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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占
第一章 僕と最強の護衛

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28 最強の護衛を復活させよう!

 上級精霊様から得た情報を淡々と説明すると、トニーとシーナは落ち着きを取り戻した。

 

 太陽柱から過去の情報を得たのか精霊達がシーナの周りで二回点滅した。


「現役の東の魔女は東方連合国近辺から移動したことがない、と精霊達が確認したわ」


「現役の東の魔女?」

 

 引退した東の魔女とか東の魔女候補とかたくさんいるのだろうか?


「東の魔女は輪番制なの。東の砦を護る守護者を守る役割で、守護者の世代交代に合わせてお当番も変わるのよ。現役の東の魔女は本物の精霊使いだけど、緑の一族のように世界中を転々とするわけではないから行動範囲が限られているようね」


「なるほど。いきなり東の魔女が転移してくる可能性はほとんだないのか」


「他の精霊達の助力があれば行ったことのない場所にも転移できるらしいけれど、今のところ、精霊達の救世主候補のアルを害する可能性がある東の魔女に精霊達が力を貸すことはなさそうね」


「シャオ王国の王太子がシャオ王国国内の派閥を掌握し、アルの身の安全が確保できる状況なら精霊達が協力する可能性があるのかい?」


 トニーはいきなり東の魔女に背後を取られることを警戒したのか、慎重にシーナから情報を聞き出した。


「その時は東の魔女に捕まって、ちゃんと父上と話し合うよ。上級精霊様の見立てでは僕は父に愛されているらしいし、太陽柱の映像を見た僕はいつかはちゃんと父上と向き合わなければいけないと思うようになったんだ」


 僕の言葉にトニーは複雑そうな表情になった。


「離宮を脱出してよかったよ。母の遺言に従って即座に決断してくれた、トニーとアデルに感謝している。あのまま離宮で父の帰国を待っていたら、たぶん、僕は死んでいた」


 太陽柱に無数にある映像の中で鮮明な色としか認識できなかった光の粒がいくつもあった。

 綺麗だけど直視できなかった。

 すぐに他の色っぽい映像に気を取られてしまったが、なんとなく心にざわつく澱をのこしたあれが僕の死にまつわる映像だったような気がしてならない。


 僕の掌に集まる精霊達が淡く光った。

 脳内に母がメラニーを抱いて微笑んでいる映像がよぎった。


 ああ、ありがとう。

 こうして時々母の映像が見られるなら、僕はずっと母の顔を忘れずにいられる。


「側室の実家は、側室の先走った行動を正当化するために意地になって、子どもの入れ替えを強行しただろうね。それだけ奴らは躍起になっているけれど、しょせん王太子に泳がされている。シャオ王国のことはシャオ王国の連中が何とかする」


「それじゃあ、気を付けるべきなのは……」

「押しかけてくる精霊達をどうするかだね」


 トニーとシーナは、旅程の変更より僕の呪文の制御が問題だ、と言いたげに僕を見た。


「ただでさえ精霊達をぞろぞろ引き連れているのに、ここらあたりの精霊達が上級精霊の魔法の残滓を感じて集まってきている」


「精霊達は何らかの要求があるのか、それともただ見物に来ているだけなのか?」


 トニーは姿を消しているここらあたりに元々いる精霊達を警戒するようにキョロキョロした。


「この子達は、……ただの様子見だね。領主一族までいたずらの余波が及ばなかったことに多少の不満があるようだが、そこまで人間に興味を持っていない連中が多い」


 シーナの説明にトニーはあからさまにホッとしたように肩を下げた。


「森に来ないか、と誘っている。アルの呪文の練習に付き合ってもいい、と言う精霊がいたよ」


 シーナはそう言うとポケットから地図を出した。


「この街道の右側は緩やかな傾斜になっていて、ここら辺りに沢がある。沢沿いを歩けばこの先で街道に合流できるらしい」


「魔獣の生態系は?」


「問題ない。この先の森の主みたいな魔獣が許可を出している。精霊達に沢の近辺を守らせるようだ。私達が森の奥に侵入しなければ魔獣は襲ってこない」


「それなら、このまま街道を移動するより沢に出た方がいいな」


「そうだね。アルの呪文を何とかしなければ、うかうか宿のある町に立ち寄れない」


 野営の装備はあるけれど、町や村の守りの結界のない場所で日没の時刻を迎えると死霊系魔獣に襲われるのだ。

 安全に旅をするためには夜はどこかの集落に入らなければいけない。

 

 現地の精霊達に無茶振りされないように呪文を使いこなす練習をする事が急務だ。


「もうすでに、アルの呪文は精霊達の動きを一瞬だけ止めることができたわね。次の実践は精霊達にアルがイメージした行動をさせてみるといいわ。沢で練習を……」

「アップウ!」


 シーナの言葉が終わる前に、僕は呪文を唱えてしまった。

 いや、だってね。実践あるのみの状況なんだから、やるっきゃないでしょう!


