐なさに胸の奥がグッと重くなった。


『それでも、メリーアンは君との婚姻を希望している』


 私は彼女の気持ちを知れた喜びで喉の奥から上がってくる声をぐっと飲み込むと、ラウンドール王国国王陛下は咳払いをした。


『……メリーアンは愚かだ。君と結婚するために、禁忌の魔法に手を出した……』 

 

 胸を押しつぶす苦しさがこみ上げた私は、ただ息をのんでラウンドール王国国王陛下の言葉の続きを聞くことしかできなかった。


『ああ、禁忌の神にまつわることではない。課題であった守りの魔法陣を仕上げるための研究で儂の妻の実家の禁忌魔法に触れてしまった。メリーアンは三十歳まで生きることはないだろう』


 ラウンドール王国国王陛下は、メリーアンがシャオ王国で幸せを手にするために寿命を短くする魔法に手を出した、と説明した。


 それは神罰が下る魔法ではなく、(まじな)いの代償として命を差し出すものだった。


『……彼女はもうそれを実行してしまったのですね』


 ラウンドール王国国王陛下は私の言葉に頷いた。


『娘は命がけで君と結ばれることを選んだ。私はどんなにシャオ王国が遠い国で、過酷な状況であれ、メリーアンを送り出さなければならない。君は約束してほしい。娘の、メリーアンの愛を受取るにふさわしい男であると、誓ってくれ』


 父に無茶を突きつけたラウンドール王国国王陛下は、私には誠実さだけを求めた。


『はい。私はメリーアンに誠実であることを誓います』


 私は父が側室を用意してもメリーアンだけを愛する事を神々に誓った。





「よい、それでも行く。子ども達の寝顔を見るのは父の楽しみだ」


 メイドたちが子ども達部屋の護衛たちに先ぶれを出しに行く。


 メリーアンとの婚姻後、半年もたたずに押し付けられた側室とはともに夜を過ごした事がないのに、アルフレッドの誕生の半年後に側室は男児を生んだ。


 真っ赤な髪に翡翠色の瞳の男児は兄にそっくりだった。


 まあ、父にとっては本命だった跡取りの息子の息子なのだから、この状況は都合がいいのだろう。


 私はメリーアンに誓ったことを実行するだけだ。


『生まれた子どもに罪はありません』


 彼女はそういったのだ。


 私の子どもはアルフレッドとメラニーの二人、そして、預かりっ子が一人。


 私は適切な時期に預かりっ子を親元に返す。

 

 郭公(カッコウ)の子どもを育てる。


 それが、メリーアンとの約束だからだ。

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