27 太陽柱
僕が生き残るために呪文を使いこなせるようにならなくてはいけない。
けれど、教会関係者に見つかってはいけない。
宿のある規模の町だとだいたい教会がある。呪文を使うところを人に見られてはいけないから気を使うことになるな。
「シーナが呪文を開発する前に戻れたらな……」
こんな面倒なことにならなかったのに、と言葉を続けようとしたら、上級精霊様が声を重ねた。
「神々は寄進された水飴をたいそうお喜びになられた」
祭壇が光る前より先に戻ってしまうと、神々に水飴を寄進しないことになってしまう。一度神々に差し上げた水飴を返せだなんてとても言えない。
僕が呪文を使いこなして、押し掛けてくる精霊達を蹴散らせるようにならなくてはいけないのか。
「人里離れたところでシーナに教えを乞えばいい。本当は詠唱魔法の基礎を学ぶのが効率がいいのだが、そうなるとアルフレッドが教会で誓約する必要がある」
「教会関係者を避けなくてはならないのに、教会で誓約しなければならないのですか!」
僕の突っ込みに上級精霊様は頷いた。
「だから、効率が悪くてもシーナから実践で学ぶしかない」
「わかりました」
神妙な顔で僕が頷くと上級精霊は笑みを見せた。
「東の魔女は精霊使いだから、アルフレッド達の行動は筒抜けだ。それでも、奴が転移魔法で追ってこないのは、中級精霊では行ったことのない場所には移動できないからだ」
シーナが僕とトニーの背後にいきなり現れたのは上級精霊様の転移魔法だからできたのか。
「そうですか。今のところ東の魔女が訪れたことのない地域を移動していたから、捕まらなかっただけだったのですね」
ここでも亡き母に守られたような気がして、ちょっと胸が熱くなった。
「ああ。生地の素材の生産地ばかりに立ち寄っていたのが功を奏したようだ」
東の魔女は着道楽ではないんだな。
「このまま、母上が旅をしたかった地域を訪れるようにすれば、東の魔女から逃れられますか?」
「いや、アルフレッドの父がアルフレッド達が立ち寄りそうな場所を洗い出している」
両親はラブラブカップルだったのだから、母の計画した旅程を父が推測できるのは当然か……。
「このまま予定通り旅をしたら、いずれ先回りされるのですね」
上級精霊は頷いた。
「わかりました。旅程はトニーとシーナに相談して考え直します」
「アルフレッド。アップウの呪文を使いこなせるようになると、選択できる方法がかなり広がる。未来は限りなく無数にあるのだ」
上級精霊はそう言うと、僕の背後を指さした。
振り返ると真っ白い空間のずっと奥に光の柱が一本立っていた。
上級精霊が僕の背中に触れると僕達は光りの柱のそばに立っていた。
光の柱はとても大きく、どこまでも高く続いていた。
直視できないほどの眩しさではなく、米粒よりも小さな光の粒が集まった柱は、一つ一つの粒が穏やかな輝きで様々な色を放っていた。
「太陽柱、と呼ばれるこの光の柱は、光の粒の集合体で一つ一つの光の粒に映像が映っている」
上級精霊の説明に僕は目を細めて光りの粒を凝視した。
あっ!メラニーに離乳食を上げるアデルの映像がある!
メラニーは艶々なほっぺを上げいて、とても元気そうだ。
「これだけたくさんの映像があっても、自分が気にかけている事しか目に入らないだろう?」
上級精霊の言葉に僕は頷いた。
僕の身代わりに金髪のカツラを被って不機嫌そうな表情をしている弟、いや、従弟とか、石造りの牢屋みたいな部屋で簡素なベッドに腰を掛けている父の側室の映像に目が行ってしまう。
「上に広がっている映像が未来に起こりうるかもしれない映像で、下に続いているのが過去に起こった出来事の映像だ」
首を上げて光りの粒を見つめると、父が僕を抱き寄せて涙ぐんでいる映像や、大きなお胸の女性達が左右からトニーに迫っている映像もあった!
これが、僕の選択次第で起きるかもしれない出来事。
下を向くと足元の下まで続く光の粒の中に赤ん坊のころの僕を抱く母を優しく見つめる父の映像や、父の側室が元王太子の伯父と思われる赤毛の男性と天蓋付きのベッドでにゃんにゃんしている映像もあった。
上級精霊が咳払いをした。
はい、そうですね。
ほとんどが天蓋で隠れているといっても、子どもが見ていい映像ではありません。
「精霊達はこの映像の中から自分たちが見える映像を理解するので、情報が偏ってしまうのですね」
「ああ。中級精霊でも本当に必要な情報を精査するのは難しい」
「僕は父上や東の魔女に捕まらずに旅を続けることができるのですね」
頷いた上級精霊様の視線の先に、僕の祖母と思われる銀髪の美しいドレスを着た女性に抱きしめられている僕の映像があった。
無事にラウンドール王国に到着できる未来がある。
「諦めずに、常に生きのこることを意識しなさい」
「はい!」
元気よく返事をすると、僕は眩い閃光に包まれていた。
「アルは素直すぎるから、精霊たちを統べる神様にお願いしたらどうにかなる、なんて考えたんでしょう!」
「まあ、そうなんだけど……。上級精霊様は魔獣みたいなものだと言っていたよ」
シーナのこめかみがピクピクと動いた。
「ああ!何てことでしょう!アルは上級精霊様の亜空間に招待されたのね!」
シーナが僕に詰め寄ると、膝をついていたトニーが立ち上がり僕とシーナの間に割って入った。
「ちょっと待った!いったい、アルがいつ、上級精霊の亜空間に行ったんだ!」
「「今さっき!」」
僕とシーナの声が揃った。
「上級精霊様は時間を操れるのよ!」
ついさっきまで同じ時間帯をループしていたシーナの言葉に、ああそうか、とトニーは頷いた。
「上級精霊様に真っ白な亜空間に招待されて、僕がきちんと呪文を使いこなせるようにシーナに教えを乞いなさい、と言われたよ」
「呪文を使うな、とは言われなかったのね」
シーナが僕に確認するとトニーは真顔になった。
「うん。ちゃんと呪文を使いこなせるようにならないと、これから、助けを求めて押し掛けてくる精霊達を追い払えなくて困るんだって」
トニーはあんぐりと口を開け、何か言いたそうに口をパクパクさせた。
「チッ!結果的にあの町の精霊達を助けたことになってしまったのね」
状況を理解したシーナは、行く先々で精霊達に頼みごとをされる、とトニーに説明をした。
「教会関係者を避けて、人里から離れて練習すればいいらしいよ。後、父上が東の魔女に僕の捜索を依頼したらしい……」
トニーだけでなくシーナも天を仰いで頭を抱えた。