 街道脇の草むらにサワサワと一陣の風が吹き抜けると、草が掻き分けられトンネルのような獣道が出来上がった。


 トニーは僕と獣道を交互に見比べた。


「沢に出るまでの安全なルートを導くようにイメージしたんだけど……。どうかな?」


「精霊達にイメージを伝えるのは上手にできたようだけど、この草のトンネルはアル専用の仕上がりね。私とトニーは四つん這いにならなきゃいけないじゃない!」


「いや、驚いた!足元の凹みが確認できて、危険な植物が除去されているから、これで十分だ。だが、シーナの説明が終わる前に呪文を唱えるのは、魔法を学ぶ態度としてよくない」


 トニーは僕を褒めつつも、いけないところを指摘した。


「待て!ができないのはよくないが、今回に限っては正解だ!早く沢に出て、呪文の精度を上げよう!アップウ!」


 シーナが呪文を唱えると、サーと吹いた一陣の風は木の枝まで払っており、大人が通っても何も服に引っ掛からないような幅になった。


「行くか!」


 トニーは一段低くなっている獣道にジャンプすると、僕に、おいで、と手を差し出した。


 僕は顔の前で人差し指を、チッチと左右に振りトニーに下がるように指示すると、身体強化でジャンプした。


 トニーの胸に向かって飛び込むと、トニーは満面の笑みで僕を受け止めた。


「ついでに体を鍛えてもいいでしょう?」

「だから、相談してからやりなさい!」


 シーナに即座に叱られた。


「あー。相談していいかな?」


 トニーはジャンプで追いついたシーナに尋ねた。


「いいよ。やってみたらいい。精霊達は試してみればいい、と囃し立てている」


 シーナはトニーの相談の内容を聞きもしないで即答した。


「アップウ!」


 なんだ、トニーも呪文を試してみたかったのか!

 トニーは呪文を唱えるとすぐさま股間を押さえて跪いた。


「アップウ!」


 シーナが呪文を唱えると、僕達が通り過ぎた後の草むらが元通りになり、トニーは股間を押さえる手を放して立ち上がった。


 トニーの呪文はトニーの体に何らかの作用をもたらしたのか!

 トニーのトニーはどうなったんだ!

 ひょっとして、少しでもむっくりしたのだろうか?


 シーナは静かに肩を揺すっている。


「あー、びっくりした!いきなり股間を握りつぶすような圧を感じると、魔力が股間から吸い取られたんだ!」


「股間を握りつぶすなんて!」


 僕が痛さを想像して顔を歪めると、シーナは首を横に振った。


「いや、物理的にブツを握りつぶしていないはずだ。精霊達が一斉にそこに集まって圧がかかったように感じただけだ」


「精霊たちが一斉に集まったなんて、もしかして、トニーが股間を押さえなければ股間が光っていたのが見れたのか!」


 R18の漫画の白抜きみたいにトニーの股間が光ったのなら見てみたかったなぁ。


「あのねぇ、そこに着目するのかぁ。いやぁ、そうだね。うん。その疑問も少しはわかる。祭壇ほどではないけれど、光っていたらしいよ。フフ……フハハハハ」


 シーナは体を丸めて笑い出した。精霊達から詳細な説明を聞いたんだろう。

 

「俺の魔力を使用して精霊魔法を行使するにしても、何で股間に集まるんだ!」


「トニーは呪文を発動できるほど神々の覚え目出たいわけではない。それでも、トニーを好む精霊達が結構いて、トニーに力を貸したがった。トニーを慕っていた精霊達がトニーの魔法に介入する時はいつもそこから魔力を盗用していたから、どうにも真似しちゃったみたいだね」


 こんな結末になる事を知っていてトニーに呪文を試すように勧めたのだとしたら、シーナは性格が悪い、と思ったが、精霊達が素直に顛末をシーナに伝えていない可能性があるな。


「じゃあ、俺は呪文を発動させたのではなく、精霊達が精霊魔法を使おうとしただけなんだな」


「ああ、そうだよ。でも、今の行動で可能性が広がった」


「「可能性?」」


 僕とトニーの声が揃った。


「ああ。トニーの最強魔法はトニーを慕う精霊達が干渉していた。この子達はまだ若く精霊魔法の加減がわからない。ただ、このままアルが呪文で精霊達を従わせ精霊魔法を行使する練習に巻き込まれていたら、トニーを慕う精霊達も精霊魔法が上達するだろう」


 シーナの説明に僕とトニーの周りの精霊達が期待をするように淡い光を点滅させた。


「トニーも呪文で魔法を行使する練習に付き添うことで呪文の本質を理解する可能性がある。アップウの呪文ではなく、トニーはトニーの言葉でトニーを慕う精霊達の協力を得られるようになるかもしれない」


「なるほどな。精霊使いとは言えないけれど、精霊達が協力してくれる魔法、と言うやつだな」


 シーナが頷く前に精霊たちが一斉に淡く二回点滅した。


「アルとトニーの側にいる精霊達はそもそも君達の意に沿う行動をしがちだ。さあ、沢に行って野生の精霊達を従わせるように練習しよう」


 シーナの言葉に反応した精霊達はせかすように淡い光を素早く点滅した。


「魔力枯渇に気を付けるんだぞ!」


 沢に向かって身体強化で歩き出した僕にトニーが声をかけた。


「心配いらん。トニーの魔力を使用するから、遮断している魔力漏れを緩めてくれ」


 シーナの言葉に、そうか、とトニーは苦笑した。


 大きな魔力電池のようなトニーがいるならたくさん練習できそうだ。


 僕は期待の籠もった眼差しでトニーを見つめると、トニーは笑顔で頷いた。



 こうして、僕は最強の護衛を最強にすべく最強の護衛の魔力を使って精霊達を制御する呪文の練習を始めたのだった。


第一部 完です!


明日以降、閑話を挟んで第二部の連載を始めます!


今後ともよろしくお願いいたします。

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